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ガルドラ龍神伝―闇龍編―  作者: 水沢らくあ
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最後の龍戦士、その1―金龍族の少女達と召喚獣―

雷龍族の里であるゲルデナの街の神殿で、ペレデイスは新たな雷龍戦士として目覚めた。最後の龍戦士を捜し、リタ達はペレデイスと共にメルディーンに向かうことになった。まだ完全に認めている、というわけではないが、両親は族長同様、ペレデイスが短期間の旅に出ることを許した。


 ゲルデナから北に三十キロ行った先に、メルディーンという町はある。


 メルディーン――


 そこは金龍族の民が住み、鉱業が盛んな鉱山付近の町。その町の鉱業はフィブラス、ポラテルド、レザンドニウムの三ヶ国を始めとして、ガルドラ全域にまで発展している。また、金属の少ない水の都アヌテラに金を無償で提供している町でもある。


 町が見えるほど近くなった頃、召喚獣に襲われている少女が一人――いや、二人いた。一人は拳を固く握り、もう一人は召喚獣に対して臆病になっていた。


「大変だ!」


 ペレデイスの慌てた声を合図にして、リタ達はその少女達の所まで走って行く。


「ス、スーザン……。本当に、大丈夫なの?」


 スーザンと呼ばれた少女は、先程から長い時間戦っているせいか、疲れを見せている。


「大丈夫よ。私は、そんなに柔な女じゃないわ」


 一見穏やかそうに見える橙色の目で、スーザンはまっすぐに召喚獣を捉える。


「なかなか、威勢の良い女金龍だ。だが、どっちにしろ、あの金塊は頂くからな」


 召喚獣は鋭い牙を、スーザンと彼女の隣にいる少女に向ける。それにも負けず、彼女は言い返す。


「冗談じゃないわ! 《聖なる金塊》は、魔道族の物じゃない。あれは、《金龍神レグルス》への捧げ物よ!」


 そう言い放つとスーザンは、召喚獣に向けて突進した。だが、その快進撃も虚しく、スーザンは彼に弾かれ、地面に仰向けになって倒れてしまう。


「まだよ。《聖なる金塊》を、キアに渡してたまるものですか……」


 瀕死の状態になっても、スーザンは強い気持ちを捨てない。召喚獣の爪から、砂の魔力が沸き立つように出ている。彼はスーザンに留目を刺そうと、彼女に近づく。


 その時、水を含んだ球体のような物が、砂属性の召喚獣の急所に当たった。後からリタ達がスーザンと少女の傍に駆け寄り、彼女達の様子を見る。


「大丈夫か?」


 ペレデイスが、スーザンの体をそっと起こして言った。スーザンは、顔を赤らめる。


「ありがとう。それより、あの召喚獣を倒さなきゃ」


 スーザンは頑張って起き上がろうとするが、先程受けた傷が予想以上に深く、彼女は立っているのもやっとだった。


「無理するな。後は俺達に任せろ」


 そう言うとペレデイスは、スーザンが礼を言う間もなく、鎖鎌を構えて、召喚獣の方に向かう。召喚獣が繰り出す砂の魔法は、ナンシーを包み込むように襲いかかる。彼女は砂地獄に閉じ込められ、斧を投げることすら困難な状態になった。


 召喚獣はスーザンの代わりにナンシーを食べようと、生まれ持っての鋭い牙を彼女に向ける。


 リタは急いで召喚獣の背後に回り、そのまま頭上までジャンプした。そして、爪で半ば突き刺すようにバリッ、と引っ掻く。痛みを堪えきれなかった召喚獣は、もがき苦しみ、そのまま倒れた。彼が倒れると、自然とナンシーを閉じ込めていた砂地獄は消えている。戦いが終わると、先程の二人の少女が四人の所に駆け寄る。


「ありがとうございます。助けて下さったうえに、召喚獣を倒して頂いて。もう、なんとお礼を申し上げて良いか。紹介が遅れましたね。私は金龍族のスーザン。そしてこちらが、友達のパーリーです」


 茶色の鬣を二本に分けて結っている金龍族の少女が、お辞儀をしてリタ達に礼を言った。


「お礼なんて良いよ。私は砂龍族のリタ。そして、仲間の水龍族のヨゼフ、火龍族のナンシー、雷龍族のペレデイス」


 リタは、スーザンとパーリーという少女達に、自分の仲間達を紹介した。


「さっき私達を助けてくれたお礼に、町を案内します」


「敬語なんていらないよ、スーザン。僕達はもう、友達なんだから」


 ヨゼフが注意するように言った。それに対し、スーザンははにかみながらクスッと笑う。


「へへ、それもそうね。じゃあ、まずは族長であるオルファニス様の家から案内するね」


 そう言って、スーザンはリタ達を、メルディーンに案内する。彼女達が族長の家に向かっている途中、パーリーがリタの肩を指でつついた。


「どうしたの、パーリー」


 にやにやとしているパーリーを見て、リタは訪ねる。


「実はね……」


 そう言うと、パーリーはリタの耳元で囁くように続ける。彼女の話によれば、スーザンは《オルファニス》という金龍族の族長の姪なのだという。それを聞いてリタは一瞬、目を丸くした。が、その時の表情の雰囲気から、彼女は内心では驚いていない、という風にパーリーにはとれた。


(それが事実だとしても、私は驚かない。私は砂龍族の王の一人娘だし。それに、この町に来た本来の目的は、族長の姪がどうとかではなく、《最後の龍戦士》を捜すことだ)


 リタは、今回の目的を忘れはしなかった。パーリーは、不満げな顔をする。しばらく歩くと、目の前にしっかりとした構造の家が一軒見えた。それは家、というより、一種の屋敷のようにしか見えない。黒く高い柵のような戸に、広々とした庭。その風景は、貴族が三、四人住んでいるかのような雰囲気を醸し出している。だが実際は、族長夫妻とその子供、彼らに仕える召使いやメイド達が暮らしているだけだ、とスーザンは細かく説明した。


 六人がしばらく家を眺めていると、四十代後半くらいと思われる金龍族の男性が、少年を連れて戻って来た。


「お帰り、伯父様。相変わらずそのつんつんヘアー、直ってないわね」


 スーザンは男性のことを《伯父様》と呼び、彼の角のようにはねている鬣を指摘する。本人は全く気にせず、「今日は来客が多いな」と言った。彼に対し、リタはお辞儀をして、自己紹介をした。


「私は砂龍族のリタです。こちらは水龍族のヨゼフ、火龍族のナンシー、そして雷龍族のペレデイスです」


 リタが簡単な紹介を済ますと、今度は男性と少年がお辞儀をする。


「私はオルファニス。この一族の族長だ。そして、こちらは息子のディート」


「よろしくな」


 オルファニスという族長の紹介に続き、ディートという少年は、リタ達に一声かける。ふと、疑問に思ったことを、ヨゼフはオルファニス族長に聞いた。


「あの、先程スーザンがあなたのことを《伯父様》と呼びましたが、それってどういうことですか?」


 それを聞いて族長は微笑を浮かべ、スーザンが私の姪だからだ、と答えた。意外な事実を耳にし、リタやパーリー以外の全員が目を丸くした。


(ということは、ディートはスーザンの従兄にあたるってこと?)


 ナンシーは半ば混乱しながらも、頭の中で話を整理した。


 六人は、族長の屋敷に案内された。屋敷、といっても中は、それほど広くはない。だが、少なくとも、フィブラスの砂龍城やマライテスの華龍族族長の屋敷くらいの広さはある。豪華なテーブルや綺麗に磨かれた床や壁、更にはディート愛用の鍋まであった。


(流石族長……。ラノア族長が娘のためにいろいろな物を買ってあった理由が、今になってよくわかったわ)


 リタ達が旅の目的を話そうとする頃には、もう日が沈みかけていた。その様子を見てスーザンは、明日の朝に族長邸の前に集合し、そこから金龍神レグルスの神殿に向かうことを勧めた。その意見には、四人とも同意する。


 パーリーとディートが忠告するように、「気をつけて」と言った。


(確かに、スーザンの言う通りにした方が良いのかもしれない。もう日が暮れるし、門の前で召喚獣と戦ったし)


 リタがそのようなことを考えていると、ガルドラの伝書鳩が、何通か手紙を運んできた。まるで、彼女が今、メルディーンにいることを知っているかのように。その手紙は五通。全て、リタ宛ての物だった。


 彼女は早速、そのうちの黄緑色の封筒を見てみた。差出人の名前を見ると、《葉龍族のヒア》と書かれている。リタは人差し指の爪で、器用に封を開ける。


『親愛なる友、砂龍族のリタ姫――


 俺達が樹海で再会してから、早三週間。あれから、順調に龍戦士達を目覚めさせ、《最後の龍戦士》がいる場所に着いている頃だと思う。明日には俺達全員で、フィブラスに行けることを心待ちにしている。明日、グロッディオス島の南端にある停船場で、合流しよう。――葉龍戦士ヒア


 追伸 ヨゼフに伝えてほしい。《あまり甘い物を食べてると、太るし、体にも悪いぞ》と」


 ヒアの手紙は若干長い文だったけれど、仲間に対する気持ちが、痛いほど伝わってくる、とリタは思った。リタは早速、ヨゼフに手紙の追伸にあったことを伝えた。


「ヨゼフ、ヒアから伝言。『あまり甘い物を食べてると、太るし、体にも悪いぞ』だってさ」


 彼女はヨゼフにも、先程の手紙を見せる。それを見た時、彼は舌打ちした。


(ヒア、また余計なことを……)


 ヨゼフは、意地を張る。そのまま、彼はトイレに向かう。だが、ディートが彼に注意する。


「どこに行くんだ、ちび。トイレはそっちじゃなくて、向こうだぞ」


 《ちび》という言葉がかんに障ったのか、ヨゼフは半ば怒り気味に「ありがとう!」と言った。


「何だよ、折角親切に言ってあげてるのに!」


 ディートは、怪訝な顔をする。それをリタが、上手に説明する。


「違うよ。ヨゼフはさっきあなたが《ちび》って言ったから、それに不機嫌になってるのさ。彼は、背が低いことを気にしてるからね」


 二人の会話に、オルファニス族長が口を挟む。


「ということだ、ディート。これからは、言葉を選ぼうな」


 陽気に振舞う族長の笑顔が、溢れている。その笑顔は、息子にとっては時として癪に障るものである、とリタは思った。


 数秒後、ヨゼフがトイレから戻って来た。


「よし、それじゃあ、今からこの町ですることを決めていこう」


 リタの意見に従い、夕食をとりながら会議する。夕食をとりながらの作戦会議は、これがはじめてだ、とリタは思った。先に話を切り出したのは、ナンシーだった。


「一つ提案があるんだけど、明日の冒険には、スーザンも連れて行かない?」


「え、私?」


 突然話を振られたので、スーザンは戸惑っている。


(どうしよう。あの時はリタ達がいたからなんとかなったけど、今後もそういう風になるかはわからない。私が同行したところで、彼女達の足手まといになるだけよ)


 スーザンは深刻そうな顔をして、そのようなことを考えていた。彼女を励ますため、ペレデイスが声をかける。


「何深刻な顔してんだよ。神殿に行くには、仲間が必要だろう? それに、俺達はもう友達なんだから、《足手まとい》だとか、思わないでほしいな」


 ペレデイスは、一旦言葉を切る。先程彼に言われたことに納得しているのか、スーザンは同行することに決めた。その決意には、皆が安堵の胸を撫で下ろす。


 夕食後、四人の龍戦士はスーザンやパーリーと別れた。リタは寝る前に、ヒア以外の龍戦士からの手紙を読んだ。

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