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ガルドラ龍神伝―闇龍編―  作者: 水沢らくあ
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魔界の花園、その1―華龍族の女族長―

タハナビ島にある風龍族の里、ランデス村で一夜を沸かしたリタ達は、彼女達を泊めてくれたエアロビ族長とその娘ビオラ、そして風龍族の民全員に見送られ、島を出る。


 この島の一番南に停る船に乗り、三人は次の島に向かう。船は、タハナビ島から南東にある、《ファナンディス島》という所に目的地を定めた。そこは華龍族の里の他には、魔道族出身の人々が暮らしている町が点々とあるだけの、小さな島である。地図には華龍族の里のことを、《マライテス町》と記されている。


 マライテス――


 それは、《魔界の花園》という異名がつくほど、可愛らしい花や綺麗な花が咲き乱れる町。この魔界の中では、最も美しい町といえよう。


「リタ……。ねぇ、リタってば!」


 リタはうるさいくらいによく響くヨゼフの声で、目を覚ます。彼女は場所を確認する途中で、すっかり寝てしまったのだ。


「あ、私としたことが、つい寝てしまった」


「全く……。それでもフィブラスの王女で、砂龍戦士と呼ばれる魔族か?」


 ヨゼフはきつい言い方で、リタを追い詰めるように言った。それを、ナンシーが注意する。


「ヨゼフ! そんなことを言ったら、リタが傷つくわよ。それに、彼女を追い詰める原因にもなりかねないわ」


 ナンシーの説得により、ヨゼフは一先ず落ち着いたようだ。


「次の島では、西側に位置する《マライテス町》で冒険が終わり次第、次の船に乗る。それで良いね?」


 一刻も早くキアの秘密を探り、魔道族の陰謀を阻止したいというリタの気持ちが伝わったのか、他の二人は頷く。リタが冒険の予定を決めたと同時に、船長が島への到着が間近だということを告げる。リタは地図を、ショルダーバッグにしまう。三人はファナンディス島で、船から降りた。ここは、ギルネスのような複雑な地形もなく、緑豊かな島である。


 ふと、リタは俯いた。


(あれから、メアリーはどうしてるかな? もしかしたら、キア領主に捕まってしまったのかも)


 そう思うと、気弱になってくる。これではいけない、とリタは自分に言い聞かせた。


 マライテスを目指し、西へ西へと歩いていると、三人の視線の先に華龍族の魔族らしき少年が、手で合図しているのが見えた。リタ達は、その方向に走っていった。


「案内ありがとう」


 マライテスの出入り口で息を切らしていたが、リタは少年に礼を言った。


「ようこそ、マライテスへ。お礼なんて、良いですよ。この町に来た魔族を案内するのが、僕の役目ですから」


 赤い服を着ていて、いかにも華龍族の魔族だとわかるような蔓を巻いた角や、緑色の全身。それに、彼はどこだか頼りなさそうに見える。


(なんだか、能天気な感じのする目つきだな)


 リタは見た目で、少年の性格を判断する。リタにじろじろと見られている感じがしたのか、少年は怪訝そうな顔をして、自己紹介をする。


「僕は華龍族のニアロス。時折こうして、他の種族の魔族を案内しています」


 ニアロスという少年は、丁寧に言った。


「ではまず、族長の屋敷にご案内します」


 そう言ってニアロスは、三人を華龍族族長の屋敷に案内する。四人の目の前には、極めて質素な雰囲気が漂うデザインの屋敷がある。緑に囲まれ、薔薇やカトレアの花がたくさん咲き乱れている。だが、その一方で、どこだか季節感を感じさせない部分もあると、ナンシーは思った。


(フィブラスの砂龍城の至る部屋に仙人掌が置いてあるのと同じように、あらゆる種類の花を家に飾るのが、華龍族の風習なのかしら?)


 ナンシーは、砂龍族の風習を思い出していた。彼女がぼんやりとしていると、ニアロスが屋敷のドアを叩く音がする。彼女はその音で、我に返った。


 ガチャ、という音と共に、若そうな華龍族の女性が出てきた。彼女の容姿はとても若々しく、服装も清潔感がある。茶色の鬣を揺らしながら、女性は四人に話しかける。


「ようこそ、マライテスへ。私はカリア。華龍族の族長よ」


 カリアという族長は、怒ったことがないかのように、穏やかである。


「はじめまして、砂龍族のリタです。気づいている魔族も多いかもしれませんが、私はフィブラスの――」


 リタが迂闊に自分の身分を明かしかけた時、ヨゼフとナンシーが慌てて、彼女の口を塞ぐ。


「駄目よ、リタ」


「あれは、僕達だけの秘密だろう?」


 二人に注意され、リタは彼らの手を振り払う。


「まだ、あの秘密を隠してるの? 既に知ってる魔族もいるわけだし、もう良いじゃないか」


 リタはまだ、苦しそうにしている。


(確かに、そうかもしれない。だけど、これはランディー陛下のことよりも、あんたのことを思ってのことなんだよ。あんたの身に、何かあるといけないから……)


 ヨゼフは、酷くリタのことを心配している。カリア族長は、先程のヨゼフ達の行動を見て、不思議そうな顔をする。


「あの、何かあったの?」


 カリア族長に訪ねられ、三人は適当に誤魔化した。族長は、尚も首を傾げる。二十分が経過した頃、四人はカリア族長の屋敷に入った。


 リタは辺りを見回し、邸内の飾りを見ていた。女王の部屋のような豪華な家具に、ドレッサー。そして、天井から下がっているシャンデリアが、族長の屋敷というより、誰かの城の一室という雰囲気を醸し出している。その綺麗さに、リタ達はただ驚かされるばかり。あまりの魅力に気を取られている三人を見て、族長は咳払いをした。三人は慌てて、族長の方を向く。


「この町に来て早々で申し訳ないけど、みんなにお願いがあるの」


 カリア族長は、風龍族の女族長のような口振りで、四人に頼み事をする。


 カリア族長の依頼。――それは、この町からずっと東側にある《華龍女神セルランの神殿》に行き、どのように荒れた場所でも綺麗にできるという《幻の華・サートアンヌ》という物を持ってきてほしいということだった。


「なぜ、その華が必要なのですか?」


 ナンシーが、族長に訪ねた。


「この町のどこかに、《マラの花園》という所があるの。九年前まで可愛らしい花がたくさん咲いてたのに、先日になって全部枯れたように花園が荒廃してしまって……。だから、一刻も早くサートアンヌを手に入れたいの」


「そういうことなら、了解しました」


 四人はカリア族長の依頼を、快く引き受けた。華龍女神セルランの神殿の場所をカリア族長から聞き出し、リタ達は《茨の聖域》という所に向かう。そこはその名の通り、一年中茨が絡みついているだけで、聖域とは到底思えないような場所だ。


「ニアロス、この辺りのことについて、教えてくれる? 華龍女神セルランの祭壇まで行くには、君の助けが必要なんだ」


 リタの頼み事に対し、ニアロスは頷く。ニアロスの案内だけはしっかりしている、と三人は思った。それは、前にも何回か訪れたことがある場所のように、彼がこと細やかに説明してくれるから。


(なんだ、能天気そうなのは見た目だけか。ジオも日頃から、『魔族を見た目だけで判断してはいけませんよ』って、口癖のように言ってた。私も気をつけよう)


 リタは五歳の頃に、乳母に耳にたこができるくらいまで言われたことを、振り返る。


 マライテスから十三メートル歩くと、四人の目の前に、たくさんの茨が現れた。その茨は生きているように、ぐにゃぐにゃと動いている。それを見て、ナンシーの顔は、一気に青ざめた。


「リタ、流石のあなたも、ここは通りたくないよね?」


「ああ。でも、神殿に行くにはこの道しかないみたいだし、服は多少破れる覚悟でいかないとね」


「え! そんな……」


 ナンシーは、リタの言葉にショックを受けた。


 腹を決め、四人は鋭い棘を剥き出しにしている茨の聖域をくぐる。棘が四人のズボンに深く食い込むように、足に突き刺さる。それは、リタ達が神殿に入るのを、妨害しているようにも見える。棘が原因でできる傷の痛みを堪えながら、リタ達はひたすら東へ東へ進む。


「痛い。ひりひりするよ」


「もう、情けないわね、ヨゼフは。男なんだから、少しは我慢しなさいよ」


 ナンシーは、呆れたように言う。ナンシーの《男なんだから》という言葉に、ニアロスは驚く。


「え! ヨゼフって、男だったの? 僕はてっきり、女かと……。背が低いし、鬣が長いから」


 ニアロスの言葉に、ヨゼフはぶるぶると震えている。


(おそらく、『背が低い』や『男に見えない』といった感じの言い方は、彼には凄く気に障るんだろう。でも、ニアロスとはさっき会ったばかりだし、そう言うのも無理ないよね)


 リタは、ヨゼフが怒っている原因について、考えた。


「悪かったな、ちびでかつ女っぽくて。今度言ったら、本気で怒るぞ」


 ニアロスのうっかり発言を、ヨゼフは鵜呑みにしてしまった。


「ご、ごめん」


「わかれば良いさ」


 ヨゼフは薄気味悪い微笑を浮かべ、ニアロスを尻に敷くように言った。そんな会話をしているうちに、四人は神殿らしき場所を見つけた。その神殿の見た目は、葉龍女神ルナの神殿を彷彿させるデザインになっている。華龍女神と関係が深いということもあり、蔓や茨が巻きついているほか、色とりどりの花が咲き乱れている。


「ここの最奥部に、《幻の華・サートアンヌ》があるのよね」


「ああ。幻だけど、探してみる価値はあるよ」


 そう言いながら、四人は神殿に入った。

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