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ガルドラ龍神伝―闇龍編―  作者: 水沢らくあ
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バデリウスの樹海の悪霊、その1―人捜しと樹海の聖域―

砂龍族の王女、リタ姫が旅立って六日目。砂龍王ランディーがいる謁見の間は、どこか寂しげだった。彼は、玉座で考え事をしている。


(リタ……。今頃順調に、戦士達を覚醒させて――いや、のんびり屋なあの子のことだ。多分今は、葉龍族の樹海に向かっていることだろう)


 王が娘の行動について想像していた時、いつものように爺やのギルスが謁見の間に入る。今回は左手に、紙切れのような物を持っている。


「ギルス、毎度毎度苦労をかけてすまない。ところで、左手に何を持っている?」


「これは、リタ殿下からのお手紙です。前のように、陛下宛てだと思うのですが」


 そう言ってギルスは、王に手紙を渡す。


「これ。他の魔族に宛てた物を勝手に読むなと、いつも言っているだろう」


 王はギルスを叱る。彼はルーペを使いながら、娘からの手紙を読む。


『父上へ――


 突然このような手紙を送り、申し訳なく思っています。火龍神の神殿で火系魔道師に会い、私達を領国で処刑するためにまた捕らえると言ってきたのです。下手に王国に戻ると、父上の身も危険にさらされるので、真実を知るまで帰省は避けようと思います。私が戻るまで、どうかご無事でいて下さい。――あなたの娘、リタより』


 王は手紙を読み終え、溜め息をつく。


(たかが娘の手紙ごときに、ルーペや眼鏡を使って読まなくてはならないとは……。砂龍王とはいえ、私も歳には勝てんな)


 砂龍王は、手紙を再びギルスに渡す。その時彼は、微笑を浮かべた。


「陛下、どうかなされましたか?」


 ギルスに問われ、王は我に返り、「何でもない」と返す。ギルスが謁見の間を出た後、彼は少しの間だけ玉座から立ち上がり、部屋の窓を覗く。


(十柱の龍神達よ。どうか亡き妻と共に、娘のリタを見守って下さい)


 砂龍王は、心の底から神々及び彼の后に祈りを捧げる。




 一方、リタ一行は、火龍族の町から北に数キロ先にある葉龍族の樹海に向かっている。


「《耐葉属性マント》なんて、二度と着たくないな。全種類のマントの中で、これだけ僕の体よりも一回り大きいし、霊媒師みたいだ」


「そんなに文句言うなら、背を伸ばす努力をすれば? 少しはかっこよくなれるかもよ」


 ヨゼフの文句に対し、ナンシーが意地悪く言葉を返す。彼は小さな声で、「余計なお世話だ!」と言い返す。


 三人が葉龍族の村の近くまで来た時、背後から紫色の矢が飛んできた。リタは他の二人を持ち上げ、上空に飛ぶ。安全を確認すると、彼女はまた二人を降ろす。


「ありがとう、リタ。助かったわ」


「本当。いきなり矢を射つなんて、怖いにも程があるよ」


「この矢、もしかして……」


 リタは矢の持ち主を捜すように、辺りを見回す。すると遠くの木に、顔が魔道師と酷似している葉龍族の少年が立っているのが見えた。


「ヒア。あなたも、領国から脱出したんだね。妹には、会えたかい?」


「は?」


 ヒアと呼ばれた少年は、リタの青い鬣を見て、急に態度を変える。


「なんだ。誰々来たのかと思ったら、君達か。八日ぶりだな、リタ姫、ヨゼフ、ナンシー」


「あれ? なんで、リタが姫だって、知ってるの?」


「なんでって、俺が子供の頃、奴隷部屋で彼女がこっそりと教えてくれたからさ」


「あ、ずるい。ヒアには先に教えといて、僕達には九年間隠して」


 ヨゼフは、半ばヒアにも当たるように言った。リタは、彼を宥める。


「まあまあ。そんなに怒らないでよ、ヨゼフ。確かに、ヒアの言う通りさ。でも、一応何か話さないとって思って」


 リタは、言い訳をした。ヨゼフは、まだむっとしている。その様子を見て、ヒアは提案する。


「ここで立ち話も何だし、俺の家に来いよ。君達の目的も聞きたいし」


「わかった。是非、お邪魔するよ」


 三人は彼女達と同じ元レザンドニウムの奴隷戦士である、葉龍族の少年に連れられ、バデリウス村を訪れた。その村は樹海の奥にあるだけあって、葉龍族のみが暮らしている。出入り口から四メートル歩いた時、四人か五人くらいの家族が住んでいるような規模の家が建っているのが見えた。


「これってあんたの家なのか、ヒア?」


「そうだよ。大きい家だけど、今は俺と妹のプレシオしか住んでない。最も、帰って来たのは極最近だけど」


 そう言ってヒアは、三人を中に入れる。その時、彼は妹の足音がしないことに疑問を感じた。


(おかしいな。プレシオは、俺に何も言わずに出かけたのか? あいつは、勝手にどこかに行く奴じゃないのに)


 ヒアは首を傾げ、三人に牛乳とお菓子を出す。が、リタは急に、牛乳をヒアの目の前まで持っていく。


「どうしたんだ、リタ。とても牛乳嫌いには、見えないけど」


「いや、好き嫌いの問題じゃないよ。実は私、冷たい物はお腹にこたえるタイプなんだ。ごめんね」


「いやいや、大丈夫。そういうことは極力早めに言ってくれる方が、俺も助かるし」


 四人の元奴隷戦士がお菓子を食べ始めた頃、唐突にナンシーが質問した。


「ヒア、あなたはどうやって、奴隷部屋から抜け出したの? 闘技場の近くの抜け道や弓矢使いの訓練場にある吹き抜け付近は、警備が厳しかったはずよ」


「……変装したのさ」


「変装? でも、領国にはあんたと同じ背丈の魔道師は、一人もいなかったじゃないか」


 ヨゼフは、さりげなく痛い所を突く。ヒアは一回唾を飲み込み、話を続ける。


「ま、まあ、確かに君の言う通り、俺くらいの背丈の奴はいなかった。でも、あの時、俺は両親の形見だった《耐火属性マント》を破り、緑に塗ることを思いついた。ほら、葉系魔道師達は男女問わず半袖のマントを着てることが多いだろう? 葉属性の葉龍族の俺なら、あいつらに紛れ込めると思ってな。君達が闘技場に連れて行かれた日、あの氷系魔道師の後ろについて、大蜘蛛が来るのを待った。そして、君達が大蜘蛛を倒した後、俺も騒ぎに紛れて裏口から脱出した、というわけさ」


 ヒアは、自分が領国を抜け出す際に使った手段について、長々と説明した。三人は真剣に彼の話を聴いていた。話し終えると、彼は突然辺りを見回す。


「どうしたの、ヒア。何か探し物?」


「いや。ただ、妹がいないから、妙だな、と思って」


「どこかに出かけたんじゃないかしら。例えば、《葉龍女神ルナ》の神殿とか」


「うーん……。その可能性も考えられるが、《お祈りの時間》はとっくに終わってるはず。万一行ったとしても、あそこは今、樹海の悪霊達でいっぱいだ」


 ヒアが呟いていると、彼の家の呼鈴が鳴る。その音を聞く限り、急を要する用事のようだ。それを察してヒアが、ドアを開ける。彼の目の前には、水色の鬣をした葉龍族の少女がいた。


「クレル、かなり慌ててるみたいだけど、何があった?」


 クレルと呼ばれた少女は息を切らし、伝えたいことを言う。


「プレちゃんが……プレちゃんが……」


「え、プレシオちゃん? 彼女が、どうかしたの?」


 リタは、穏やかに少女に話しかける。この時、彼女はヒアの妹に何かあったのかもしれない、と思った。


「プレちゃんが、一人で樹海の悪霊の所に!」


「待て、落ち着いて話してくれ。よくわからないよ」


 ヒアは、少女を宥める。彼女は一回深呼吸をしてから、もう一度四人に話す。


 少女の話によれば、ヒアの妹は彼女と一緒に《葉龍女神ルナ》の神殿に、祈りを捧げに行ったらしい。が、その後でプレシオが「悪霊の気配を感じる」と言い、神殿の奥に行ったきり、まだ戻って来ないのだという。四人は少女の話を整理しながら、話し合いをする。


「ねぇ、プレシオちゃんの言葉って、どこか謎めいてると思わない?」


「ああ。確かに、君達から見れば、そう思えるかも。でも、俺達の一族は生まれつき幽霊や悪霊の気配を感じることができる。あいつが神殿の奥に行ったのも、合点がいく」


「とにかく、早く神殿に行こうよ。プレシオちゃんが心配だし、ヒアにかけられた呪いが解けるかもしれないよ」


「リタ……」


「僕もリタと同意見だ。正直言って、幽霊や悪霊は怖いけど、ここで油を売ってるわけにはいかないからね」


 二人の意見を聞き、ヒアは決断を下す。


「わかった。俺も神殿に行く。ヨゼフ、悪霊が襲ってきたら、俺がみんな除霊してやるからな」


「ありがとう」


 ヨゼフは、期待の眼差しをヒアに向ける。四人は、それぞれ自分達が愛用している武器を専用のベルトに挿し、準備する。ヒアは弓と矢筒の他に、除霊符を装備した。


 ヒアは少女に、「すぐに戻って来るから、心配せずに待ってろよ」とだけ言い、三人の龍戦士と共に葉龍女神ルナの神殿を目指して、出発した。神殿はバデリウスの樹海の奥にある《樹海の聖域》を十メートル行った先に建っている。が、聖域には番をしている魔族がいる。いくらヒアが同じ種族の民といえども、族長の許可なしで神殿に入ることは、困難だろう。


 少なくとも、ヒアに同行している三人の龍戦士は、そう思っていた。番人がヒアに訪ねる。


「ヒア、これから二つの質問をする。お前はなぜ、魔道師に似た姿をしている? そして、なぜこの聖域まで来た? ここから先は、一族の少女以外は族長の許可が要るが」


「俺がこんな顔をしているのは、魔道族の奴らに呪いをかけられたからです。でも、今はそんなことは関係ありません。ここに来たのは、プレシオ――俺の妹を捜すためです。そのためなら、命を犠牲にしてでも、戦います。ですから、そこを通して下さい」


 ヒアは必死に頼み込んだ。彼の妹に対する想いが伝わったのか、番人は言う。


「よし、わかった。今回は特別に、お前達を神殿に行かせてやろう。後でこのことは、クリカ族長に知らせておく。行ってきなさい」


 四人に対し、番人は神殿に続く道を開ける。リタとヒアは、静かに頭を下げた。四人は、ひたすら聖域の奥を目指して走る。


「ヒア、あんたの妹って何歳?」


「ヨゼフ! それを聞いちゃ、失礼よ」


「良いよ、ナンシー。妹は、丁度ヨゼフくらいだ」


「そうなんだ……」


 走りながらヨゼフは、寂しげな顔をして言った。ヒアに妹がいるという事実を知り、ヨゼフは幼い頃に亡くした弟のことを思い出して涙を流す。


「どうした?」


「あ、いや、何でもないよ。妹がいるあんたが羨ましくなって……」


 ヨゼフは急いで、涙を腕で拭う。が、ヒアには、彼の悲しい気持ちが手に取るようにわかった。


「弟を失ったのは、確かに辛い。でも、今の僕には《新しい家族》と呼べる魔族達がいる」


「それって、私達のこと?」


「ああ。僕には二人のお姉さんと、一人のお兄さん――つまり、あんた達がいる。だから、カルツフォイがいなくても大丈夫」


 四人が話している間に、神殿の入り口が見えてきた。四人は聖域の階段を上り、神殿前まで来た。その神殿は葉龍女神がいるというだけあり、入り口に木の葉のようなデザインの彫刻が施されている。


「もしかして、ここが葉龍女神の神殿?」


「そうさ。あいつが小さい時は、俺がよく迎えに来てたから、大体の構造は把握済み。さあ、行こう」


 ヒアに急かされ、三人の龍戦士は神殿に入る。リタ達が入った後、木陰から少女らしき声がする。


「うふ。そう簡単には、行かせないわ」


 謎の少女は、半袖のマントを身につけたまま神殿に入り、リタ達を尾行し始めた。

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