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ガルドラ龍神伝―闇龍編―  作者: 水沢らくあ
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バデリウスの樹海の悪霊、その2―悪霊達に襲われて―

バデリウスという名の立派な樹海の奥にある、葉龍女神ルナの神殿。以前は少なかった、樹海の悪霊達。だが彼らは、ヒアが帰省するまでの間にどんどん数が増え、今では五万にものぼる。それはまるで、誰かが陰で糸を引いているかのよう。そのせいか、四人の所に生暖かい風が吹いている。


「ここからは、《耐葉属性マント》を着て行かないと。これがなければ、霊に取り憑かれるからね」


「ええっ! 嫌だよ、僕は。あんな、ぶかぶかのを着るなんて」


「霊に取り憑かれるよりは、随分マシだろう?」


「……」


 ヨゼフは急に黙って、ヒアの言う通りにマントを羽織る。リタは扉を開けようとした。が、それはびくともせず、ただ擦れるような音がするだけだった。


(この扉、なかなか開かない。もしかして、普通のタイプじゃないのかな? どこかにこの扉を開けるためのヒントがあれば……)


 リタは、辺りを見回す。そこへ、ヒアがあることに気づく。


「この扉、古代文字が彫ってある。ヨゼフなら、解読できるんじゃないか?」


「どいつもこいつも、みんな僕任せか? ちょっとはあんた達も、古代文字の勉強をしてよ」


 ヨゼフは大儀そうに言いつつも、解読し始めた。彼は毎度のように、楽々と古代文字を読み上げていく。


「わかったよ。これは、『生き別れし葉龍兄妹のうち、兄の方は妹を助けるために葉属性の中級呪文を唱え、神殿の奥の部屋へと向かうだろう』って、書いてあるみたいだよ」


「流石は、《知恵の魔族》の異名を持つだけあるな」


 ヒアは感心して、ヨゼフを褒める。それに対し、彼は顔を赤らめる。ヒアは奴隷戦士専用の弓を構え、扉から少し離れ、葉属性の魔法と矢を一緒に放つ。すると、扉は緑色の光を放ち、何事もなかったように開いた。


「やけにあっさり解除できたな。ところで、今あんたが使った魔法は?」


「リーフ・セルセイン。魔法名の意味は、《葉龍族の絆》さ。古代文字の冒頭の部分で、この中級呪文じゃないかと思ったんだ」


 ヒアは、はなから古代文字が書き表す内容を理解していたような口調で、ヨゼフに言った。ヨゼフが頷く間もなく、樹海の悪霊達が、扉の向こうから姿を現す。その姿は悪霊というだけあり、闇のように黒く、四人の龍魔族に負けないくらい鋭く尖った鉤爪や牙を彼女達に向けている。その姿は、今にも神殿に来る者を容赦なく食べようとしているかのようにも見える。四人はそれぞれの武器を構え、悪霊達を威嚇する。


「俺達にそんな武器が通用するとでも、思っているのか?」


「通用するとか、しないの問題じゃないさ。私達はある魔族を捜しに来ただけ。プレシオって名前の女の子を見かけなかった? この神殿にいるという情報を、その女の子の友達から聞いて、ここに来たんだけど」


 リタは、右手にはめた爪型の武器を高く挙げながら言った。


「プレシオ? あの時、水色の鬣をした少女と一緒にいた少女か?」


 数匹の悪霊達のうち、一番大きな者がリタに確認するように訪ねた。彼女はそうさ、と答えた。


「その少女は、今葉龍女神の間にいる。が、そこに行くのは、俺達を倒してからにしろ」


「つまり、それは簡単には通せないってことだね? 望むところだよ」


 そう言うとリタは、悪霊達に砂属性の中級呪文クロー・スパークルを見舞った。すると悪霊達は、一人残らず彼女の爪に切り裂かれ、跡形もなく消えていった。彼女は今度来たらまた切り裂くよ、と言いたげに、ポニーテールにして纏めた紺色の鬣を靡かせる。


 四人は、先程の古代文字の解読により開いた扉の先に進む。その先はいかにも植物由来の神殿らしく、壁には蔓が巻きついていたり、木の幹を象った彫刻が所々に彫られているなど、自然を思わせる雰囲気のデザインになっている。だが、神殿の中央にあたる部屋に入った瞬間、また例の生暖かい風が吹いてきた。おまけに、部屋全体の視界が、とても悪い。


「物凄く暗いね。みんなで懐中電灯を使わないと、進めないよ」


「そうだな」


 四人は早速懐中電灯を、鞄やリュックから取り出す。彼女達は警戒しながら、進んでいる。まっすぐ十五メートル言行った先にも、邪悪な形相をした悪霊達がいる。その数は、この魔界に住む龍魔族や魔道族と同じくらいと思われる程だった。


「こんなにいるんじゃあ、キリがない。ここからは悪霊達をスルーして、プレシオちゃんを捜すのに専念しよう」


「ああ。それが、利口な進み方だね」


「そう? さっきの悪霊達の態度や仕種から考えると、そうも言ってられない、と私は思うけど」


 ナンシーだけが、リタの意見に反対した。口では闘争心を燃やしているように言っているけれど、内心では仲間を悪霊達の餌食にしたくないという気持ちに溢れているのだ、とリタは思った。


 リタが立てた作戦の通り、悪霊達を無視しながら、四人はとても深い溝がある部屋に出た。悪いことに床がどこにもなく、到底数メートル先にある扉までは歩いて渡れない。


「どうしよう。行き止まりかも……。それに、ちょっと怖いな」


 あまりにも溝が深いためか、ヨゼフは思わず弱音を吐いた。


「何弱音を吐いてるのよ、ヨゼフ。あなた、それでも水龍戦士? それに、数メートル先に扉が見えてるのに、行き止まりなわけがないわ」


 ナンシーはいつものように意地を張り、扉のある方向を指差して、ヨゼフに言う。ふと、リタはあることを思いついた。


「私に、良い考えがある。私とヒアの飛行能力を使って、ヨゼフとナンシーを運ぶのはどう? そうすれば、四人一緒に行けるし」


「そうか! 単純なことなのに、思いつかなかったな。じゃあ、早速試してみよう」


 リタはナンシーを、ヒアはヨゼフを抱えて、深い溝の上を飛ぶ。


「途中で、急に離さないでね」


「そんなこと、するわけがないだろう? ナンシーは、本当に疑り深いな……」


 リタはぼそっと本音を言いつつも、ナンシーを離さずにまっすぐに飛んだ。彼女達の方が、先に扉の前に着いた。後から、ヒアがヨゼフの鬣を引っ張りながら、扉の前で着地する。


「ヒア、なんでさっきヨゼフの鬣を引っ張りながら来たの?」


 ヒアの代わりにヨゼフが、リタの質問に答える。


「単に彼が、よそ見をしてたからさ。そこで、僕が柱にぶつかるよって、注意したんだ。そしたら結果的に、こうなったってわけ。ヒア、今度は気をつけてね」


「悪い。ちょっと、後ろの方で物音がしたもんで」


 ヒアが謝っているものの、ヨゼフはまだ怒っている。


「ヨゼフ、もうヒアを許してあげなよ。彼は、慌てただけなんだし」


 リタの意見に免じて、ヨゼフは今回のヒアのミスを許した。


「そんなことより、一刻も早くプレシオを助けようぜ」


「ああ、そうだね」


 四人は扉に入った。


「ふふ、あたしの存在には、気づいてないようね。あの馬鹿な龍魔族達――特に、あの時のおちびちゃんは懲らしめておかないと、キア様に申し訳が立たないわ」


 四人の後から、またしても謎の少女がついて来る。彼女もリタ達と同じように、扉に入った。

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