魔界の花園、その2―毒の魔物の正体―
神殿内は、緑豊かだった。草原のように、辺り一面に草木が生え、華龍族の魔族達と協力して、神殿を守っているのではないのかとさえ思える。
(こんなに美しく神秘的な神殿なのに、華龍女神の力が衰えつつあるなんて、信じられない)
あまりにもこの神殿が質素で美しいせいか、リタにはこの町の荒廃が嘘のように思えてならなかった。だが、カリア族長が言ったことが事実なら、尚更この町を守り抜かなければならない。その覚悟を決め、リタ達はサートアンヌの華の在処を突き止めるために進む。
四人が少し進むとそこには、ガーデニングハウスのように蔓が絡みついているドアがあった。ナンシーは、それを得意気に、斧から繰り出す火属性の魔法で燃やしていく。ドアの先の部屋にも、蜘蛛の巣があったり、大きな根が絡みついていたりと、厄介な物がたくさんあった。
リタ達の後ろをついて来るように、ピンク色のマントを羽織った少女が、こそこそしている。
「あれが、キア様が言ってた、《砂龍王女リタ》ね。見た感じ、多少は大人びてて強そうな格好だけど、このウィスパー様の敵じゃないわ」
スパイのようにこそこそと歩きながら少女は、リタの動きを観察している。その時の足音や気配を感じ取っていたものの、リタは特に気にも留めていない。ナンシーやニアロスも、何かが気になるかのように辺りを見回したが、気のせいだと思い、見過ごしていた。
神殿の中央と思われる部屋まで進むと、四つの部屋に通じるドアに遭遇した。リタ達は、それぞれのドアを調べてみた。
「何なに? 『正義の部屋』? 君達が見てるドアは、何て書いてある?」
リタは、離れている仲間全員に聞こえるくらいの声で、叫ぶ。四つのドアについて詳しく書かれた石盤を、リタは見つけた。だが、その石盤の文字は全て、《古代ガルドラ文字》で彫られているため、彼女には読めない。
(あの時は辛うじて読めたけど、あれはヨゼフの古代文字辞典があったからだよ)
リタは顔を赤らめながら、ヨゼフを呼ぶ。
「どうしたの、リタ」
「ヨゼフ、私達の目の前に石盤がある。でも、この文字は、全部古代文字なんだ。だから、解読してくれるかな?」
「お安い御用さ」
古代文字という言葉につられて来たかのように、ヨゼフは古代文字をすらすらと解読していく。
「『この四つの扉に巣くう毒の魔物を、全て排除せよ。さすれば、次の扉を開けん』だってさ」
石盤に記されている《毒の魔物》という言葉に疑問を感じながらも、ヨゼフは簡単に古代文字を解読した。
「凄いな。よくこんな混乱しやすい文字を、読めるね」
ニアロスは、感心していた。ヨゼフは顔を赤らめながら、首を横に振る。
「僕なんて、まだまだだよ。古代文字には、それぞれ読み方に法則があるらしいけどね」
無駄話をしている暇はないと言いたげに、四人は話を切る。
リタとナンシーは石盤から左側の二つのドアを、ヨゼフとニアロスは石盤から右側の二つのドアを開ける。四人は手分けして、石盤にある《毒の魔物》を退治することにしたのだ。
リタが入った部屋は、漆黒といっても過言ではないほど暗い所だった。それにも怯まず、彼女は《毒の魔物》の居場所を探して、ひたすら走る。その気持ちに応えるように、リタの武器である《デュラック・クロー》という爪は、白く光る。その光は、リタを魔物の元へ導こうとしているかのように見えた。奥へ進めば進むほど、リタの気分は悪くなっていく。
(う……。なんだろう、この嫌な匂いは。この奥に、例の魔物がいるというのか?)
リタは警戒しながら爪を構え、いつでも戦える態勢に入る。爪から出る光を頼りに、広間らしき場所を見回す。その時、走っているような素早い足音が、リタの耳に入った。
リタは魔物の気配を感じ取り、ジャンプして、上から引っ掻くように攻撃する。だが、あまりにも彼女の動きが大きいせいか、魔物は軽く攻撃を避けた。
(なんて素早い……。まるで、レザンドニウムの闘技場で戦った、《闇の大蜘蛛》そっくりだ)
リタは、以前飽きるくらいに戦わされてきた、《闇の大蜘蛛》という魔物のことを思い出した。動きが素早く、毒性が強い蜘蛛。この特徴と、今戦っている魔物とを当てはめ、リタは何かに気づく。
(まさか、あの石盤に記されてた《毒の魔物》って、闇の大蜘蛛のことなのか? いや、それはあり得ない。あれは、私達が領国を脱出した日に、倒したはず)
リタは事実に気づいた時、信じられないという顔をした。
(一体だけでも手こずるってのに、キアはこの神殿にも毒を仕込んでたのか)
きっと、マライテスの花園が荒廃しかけているのは、こいつらが原因に違いない、と思いながらリタは、闇の大蜘蛛と戦っている。
(前と違って、あいつの脚を掴む物がない。でも、どこかに大蜘蛛を倒す突破口があるはず)
リタは突破口を求め、辺りを見回す。すると、天井に粘り気のある物がついていることがわかった。リタはわからないままに、爪の手の甲の部分を天井に翳す。すると、爪の光が天井で屈折し、彼女が立っている位置とは反対側に、光が射し込んだ。これを利用し、リタは大蜘蛛がいる位置の反対側に回った。光は、大蜘蛛の背中に当たり、体が燃えていく。
奇声に近い大蜘蛛の悲鳴が、リタにとっては苦痛に聞こえる。大蜘蛛が跡形もなく燃え尽きると、神殿の奥へと続く扉が、ひとりでに開いた。
怪奇現象みたいだな、と思いながらリタは、扉をくぐる。




