表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガルドラ龍神伝―闇龍編―  作者: 水沢らくあ
48/77

ゲルデナの雷龍神、その3―雷属性の召喚獣―

赤い雲に覆われていたというだけあって、神殿の中は闇に包まれている。リタは鞄から懐中電灯を取り出し、辺り一面を照らしながら進む。その途中、極小さな声だったが、獣の悲鳴のようなものが聞こえた。そのわりに、爪や頭などで何かを破壊するような音だけは、大きい。それを合図に、リタは奥を目指して走る。


(ヨゼフ達は無事かな? 何事もなく、四人で帰還できると良いんだけど)


 リタは何度も同じ心配をしながら、声のする方向に向かう。その時、彼女の目の前に、緑の縁取りの黒い扉が現れた。その扉の貼り紙には、岩龍女神シトラルの神殿と同じように、《古代ガルドラ文字》が彫られている。貼り紙に並べられている文字を見て、リタは動揺を隠せなかった。彼女は肩で呼吸をしながら、それらを確認するように辿る。


(この古代文字、氷龍神の神殿の時よりも難しい。まるで、一文字一文字がごちゃ混ぜになって並んでるみたいだ。こんな時、ヨゼフがいてくれれば……)


 不得意な分野に出会し、リタは弱音を吐く。その時、リタの後ろ姿が見えたのか、先程彼女が通った方向から、水龍戦士ヨゼフが現れた。


「リタ! 無事だったんだね」


 ヨゼフが、まるで久々に友と再会したかのように言った。彼が来て早々、リタは頼み事をする。


「今、私一人だけで、この貼り紙に書かれてる古代文字を解読しようとしたんだけど、複雑でよくわからないんだ。そこで、君にこの古代文字の解読をお願いしたいんだけど」


 リタは、先程見た貼り紙の方を指差して、言った。ヨゼフは言われた通りに、それを見る。難しそうな顔をして、彼が言う。


「確かに、これは難しいね。ちょっと時間がかかるだろうけど、やってみるよ」


 ヨゼフは、古代文字の複雑な並びに悪戦苦闘しながらも、少しずつ文字を拾っていく。


「ぐるるる……」


「リタ、今、何か言った?」


 ヨゼフが言ったのに対し、リタは首を横に振る。ヨゼフは引き続き、古代文字の解読に集中した。


「わかったよ、リタ。これらの文字は、忠告を促してるんだ」


「忠告? それなら、わざわざ古代文字にしなくても……」


 そう言いかけて、リタは一旦言葉を切る。彼女はふと、二つだけおかしいところがあるのに気づく。一つ目は、先程分かれて行動することになった魔族と、すぐに合流していること。


(この神殿には、出入り口が幾つもあったはず。それなのに、なぜヨゼフとだけ、すぐに会えたの?)


 リタは、思ったよりも早い友との合流を、素直に喜べなかった。むしろ、これには裏がある、と彼女は思った。


 二つ目は、なぜ鳴き声だけが遠くて、爪や頭で物を壊す音が意外と近く聞こえるのかということ。あの音はおそらく、背後から聞こえていたものに違いない。もしそうでなければ、先程の鳴き声が聞こえることも、まずないだろう。リタはこの二つの矛盾点から、妙な鳴き声の主の正体はヨゼフ――いや、彼に化けた召喚獣ではないか、と想像する。彼女は推測を正すため、実際にヨゼフに訪ねる。


「ヨゼフ、君はヨゼフじゃないね?」


 唐突な疑惑を持たれ、ヨゼフはぎょっとする。


「な、何言ってるんだよ。お、俺はヨゼフだよ。友達の言ってることが、信じられないのか?」


 ヨゼフのような魔族は、いつもと違う一人称を使っている。おまけに、言葉の所々に、途切れがあった。この観点から、リタはますます彼に疑惑を感じた。彼女の口から、彼女自身も驚くほどに、ほろほろと本音が出る。


「どうやら、私の言うことが正しいようだね。本当のヨゼフの一人称は俺じゃなくて僕だし、そんなに臆病じゃないし――」


 リタの口から、次々と思い通りの言葉が漏れる。そのような状態に堪えきれなくなったのか、遂に偽者のヨゼフは、正体を明かす。


 彼の正体――


 それは、九年前からこの神殿に棲みついていると思われる召喚獣だった。召喚獣はリタを見ると、すぐに爪で攻撃を仕掛けてきた。彼女は素早く側転で、召喚獣の攻撃をかわす。


「俺の正体を見破ったうえに、軽々と攻撃を避けるとは……。小癪な女砂龍め、返り討ちにしてやる!」


 召喚獣はリタを敵と見なし、無造作に攻撃を繰り出す。だが、それもリタの猫のような動きで全てかわされていく。それを見てリタは、尚も召喚獣をからかいながら、攻撃する隙を窺う。


「君は随分と、動きが遅いんだね。それに、この私に正体を見破られるなんて、どこまで間抜けなの?」


 自分でも驚くほど、いつもと違う態度でリタは戦いに挑む。その時の目は、かつて自分がキアに攫われる前に助けようとしてくれた、父親のランディー王のようだった。常に最後まで諦めずに敵と戦い続けるという意志こそ、父王と似ている証である。


 召喚獣は少々怯んだが、急に笑い始める。その笑い声は、近くにいる魔族の鼓膜はおろか、他の部屋を移動中の魔族達にも強く響いた。


「愚かな砂龍王女よ。仲間がぼろぼろになっても、まだ俺と戦い続けるつもりか?」


「何が言いたい? それは心理作戦で、私の動揺を狙ってるのか?」


 リタは決して、召喚獣の作戦に屈しなかった。更に、彼女は言う。


「それに、ヨゼフやナンシーなら大丈夫さ。今頃はあのやんちゃな雷龍と、合流を果たしてるはずさ」


 リタは右腕に、爪型の武器を装着する。


「ほう、なかなか威勢の良い女だ。だが、お前の友人が、いつまでもつかな?」


 召喚獣の言葉に少々動揺しているものの、リタは迷いを振り切り、召喚獣に向かって突進する。そして、鋭く尖った爪先が、召喚獣の腹に突き刺さる。


 気味の悪い唸り声と、召喚獣の体から漏れ出る血液が、彼の死の雰囲気を醸し出す。リタが爪を引き抜いた後も、その血液が爪をつたって流れている。それを見ているだけで、彼女は気分が悪くなった。


 死を迎えたのか、召喚獣はジュー、という音を立てて溶けていく。


「気味が悪い死に方をするんだね。でも、これも私達に歯向かった罰さ」


 リタは、はなから勝つとわかっていたかのように言った。武器についた血液を綺麗に拭き取り、それをしまう。


(急ごう。ヨゼフ達が心配だ)


 リタは、頭の中ではヨゼフ達の無事を確信していても、心の中では彼らのことが心配になるのだった。


 彼女は急いで、貼り紙がしてある扉を開け、神殿の奥を目指して走る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ