風龍族の族長令嬢、その4―ビオラの本当の身分―
風龍戦士として目覚めたビオラだが、彼女はまだ、自覚がない。それどころか、彼女は神殿から出る前よりも表情が暗くなっているように、三人には見えた。
(やっぱり、さっきのことを気にしてるんだ。そうだよね……。そう簡単には、忘れられないよね)
ナンシーにとって、先程のことを気にしすぎているとしか思えないほど、ビオラの顔は、沈んでいるように見える。重い沈黙が続くなか、四人はエアロビ族長の依頼から戻って来た。
「リタ殿、あなた方がご無事で何よりです。おや、お嬢様、どうかなされたのですか?」
召使いの一人が、ビオラを心配する。彼女は慌てて、笑顔で誤魔化し、首を振る。
「そうですか。それなら、良いです」
召使いは、安堵の胸を撫で下ろした。
(ビオラはああやって誤魔化してるけど、本当はさっきルニス女神が言ったことを気にしてるんじゃないかな?)
ヨゼフは、召使いの態度などを見て、すぐにそう思った。
ビオラは、自分の母親であるエアロビ族長に対し、どのように質問をすれば良いか悩んでいる。
「ビオラ、ここは勇気を持って聞くしかないよ。思い切って質問して、相手に話してもらうことで、すっきりすることもある」
ヨゼフは空気を読まず、ビオラに自分の意見を言った。彼の意見には、三人とも白けている。
「ヨゼフ、これはそんなに簡単な問題じゃないんだよ。下手に言えば、ビオラ自身を傷つけることになるわけだし。さっき君は、そう言っただろう?」
「リタの言う通りよ。あのことに触れるかどうかは、ビオラが決めること。私達は黙って、見守るしかないの」
リタもナンシーも、珍しくきっぱりとした言い方をする。四人は扉を開け、エアロビ族長との面会を始める。部屋に入って早々、リタは神殿で起きた出来事や風系魔道師に会ったことなどを、族長に話す。エアロビ族長は、納得している。
「やはり侵入者というのは、キア一味の魔道師だったのですね。ルニス女神の言う通り、今後キア達の行動に警戒しなくては」
エアロビ族長は、今回のリタの報告を聴き、警戒心を強める。
「あの、ママ……」
例のことについては、聞くか聞くまいかまだ迷っていたが、ビオラは勇気を持って聞くことに決めた。
「聞きたいことがあるんだけど」
最初はビオラの言いたいことがわからなかったが、リタははっとして、止めようとする。が、逆にビオラに止められてしまった。
(本当に、それで良いの? 下手をすれば、自分を傷つけることになるんだよ)
リタは、不安になった。が、ここは敢えて見守ることにした。
「これは、ルニス女神から聞いたことなんだけど、あたしとママは、血が繋がってないって本当なの?」
「……」
ビオラの質問に、エアロビ族長は戸惑う。しばらく、重い沈黙が続く。が、ようやく話す気になったのか、族長は口を開く。
「風龍女神がそんなことを……。ビオラ、あなたの言う通りよ。私達は血が繋がってない。つまり、私はあなたから見れば、継母」
《継母》という言葉が、ビオラの心にぐいぐい突き刺さる。それは、棘が食い込むような、強烈なものだった。
エアロビ族長の話によれば、ビオラは彼女が赤ん坊の頃に、とある風龍族の男性と女性が魔道族から逃げられなくなり、エアロビ族長が「どうか、この子を幸せにして下さい」と頼まれ、引き取られた子供だという。更に、未だにその二人の魔族の消息は、絶たれたままだとのことである。
(そうだったの……。でも、自分が何者なのかがわかったから、あたしはそれだけでも良いわ。あたしの本当のパパとママは、きっとどこかで、あたしを見守ってくれてるはず)
ビオラはそのことを思うと、安心感を持てた。エアロビ族長は、面会の最後に、もう一言付け加える。
「でも、あの二人にビオラを返すなんてことはしません。なぜなら、血が繋がっていなくても、現にビオラは私の娘で、次期族長ですから」
エアロビ族長の言葉に、ビオラは泣いていた。
「だってさ。良かったね、ビオラ。僕は正直大丈夫かなって不安になったけど、大丈夫そうだね」
ヨゼフはほっと一息つく。リタ達は部屋から出ようとしたが、すぐに族長に呼び止められた。
「今から行っても、日が暮れるだけですよ。それに、お腹を空かせていては、冒険も進みませんからね」
族長にそう言われた瞬間、リタ達の腹の虫の音が聞こえ、ビオラはくすくす笑う。
「じゃあ、今日はここに泊まるよ。それで良いね?」
「ええ、もちろん」
今日乗る予定にしていた船を、明日の朝の分に変更し、三人はビオラの家に泊まることにした。夕食をご馳走になり、寝室も用意してもらい、三人は無事に一夜を沸かすことができた。




