岩龍女神の神殿、その3―新たな杖使いの誕生―
リバドブルムは、リタに留目を刺すと言わんばかりに、彼女の背中に大剣を向ける。そこへ、誰かが彼女の方に走って行くのが、ヨゼフ達の目に映った。
「リタ!」
そう叫んだのは、岩龍族のリアスだった。リアスはリバドブルムに向かって、体当たりをかました。彼女の体当たりによって、リバドブルムは、宙に投げられるようにして、地面に叩きつけられた。
「ありがとう、リアス。それにしても、さっきの体当たりは凄いね」
「どういたしまして。あなた達のおかげで、わかったの。仲間の大切さがね」
リアスが先程までのお転婆な態度とは異なり、真面目な顔つきになっているのが、リタにははっきりと見える。
(リアスは本当に、仲間の大切さがわかったのか? 僕にとっては、どうも半信半疑なんだけど)
ヨゼフはリアスの言葉に疑問を感じながら、戦いに専念することに決めた。彼は槍を片手で持ち、それをリバドブルムに向かって投げる。無論、彼の体に向けてではなく、《早く、この神殿から立ち去れ!》という命令的な意味からの攻撃であった。それを察してか、岩系魔道師はのろのろと起き上がる。
「今回は岩龍女神シトラルに免じて、撤退する。が、キア様に歯向かうのは、やめておくことだな」
負け惜しみを言い、岩系魔道師は神殿を去る。安心してヨゼフは、先程投げた槍を取りに行く。他の三人も疲れを見せるように、地面に座り込む。
「リタ、その左腕を見せて。あたしが治してあげる」
リアスは、知らず知らずのうちに血塗れになってしまったリタの左腕を見て、言った。
(いつの間に、こんな血塗れに……。どうりで、さっきから痛むはずだ)
リタはリアスの好意に甘え、治療してもらうことにした。包帯で包まれる左腕からは、リアス自身の優しさが滲み出ている。少なくとも、三人にはそう感じられた。
しばらくして落ち着いた頃、四人は引き続き祭壇を探す。ふと、ナンシーが数メートル先にある水晶玉のような物を見つけた。
「三人とも見てよ、あれ」
ナンシーは、人差し指で、光が出ている方向を指して言った。四人がその先に行くと、茶色で透明感のある光を放っている場所に出た。おそらくここが、岩龍女神シトラルが祀られている祭壇だと、リタは思った。
四人は、神秘的な光の源である水晶玉を眺めていた。すると、水晶玉からテレパシーのように誰かの声が、四人に伝わってきた。
『はじめまして、私はシトラル。現在の岩龍族の民からは、《岩龍女神》としか呼ばれなくなりました。が、私はここでずっと、《新たな杖使い》が来るのを待っていたのです』
シトラルと名乗る女神は、不思議な発言をした。これはおそらく、ヒアの時と同じように《新たな龍戦士の覚醒を、女神が望んでいる》という言い方なのだろう。三人は、先程の岩龍女神の口調から、そのように予想していた。
リアスも岩龍女神も、しばらく黙り込んでいた。が、誰よりも先にこの沈黙を破ったのは、シトラル女神だった。彼女は、リアスに二つの質問をする。
『リアス、あなたはこの魔界を、《闇龍アルエス》から守りたいと思いますか?』
「はい、もちろんです」
『では、もう一つ質問します。あなたは、これから私が託す杖を悪用したり、それで悪戯しようと思ったりしませんね?』
「しません。絶対に、誓います」
リアスは半ば緊張していたが、上手に岩龍女神の質問に答えることができた。
『リアス、やはり私の目に狂いはありません。あなたは、私の力を受け継ぐにふさわしい魔族です』
そう言うと女神は、リアスに杖を託す。
(これは、伝説の《シトラル・ロッド》。女神がかつて龍戦士だった頃、デュラック王子と共に闇龍を封じることができたという、あの……)
リアスは、魔界を守るための覚悟を決めたものの、自分にこの杖を扱うことができるのだろうか、と戸惑った。だが、新たな岩龍戦士になった以上は、彼女は街や魔界全体を守っていかなくてはならない。
(あたしには、リタ達を始めとして、これまで目覚めた五人の龍戦士達がついてる。だからこそ、この街に残り、残り四人の戦士達が目覚めるまでの間は、街を守りたい)
リアスは、岩龍女神の言葉を真摯に受け止めながら、そのようなことを考えていた。
「決意は固まったかい、リアス?」
ヨゼフは、半ばリアスをからかうように言った。三人とも、真剣な眼差しで彼女を見ている。それは、ようやく役目を実感したか、という意味ではなく、単にあたしが何を思っているかを悟る意味なのだ。それを感じたリアスは、ようやく決意を固める。
「あたし、岩龍族のリアスは、これからもこの街を守っていきます」
この答えを待ち望んでいたのか、シトラル女神は落ち着いているようだった。
『ありがとう、リアス。その心意気を忘れないで下さい。そして、いつまでも笑顔を絶やさずに過ごすのですよ』
最後に女神は言って、四人に語りかけるのをやめた。
「女神とお話できるなんて、普通はないから、緊張しちゃった。それと、凄く疲れた」
リアスは、痛む頭を抑えながら言った。愉快げに笑いながら、四人はギルネスのルッカス族長の家に戻る。




