岩龍女神の神殿、その4―リアスの大家族―
足場が極めて悪いなか、リタ達は無事に神殿から戻って来た。そこには、リアスの安否を気遣っていたかのような表情で、ルッカス族長が待っていた。
「ただいま戻って参りました、族長」
リタ達と会う前と違ってリアスは、族長に対して礼儀正しく振舞う。
「皆無事で何よりだ。ところで、シトラル女神は、《あの伝説》について教えてくれたか?」
ルッカス族長は訪ねた。それに対し、四人は首を振る。
「でも、リアスは少しは変わったと思います。今後は、岩龍戦士として、この街を守っていくとも言っていますし」
リタは、リアスの成長ぶりを証明する。が、それにはルッカス族長は驚かなかった。おそらく彼は、リアスが岩龍戦士として目覚めることや、杖を持ってこの魔界を守る役目を背負うことに気づいていたのだろう。
ルッカス族長は、家にリタ達を入れ、話し合いをしたいと言った。おそらく彼が言う《話し合い》とは、今回の神殿での冒険について纏めるという意味だろう。
「君達の今回の収穫を、教えてくれ」
族長は訪ねた。それに対し、リタ達は戸惑う。
(今回の収穫をって言われても……。私達が今回得た物なんて、一つもないし)
リタは一つだけ思い出したことがある。あの時、ヨゼフが解いた《古代ガルドラ文字》の謎。あれがあの神殿に纏わるものだとすれば、今回の収穫は大きいに違いない。が、ルッカス族長が本当に求めている《今回の収穫》とは、きっと《伝説の真実》のことだろう、とリタは思った。そのようなことを考え、リタは敢えて「いいえ、何もありませんでした」と答えた。
「そうか。まあ、今日はもう遅いし、この街に泊まっていきなさい」
ルッカス族長は、リアスにリタ達を泊めてあげるようにと言った。リアスは早速、三人を自分の家に案内した。
「ここよ」
リアスは、ピンク色の屋根の家を指差して言った。その家は、大家族で住むのに適している環境だ。彼女は、玄関の戸を開ける。すると、彼女とよく似た容姿の少年が三人来て、彼女に抱きつく。
「お帰り、リアス姉ちゃん」
「ただいま、フレス、ロラン、リャーン。みんな、良い子にしてたかしら?」
「心配しなくて良いわよ、リアス。あなたと違って、この子達はいつも良い子にしてるわ」
リアスが三人の弟達と話していると、彼女の母親らしき魔族が口を挟む。
「ちょっと、お母さん! いきなり、それはないでしょう?」
リアスと母親のやり取りを見て、他の魔族達は皆、笑った。その晩は、リアスの家に泊めてもらえることになった。子供が四人いるうえに、リタ達が宿泊客ということもあり、リアスの母は二日分はありそうな量の料理を拵えた。それで夕食を済ませた後、リタとリアスから話があると、四人の龍戦士はリアスの家族全員にリビングに残ってもらった。
(いよいよね。あたしが新たな岩龍戦士になったことを、お母さんが納得してくれれば良いんだけど)
そのような不安を募らせ、リアスは話を切り出す。
「お母さん、今日はリタ達と一緒に、岩龍女神シトラルの神殿に行ったんだけど……」
「ええ、わかってるわ。あなたが、新たな岩龍戦士として目覚めたって言うんでしょう?」
母親は、リアスのことを何もかも見通しているような口調で言った。リタは首を傾げる。母親はなぜ、そのことについて知っているのかを、リタ達に説明する。
「リアスは前々から、かつての岩龍戦士シトラルになりきってるように、可笑しなことを言うことがあったわ。だから私は、薄々感じてたの。《この子はもしかしたら、前世が岩龍女神シトラルだから、こんなことを言うんだ》ってね」
理由を説明したというよりは、自分が薄々感じていたことを淡々と言ったに過ぎない、と母親は思った。だが、その気持ちはリタ達には充分に伝わっている。自分もかつてのリアスと同じように、誰かから《龍神のうちの誰かの生まれ変わり》と言われたことがある。
リタは少しだけ過去を振り返り、母親の言葉の意味を理解していく。彼女はリアスが杖を武器として、魔族達と戦っていくことには反対しなかった。それも運命なら、仕方ないと思っているのだろう。少なくとも、リタはそう思っていた。同じ戦士として、リアスの分まで頑張っていこう、と三人は決意する。
リアスの家族達との話し合いを終え、三人はリアスと同じ部屋で、一夜を沸かす。その翌日、三人はリアスとその家族達、そしてルッカス族長に見送られて、ギルネスの街を後にした。
三人は、次の目的地である風龍族の里、ランデス村に行くために、北を目指す。




