ナンシーと火龍神、その4―火龍族が崇める神―
スクルド町の外れの火山の中にある、火龍神バイルが祀られている神殿。その奥で、ナンシーと二人の龍戦士が、火系魔道師フィアロスと対立している。火系魔道師フィアロスは、確認のために彼女達に訪ねる。
「戦いの前に何だが、お前達は本気で俺に勝てると、思ってるのか?」
彼の態度は、《火系魔道師》という名とは逆に冷徹なものだった。その態度にもめげず、リタは答える。
「もちろん、勝つ――いや、勝たなきゃいけないのさ。この魔界を守るためにもね」
「ほう、なかなか威勢が良いな。流石は、砂龍族の王女だ。が、俺の灼熱の炎に耐えられるかな?」
フィアロスは領主とそっくりな、悪意と殺意に満ちた発言をする。戦いが始まって早々、彼は剣から三つの小さな炎の塊を繰り出した。それに対し、リタは爪から、砂属性の初級呪文を繰り出す。彼女達が戦っている間、神殿長は丈夫な石で造られた柱の陰に隠れることにした。
リタ達は祭壇中央の赤い水晶玉を守るため、三つの辺を囲む。
「アクア・インパルス!」
ヨゼフは槍に水属性の魔力を込め、それをフィアロスにぶつける。が、彼の一撃は魔道師にとって、掠り傷程度のものでしかない。
「それが、水龍戦士としての実力か? まだ覚醒したばかりであっても、俺の足を怪我させるくらいの力は持っていてほしいな」
フィアロスは、先程ヨゼフが放った呪文について指摘する。彼はめげずに、言い返す。
「僕はまだ、僕自身の力を取り戻したばかりなんだ。急に、強力になるわけがないだろう」
ヨゼフは、自らの身長に不釣り合いな槍を持っているせいで、力を制御できないのではないかとさえ、自分で思っていた。
(このままじゃ、二人が危ないわ。でも、どうすれば良いの? 今私が持ってる斧じゃ、フィアロスに勝つどころか、二人を守ることすらできない。火龍神バイル。どうかこの私、火龍族のナンシーに、全ての魔族達を守るための力を与えて下さい。ほんの一瞬でも良いから……)
ナンシーは、一所懸命に火龍神バイルに祈りを捧げる。
「ナンシー、何してるの? 早く、ヨゼフを援護して」
リタは、ナンシーを叱るように言った。その時、リタはナンシーの体が、赤い光に包まれていくのを見た。
(あの光は……。間違いない、あれはナンシーだ。きっと、彼女自身の龍戦士としての覚醒が始まったんだ)
仲間の覚醒に気づいたのは、リタだった。彼女は、ヨゼフに言う。
「ヨゼフ、君はナンシーを援護してくれ。私は引き続き、この魔道師と戦うから」
「了解、気をつけて」
ヨゼフは、額の汗を拭きながら返す。汗で濡れているためか、リタの鬣がいつもより淡い青色になっている。それでも彼女は、右手にデュラック・クローを構え、魔法を発動する。
「クロー・スパークル!」
リタの砂属性の中級呪文が、フィアロス愛用の剣を折る。
「くっ! 俺の剣を折るとは……。だが、今のお前の力は、本物ではない。全て、砂龍神デュラックの力なのだ」
そう言って火系魔道師は、火龍神の神殿を後にした。
(私が、砂龍神デュラックの力に頼ってる? そんなことはないさ。最も、今のは本気じゃないけど)
リタは先程の魔道師の言葉を、少し気にしていた。彼女は、ナンシーの方を向く。戦いが終わって間もなく、赤い光は地面で光り、そして消えた。ナンシーは目を開き、何があったの、と言いたげに自分の姿を鏡で見る。
「私にかけられていた呪いが、解けたのね。良かったわ、本当に」
ナンシーは嬉しさのあまり、涙を流す。鏡に映っていたのは、火龍族の少女らしい赤くすべすべの肌、少し曲がった角、そしてセピアの鬣などが揃った姿だった。
「良かったね、ナンシー」
「驚いたな。まさかあんたが、三人目の龍戦士だなんて。これからも頼むよ、ナンシー」
「こちらこそ。リタ、ヨゼフ」
三人が話し合っていた時、柱に隠れていた神殿長が現れた。
「神殿長、ご無事で何よりです」
「ありがとう、リタ姫。あなた達のおかげで、神殿を守ることができた。これで、火龍神バイル様もお喜びになられるだろう」
リタ達の声に反応してか、赤い水晶玉は眩しい光を放つ。そして、火龍神の立体映像のようなものが、四人の前に現れた。
『ナンシー、君の声をしっかりと聞かせてもらったよ。君は龍神達の聖なる力を、受け継ぐにふさわしい魔族だ。さあ、これを受け取ってくれ。俺の火の力――この魔界を守るための力を』
火龍神は、ナンシーに小さめの斧を授ける。それは、セイント・ウェポンの一つ、《バイル・アックス》だった。ナンシーは、静かに頭を下げる。
『ナンシー、君も薄々気づいてるだろうけど、最近《漆黒の魔道師》の力が強くなってるようだ。くれぐれも、気をつけてくれ。そして、この魔界を救ってくれ。砂龍王子デュラックや水龍騎士アークレイも、君達を見守っていくからな』
火龍神は三人に注意を促すと、再び水晶玉に戻る。四人は静かに頭を下げる。
「さて、そろそろ町に戻ろうよ。ゼネラ族長も、待ってるわ」
ナンシーは他の三人に促し、神殿の外に向かう。




