吾が輩の日常
吾が輩はにゃんこである。
猫では無いぞ。にゃんこだぞ。
吾が輩の家はマンションのワンルームである。さして広くない場所に生活必需品以外の物まで詰め込んでいるものだから、さらに狭くなってしまっている。ご主人様にも少しぐらいは整頓をして欲しいものである。
しかしご主人様は多忙だ。仕事に趣味に遊びに趣味。やらなければならないことが沢山あるから仕方がない。
だから、疲れきったご主人様を癒すのが吾が輩の役割である。
ご主人様はとても寂しいお方だ。
友人はおそらく居ない。しっかくの一人暮らしだというのに、この部屋には誰も招待していないのだから、間違いないだろう。
部屋の荷物は大半がゲームである。
よく解らないが『Rー18』と示された物は大事に保管されていて、他のものは適当である。こんなに適当ばかりでは確かに、友人が居ないのは仕方がないかもしれない。
ご主人様はお酒を飲まない。
仕事でストレスを抱えて酒に入り浸ろうとするとすぐに吐いてしまうのだ。情けない。
さて、そんな友達も居ない寂しい残念なご主人様だが、実は最近帰りが遅い。
拾ってくれた礼に この可愛い吾が輩が癒しを提供してやっているというのに、なんなんだあの恩知らずはっ。今度噛みついてやるからな! あまがみだぞ! 覚悟しろ!
…………は? 心配かって? そんなはずがなかろうに。
吾が輩はなゃんこであるぞ。ご主人様から頂いた素晴らしき名が示す通り、吾が輩は自由気ままに生きているのだ。ビバッ、ご主人様! 敬愛なんてしていないんだからね!
しかし帰りが遅いな。
実は吾が輩、ご主人様の帰りを玄関前にて2時間程待っている。
いや、心配なんてしてないけどね? 御飯ならペットフードぐらい自力で開けられるしなんなら我慢も出来るからなんも心配要らないんだけどね。
ただほら、なんか、ここで諦めてしまったら今までの2時間が無駄になるから。なんかそれが嫌というかなというか。全く、こんなムカムカさせられるのたわから、吾が輩はご主人様の事なか世界中のなによりも――
「ただいまー。今帰ったぞ、にゃんこー」
――愛していますよそりゃ勿論ですともー!!
「うは、おいにゃんこ、いきなり抱きつくなよ。お腹減ったのか? すぐ用意するからなー」
ああ、この温もりと優しい声と気遣いなかもう大嫌いなくらい大好きです!
――あ、忘れてた。
「おお、なだよにゃんこ。今日はやけにジャレてくるなー。あまがみなんていつもはしないのに。くすぐったいだろー」
今日こそあまがみするって覚悟してましたからに。そりゃあ私が――もとい、吾が輩が。
「あ、渡来君、ペット飼ってたんだー。超かわいいー」
むむっ、ギャルの気配!
気付くと玄関の入口に、な、なんと! ご主人様がオナゴを連れて来ただと!?
赤飯だ! 今日は赤飯だ!
「だろー? 名前は、にゃんこっていうんだぜ!」
「…………え?」
「だから、にゃんこ」
「ごめん、もう一回繰り返すけど……え?」
「うん。にゃんこ」
吾が輩を指差しながら不穏な空気が滲み出すご主人様と連れのオナゴ。むむ、何事だ?
「――にゃんこって……。この子、犬だよね? 」
「うん。柴犬だぞ」
うむ。繰り返すが――
――吾が輩はにゃんこである。
猫では無いぞ。にゃんこだぞ。大事な名前だから2回言ったぞ。
ちなみに生物としては、犬ということらしい。