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ガルドラ龍神伝―闇龍編―  作者: 水沢らくあ
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ゲルデナの雷龍神、その2―雷龍族の少年と共に神殿へ―

船内で一夜を沸かし、体調管理や身嗜みを万全にして、三人は船から降りた。彼女達が降りたグロッディオスという名の島は、暗黒に包まれている雰囲気を醸し出している。彼女達が立っている位置から目と鼻の先にある《ゲルデナの街》は、まるで街全体を飲み込もうとしているかのように赤い雲が、上空で渦巻いている。それを見て、三人はぞくっとした。


(こんなところで怯んではいけない。もしここで弱音を吐いてしまえば、キアの思う壺だ)


 リタは自分に言い聞かせ、次に他の二人にも同じことを言い聞かせる。三人の中にも、ようやく冒険者の風格や心構えが身についてきているようだ。新たな試練と謎を求め、リタ達は西へ西へと進む。


 ゲルデナ付近まで来ると、雷が落ちる直前のような音が近くなっていく。三人は気になって、上空を見上げる。そこには、先程遠くから見た赤い雲が、電気を放とうとしていた。


「薄気味悪いね。まるで、何かを飲み込もうとしてるみたいだ」


 ヨゼフは、身震いして言った。それに対し、リタは自分が予想していることを、他の二人に言う。


「これはあくまで私の予想だけど、とてもキアがしてることのようには思えない」


「なぜ、そう言えるの?」


 ナンシーが訪ねた。リタは続けて言う。


「私達が奴隷だった頃を振り返って。キアの配下の魔道師達はみんな、『領主様は九年前まで、偉大でとても優しかった』と言ってたよね?」


「それが?」


「つまり、キアは本音では魔界の支配を望んじゃいないってことさ。きっと、メアリーが言ったように、《暗黒のように黒い石》が、全ての発端なんだと思う」


 曖昧ではあったが、リタは自分の考えを言い切った。ヨゼフやナンシーにも、それには頷ける部分があった。


(以前は優しかったレザンドニウム領主が、いきなり自分の闇の魔力を利用して、魔界ガルドラの支配を暗躍するはずがない。僕達は家族を失ったり、誘拐された怒りで、領主を憎みすぎてたのかも。リタの言うことは、本当かもしれない。でも、そのことを誰が領主の配下達に言えるのか……。今彼女が言ったことは、筋が通ってるし、矛盾も生じてないけど……)


 親友である王女の考えを聞いても、ヨゼフはまだ完全に信じることはできなかった。半信半疑のまま三人は、ゲルデナの街の門をくぐった。


 この街には、ランデス村やマライテス町のように門番となる魔族がいない。だが、その代わりに、神殿前の警備は厳しくなっているだろう。特に今は、十属性の龍魔族と十一属性の魔道族とが対立している最中にあるため、そういうことがあっても不思議ではない。少なくとも、リタはそう思っていた。


 三人は大急ぎで、街の中に入る。だが、目的地に着いた途端に、例の妙な雷雲は、うっすらと消えていた。三人は首を傾げる。


 彼女達が立ち止まっていると、向こう側から、雷模様が入った黒い服を着た龍魔族の少年が現れた。黄色の体や雷模様のように曲がった角などを見る限り、彼もこの街に住む雷龍族ということがわかる。少年は半ば馴れ馴れしく、活気のある声で、リタ達に挨拶をする。


「はじめまして、俺はペレデイス。雷龍族の一人さ」


 ペレデイスと名乗る少年は、地面に丸太を置くと、まるで修行をしたかったと言いたげに、いとも簡単にチョップでそれを割る。丸太は斧を使ったように、真っ二つに割れている。その様子を見ていた三人は、ただ目を丸くするばかり。


「凄い。戦士でもないのに、どうやってこんな力を……」


「いや、俺はただ毎日修行してるだけさ。大したことはないよ」


 ナンシーに煽てられ、ペレデイスははにかんでいる。ふと、ペレデイスははっとして、黄緑色の広告のような紙を、三人に見せた。その紙には、リタ達戦士ともう二人の龍魔族の顔が、指名手配の写真として貼られている。更にそれぞれの顔の下には、賭けられている賞金の額が書かれている。


(何だよ、これ。しかも、僕達やその他の龍戦士達の額が一、十、百、千、万……きゅ、九百万ガルドンだと? キアは、やっぱり腐ってる!)


 これでは、確実に僕達は奴らの賞金首にされてしまう、とヨゼフは思った。一方で、三人は不明な点があることに気づく。


 なぜ、残りの龍戦士達の写真が貼られてるんだろう? そして、魔道族はどうやって、龍戦士全員のことを知ったんだろう? その他にも、数々の疑問が浮かんだが、きりがないので彼女達はこの件については、後回しにすることにした。


「私は砂龍族のリタ。広告を見せてくれて、ありがとう。おかげで、いち早く仲間を捜せそうだよ」


「僕は水龍族のヨゼフ。僕達は十属性の龍戦士と、龍神達の関係性を探るために旅をしてるのさ」


「私は火龍族のナンシー。この街には、《雷龍戦士》と呼ばれる魔族がいると予想して来たんだけど、心当たりはあるかしら?」


 三人は、口々に自己紹介をした。ペレデイスは少し戸惑い気味だったが、ナンシーの質問に答える。その答えは、極めてでたらめなものだった。広告に貼られていた写真と俺の顔が、同じものかもしれない、と彼は言った。その答えを聞いた三人は、ペレデイスをお調子者と判断する。


 その時、また向こう側から、いかにも雷の属性を司る魔族とわかるような服装の男性が現れた。彼の見た目は、三十歳前後と思われた。無神経にもヨゼフが彼の年齢について訪ねると、彼は先日で五十歳になったと明かす。


(五十歳だなんて、信じられない。まるで、ランディー陛下みたい)


 そう思っていたが、ナンシーは失礼にあたると考え、このことについては伏せておくことにした。それは、リタやヨゼフも同じだった。


「自己紹介が遅れた。私はネテリウス。この一族の族長だ」


 紫とビリジアンに別れたチャイナ服のような薄着に身を包んだ男性は、静かに一礼した。ネテリウスと名乗る族長は、先程ペレデイスが割った丸太を見て、大きな溜め息をつく。


「ペレデイス、いつも注意しているはずだ。木を切ってはいかんと。なのに、お前はまた、こんなことを……」


 ネテリウス族長は、酷くがっかりした口調で言った。


(空手の腕は凄いけど、周囲にある木を切ったら、確かにまずいね)


 リタは、先程のネテリウス族長に同感し、頷く。ペレデイスが顔を赤らめると、族長はまた、大きな溜め息をつく。


「私は砂龍族のリタ。この街に来た目的は――」


 リタがゲルデナに来た理由を説明しようとしたが、ネテリウス族長はそれを遮った。


「わかっている。この街の外れにある神殿の存在を、確かめに来たのだろう? ただ、あそこの周辺には今、赤い雲が神を封じるように神殿を覆っている。君達なら大丈夫だと思うが、ペレデイスも連れて行ってやってくれ」


 ネテリウス族長は、信頼しているのかしていないのか、曖昧な態度でリタ達に神殿の調査を依頼する。ペレデイスは首を傾げる。


「なぜ、俺も一緒に? かえって、リタ達の足を引っ張るだけだと思いますが」


 ペレデイスが反対した時、ヨゼフが彼の後ろから肩を叩く。


「『足を引っ張るだけ』だなんて、水臭いこと言うなよ。僕達は今日から仲間。《旅は道連れ世は情け》っていうだろう?」


 ネテリウス族長の指示で、ペレデイスが雷龍神の神殿に同行することになった。


(思わず弾みでヨゼフがペレデイスの同行を受け入れたけど、お調子者がいても、大丈夫なのかな? ただでさえ、似たような傾向の男がいるのに……)


 今回の冒険に、リタは僅かながら不安を感じている。それは、ナンシーも同じだった。


 四人は早速、神殿に行く準備を整える。リタとヨゼフは、自分達が常に装備している武器を磨いた。一方でナンシーは、ペレデイスが荷物を整理するのを手伝っていた。その後はペレデイスの家で昼食をとり、雷龍神の神殿に向けて出発する。出発早々、ナンシーが気になった点を、ペレデイスに訪ねる。


「ねぇ、あなたの荷物はちょっと重たそうだけど、何なに入れたの?」


 遠慮しがちな聞き方をするナンシーに対し、ペレデイスは半ば童心に返ったように答える。


「外出ともなると、おやつが必要だろう? だから、それらとか、雷龍神ハンスに関する資料なども入れておいたんだ」


「……」


 おやつ欲しさなのか、真面目に雷龍神ハンスのことを調べたいのか曖昧だったが、ナンシーはこれ以上は言わないことにした。


 ペレデイスが浮かれている間に、四人は赤い雲に包まれた神殿らしき建物の前に着いた。それを包んでいる雲は、靄のようにも見える。リタは上空から、雲が発生している原因を探ってみる。


(きっと、誰かの悪戯に違いない。そうでなければ、こんな現象は起きやしないさ)


 リタは余裕な態度で構え、雲の発生源に狙いを定める。しばらくして、砂属性の魔法の一つ、《クロス・ヒャッカンタフ》を爪から繰り出す。彼女が放った爪の閃光は、虹色の光へと変わり、赤い雲が諦めたように晴れていく。やがて神殿は、真の姿を見せる。


 リタが地上に降りてから、四人はもう一度、神殿周辺を確認する。それは宮殿のように大きく、広々としている建物だった。更にそれには、たくさんの出入り口がある。それゆえ、下手をすれば迷って出られなくなってしまいそうな雰囲気を醸し出している。


「ここからは、一人ずつで行動して探るというのは、どうかな?」


 幾つもある出入り口を見て、ヨゼフが提案する。


(確かに、この出入り口の数から考えれば、ヨゼフの提案通りにするのが良さそう)


 リタはヨゼフの意見に同意すると言いたげに、静かに頷く。続いて、他の二人も頷く。こうして、四人は別々に行動することになった。


 リタは、そのまま正面の入り口をくぐった。


(まるで、《惑わしの神殿》だな。幾つも入り口をつけるほどのものなのかな?)


 きっと、千五百年前の雷龍族族長デリアムの考えたことだろう、とリタは思った。


(どんな危険が私達を待っていようとも、進むしかない)


 リタは、勇気を持って神殿の奥を目指す。

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