バデリウスの樹海の悪霊、その4―葉龍族族長の誕生会―
バデリウスの樹海において、葉龍女神ルナの神殿で大冒険をした、四人の元奴隷戦士達。無事にヒアの妹を救出し、彼女達は元来た道を辿って村に戻った。そこには、薪の準備をする魔族達、立派な服を着ている葉龍族の女性、そして彼女に仕えていると思わしき魔族達がいる。
「クリカ族長、俺達が妹を助けるために神殿に入ったという報告は、もうお聞きになりましたか?」
ヒアの声に反応して、クリカという名前の女性が口を開く。
「ええ、もちろん聞いていますよ。今回のあなたの行動は、妹を想ってしたこと。悪霊退治もして下さったことですし
、今回のことは大目に見ます。それに……」
「それに? 何ですか?」
「これは私の推測ですが、葉龍女神ルナは前からヒアが神殿に来ることを予測していたのではないかと思います。ルナ女神は悪霊と共に、優しい感情をも司っていると聞いたことがありますから」
「はぁ……」
クリカ族長の言うことは曖昧ではあったけれど、リタ達はなんとか理解しようと努めた。リタはふと、気になったことを族長に聞いた。
「私は砂龍族のリタ。なぜ、薪の準備をしているのですか? 何か、特別な行事があるというのですか?」
リタの質問に対し、族長は笑顔で答えた。族長の話では、今日は彼女の三十回目の誕生日で、ヒアの帰省祝いも兼ねた祝杯を開くために、薪の準備をしているのだという。
「なるほど。ついでに、私達三人も参加してよろしいでしょうか? それぞれ種族が違いますが……」
「もちろん、良いですよ。止める理由なんて、どこにもありませんからね」
クリカ族長は、あっさりと許可した。彼女達は、葉龍族の魔族達を手伝いながら、薪の準備をした。
そして、葉龍族の魔族達にとっては待ちに待った、祝賀会当日の夜。一族の男性や女性が軽やかな身のこなしで踊り、子供達が合唱を披露しているのを、四人は静かに見ていた。その子供達の中には、プレシオと水色の鬣の少女もいた。
「みんな、凄く体が軟らかいね。僕もあんな風に踊れたらな……」
「そうかな? ヨゼフも結構、体が軟らかいと思うけど」
ヒアは、奴隷生活を送っていた時のヨゼフの戦闘ぶりを思い出しながら言った。ふと、ヨゼフは、先程リタに言われたことを思い出し、話を切り出す。
「みんな、ちょっと良いかな? 話したいことがあるんだけど……」
もしかして、さっき私が言ったことについて話すつもりなのか、と想像しながら、リタは首を縦に振った。
「あのミントっていう女の子のことなんだけど……。実は九年前に僕を水龍族から引き離し、家族を殺害したのはあの子なんだ。当時の彼女は、まだ三つだったから、想像できないだろうね」
ヨゼフは、簡単に話を終わらせた。先程の彼の話を聴いていて、リタは思った。
(ヨゼフとあの子の間に、そんな過去があったのか。まだお互いに幼い年齢――特にミントは、彼より一つ年下だというのに。やっぱり、火龍神バイルが言ってたことは、本当のようだ。でなければ、当時三歳だった女の子を、いとも簡単に操ることはできないはずさ)
リタはいつの間にか、深刻な顔をしていた。
「どうした、リタ。せっかくのパーティだ。もっと楽しもうよ」
「ヒアの言う通りよ。もっと肩の力を抜かなきゃ、この先、かなり厳しくなるわよ」
ナンシー達に励まされ、リタは少し落ち着く。そこへ、唐突にヒアが話を切り出す。
「これは、神殿から村に戻る前から決めてたことなんだけど、俺はこの村に残る」
彼の話があまりにも唐突だったので、三人はただ戸惑うばかりだった。同じように戸惑うクリカ族長だったが、ヒアに理由を聞く。
「どうしてですか? あなたは葉龍戦士です。修行するためにも、旅立たれた方が良いと思いますが……」
「俺も本当は、旅に出たいと思います。ですが、妹のこともありますし、俺の力で村のみんなを助け、生活を支えてあげたいと思います。ですから、俺はここに残ります」
「そういうことなら、了解。当分の間は、私達三人だけで旅をするよ。キアと闇龍の関係性も調べたいからね」
「ありがとう。情報収集、頑張れよ」
三人は静かに頷く。こうして、樹海での夜は、賑やかな催し物と一緒に締め括られた。
樹海にある村で一夜を過ごした三人は、葉龍族の魔族達と一緒に出入り口に来た。
「リタ、ヨゼフ、ナンシー。気をつけて行けよ」
「ああ、ヒアも頑張りすぎないようにね」
レザンドニウム領主キアによる苦境が続いているとはいえ、四人は笑顔で話し合っている。そこへ、プレシオが三人のためにお菓子を袋に詰めて持ってきた。特に、ヨゼフの分は大きい。
「なんだよ。僕は、こんなに食べられないよ」
彼の発言に、四人とも大笑いした。
「それじゃ、ヒア。元気でね」
かつての奴隷仲間に手を振り、三人はバデリウスの樹海を後にする。彼女達は、デラル島の南端に停まっている船に向かって、走って行く。




