氷龍公子、その3―氷系魔道師の操り人形―
氷龍族の魔族達が住む氷の島国、ポラテルド。この島国の城の地下室で氷龍神ガトラが見ている中、リタとナンシーは力を合わせ、金髪の氷龍族の少年を説得しようと努めている。
「君が、アイル公子だね? 何があったか知らないけど、神殿から戻って来ないと、父君のルース大公が、頭を抱えてたよ」
アイルは、おっちょこちょいな公子。氷龍大公の言葉を思い出し、リタは彼のことを予想してみた。
(あの言葉から予想できることは、ただ一つ。彼は、単にここから出られなくなってしまったに違いない)
そのようなことを考えていると、リタの右腕に鎖が巻きつくように飛んできた。リタはもう片方の手で、必死に鎖をほどき始める。だがその時、少年が跳び上がり、彼女の目の前に来た。少年は、彼女を蹴ろうとした。リタは間一髪で、攻撃を避けた。とはいえ、鎖はリタの武器にがちがちに巻きついているので、ほどくのに時間がかかりそうだ。
(くっ! このままじゃ、もたない。せめて、この鎖がほどければ……)
リタは歯を食い縛り、右腕に巻きついた鎖を引きちぎろうとする。ふと、作戦を思いついたかのように、リタは少年の目の前まで歩み寄る。
「リ……リタ、何をしてるの?」
「まあ、見てなって」
ナンシーが心配して、リタのことを見ている中、彼女は左手の爪を少年の頬に向ける。彼女はそのまま、少年を引っ掻いた。
「リタ、やり過ぎよ! 相手は、ただメアリーに操られてるだけなのよ」
ナンシーが、必死に少年を庇う。が、リタは彼女を睨みつける。
「きつく言うけど、このまま私達が殺されても良いのか? 彼も、私達と同じ龍戦士だ。彼に殺人をさせてはいけない。だからこそ、こうしなきゃ、彼の目は覚めない!」
鋭い目つきと怒気に満ちた形相で他者を見つめるリタを、ナンシーは初めて見た。リタは改めて、少年の方に向き直る。彼女は、少年に訪ねる。
「アイル、君は何の意図があって、私達を殺したい?」
仮ではあるけれど、リタは少年のことをアイルと呼ぶ。すると彼は、リタの声に反応するように、首を横に振り、「そんなことは考えていない」と答えた。だが、少年の態度に対し、彼女は更に怒気を強める。
「考えてるとか、考えてないの問題じゃない! 魔族を殺すことは罪だ。そんなの、公子が――未来の大公がすることじゃない!」
リタの怒声は、神殿中に響き渡った。それを見ていたナンシーもメアリーも、震えが止まらなかった。それほどに、リタの怒りは大きいのだ。ふと、少年の様子が変わる。
「アイル……。僕の――僕の名前……。うああああぁぁぁ!」
彼は急に叫び始め、その声はリタの怒声と同じく、神殿中にこだまする。その叫び声があまりにも酷いので、彼女達は思わず耳を塞ぐ。一度叫ぶとアイルは、両膝をついて脂汗をかき、そのまま倒れた。その時、リタの右腕に巻きついた鎖は、自然に緩くなっていた。彼女はゆっくりと、それをほどく。
「メアリー。私が斧を使う間もなく、決着がついたようね」
ナンシーは、始めから手を出さなかった。それは、氷系魔道師メアリーを思ってのことだった。
「あなたはもしかして、本当は始めから、私達と戦う気はなかったんじゃないの?」
ナンシーに訪ねられ、メアリーは戸惑う。
(そうよ、ナンシー。あなたの言う通り、私は始めから戦おうとは、考えてなかったの。でも、キア様――お父様の命令には、背けない。例え氷龍族の公子を利用してでも、砂龍王女であるリタを抹殺しなければならない。そう命令されたから……)
(でも、ようやく気づいたの。こんなのは、無意味だということに。お父様はきっと、ガルドラの支配など望んでないはず。それなら、私がやるべきことは、ただ一つ。リタ達のために、他の魔道師の行動に歯止めをかけるよう呼びかけるの。もうこれ以上、リゲリオンのような魔族を増やしたくない。そう、こんなのは間違ってる。力だけで、魔界を支配しようとすることだけは)
メアリーの中では、龍魔族達を苦しめているキアに対する疑問、彼の陰謀に歯止めをかけたいという気持ちなどが交叉するのだった。その時、妙な倒れ方をしていた氷龍族の少年が、ゆっくりと起き上がった。
「やあ、今お目覚めかい、公子様?」
リタは、半ばからかうように言った。公子は、リタ達の顔を交互に見ている。
「あなた方は一体? それになぜ、魔道族の方が一緒にいるのですか? 本来、龍魔族達と魔道族は、敵対中のはずですが」
「私はリタ。そして、こっちがナンシー。君はメアリー――つまり、この魔道師に操られてたのさ。ところで、質問が。私達は《アイル》って公子が、この神殿に来てるって聞いて、ここに来たんだけど、それは、君のこと?」
リタの質問に対し、少年は首を縦に振る。
「そうです、僕がアイルです。父親のルース大公の依頼で、この神殿を調査していたのですが……」
「『この部屋で、氷龍神像の存在を突き止めたので戻ろうとした時、迷って出られなくなった』でしょう? 大体の察しはつくわ」
「ナンシー! そんなことを言ったら、公子に失礼だろう?」
ナンシーの先程の言動を、リタは軽く注意する。リタは、メアリーの方に向き直り、質問をする。
「メアリー、あなたは私達に隠してることが、あるんじゃないか?」
この質問には、メアリーは答えようかどうか、迷った。が、キアの現状を考え、彼女は話すことにした。彼女は勇気を持って、リタ達に自分が思っていることから話し始める。




