005 交戦
はい、今回やっと戦闘です、代わりに、チート全開の一方的な安心戦闘です。
ではどうぞどうぞー
俺は今、地面に倒れ伏している。理由は、このフィールドのせいである。ここは、高低差が高く、魔石車では、拠点設置場所まで行けないからだ。おかげさまで、拠点設置場所までの、約6キロを、重い荷物を持って歩く羽目になった。
そして、情けない話だが、俺は地面に倒れ、一緒に来たアルナ(しかも俺より重い荷物を持っていた)
は、何事も無かったかのように、剣の手入れを始めていた。
「何?もうへばっちゃったの?」
蔑むような目で見下ろしてくる。チクショー
取り敢えず、いつまでも倒れててもしょうがないため。もう疲れ通り越して、痛い体に鞭打って、立ち上がる、その姿を見て、アルナは、少し驚いた顔をしていた。が、すぐに普段の顔に戻り、笑みを浮かべながら、手を差し出してきた。
その手を、俺はしっかりと握り、立ち上がった。(とはいえ、ちょっと押されただけで倒れそうだが)
「じゃあ、そろそろ行きましょ」
そう言って、俺の剣を差し出してくる。どうやら手入れをしてくれていたようだ。
「ああ、ありがと」(でも、もうちょっと休憩したかったー)
そして、俺の思いなぞ露知らず、彼女はどんどん進んでいった。
―――奥地 台地―――
「ぜぇぜぇ…はぁはぁ…」
無理だったわー、ぜんっぜん体力が持たん、そもそも、此処に来る前も、あんまり動かない、インドア
系だったしなー…あれ?
そういや俺、この世界来る前って、なにしてたっけ?
そんなことを考えていると、不意にアルナが立ち止まり、危うくぶつかりそうになった。
「あ、危な―――」
「周りぐらい見れないの?」
少しとがったアルナの口調に、周りを見渡すと、いつのまにやら2メートル半はありそうな化け物がいた。
「なんじゃこりゃあ!?」
ベタだとは思いつつも、取り敢えず叫ぶ。すると、アルナが比較的冷静に、しかし、一筋の汗を頬に伝わらせながら諭した。
「これが目的のエビルホビット。
数は…3体」
「それは…倒せますか?」
恐る恐る聞いてみると、アルナはしばらく考えた後で。
「――――ムリッ!――――」
そう言うと同時に、来た道を猛ダッシュで逃げ出した
「な、なにぃっ!?」
そう叫んでから、俺も慌てて走り出す。
しかし、動揺していたのか、すぐに袋小路に行きどまる。
「うっそ…」
後ろを振り向くと、ホビットたちが猛然と走ってくる。もう逃げ場は無い。
「ッ!、…迎撃するしかないっ!」
「でも、何か増えてない!?」
俺が指摘するが、彼女は信じたくないのか、こう言い放つ。
「気のせいよッ!!」
そうは言うが、明らかに増えている。目算だが、5,6体はいるだろう。
絶望的だ。だが、そうは思っても、とりあえず、腰の剣を抜き放つ。それに続き、アルナも抜刀する。
何処から出すのか分からないようなくぐもった声を上げ、次の瞬間、手にした、棍棒のようなものを振り上げ、襲い掛かってきた
sideアルナ
最悪だ、いきなり平原に出たと思ったところで、3体のホビットの集団に出くわしたのだ、
慌てて逃げ出すが、予想以上に自分が焦っていたことが実感できた。道を間違え、袋小路に突き当たってしまった。
迎撃体制に入るが、相手が増えている。どうやら、逃げる途中で集まってきたらしい。
私一人なら、閃光魔石を持っているため、脱出は可能だが、今回は彼が居る。
見捨てる、という考えもあるが。私のポリシーに反するし、悪評が広まるのも嫌だ。
…奴等に見つかる可能性も飛躍的に高まる。
「き、来たぁ!?」
と、そんな悠長なことを考えている暇もなく、いつの間にかホビットたちに取り囲まれていた。
しかも、私と、レンは綺麗に分断されている。これでは、まず無事に生還できる望みは、ほぼ無い。
たとえあったところで、血反吐を吐きながらの帰還になるだろう。
そう思った次の瞬間、ホビットたちが雄たけびを上げながら迫ってきた。
「っ!くっ!」
とっさに剣で受けるが、大きく後ろに跳ね飛ばされる。
「きゃっ!」
地面に叩きつけられながら、彼の姿を確認すると、逃げ回っている、だが、すぐに壁際に追い詰められる。
ホビットの腕力は強い。新人の代謝能力で、新人の防具では、ほとんど一撃で殺されてしまう。
そして、ホビットが棍棒を振り上げ、彼に向けて振り下ろす。終わった。そう思った。しかし…
――ガキィン!
硬質な音が響き、棍棒が彼の剣に受け止められた。しかし、私が真に驚いたのは、懇望を受け止めた彼の腕だった。
(か、片腕で!?―――)
そう、棍棒を受け止めた彼は、片腕だけで剣を支えていたのだ。
ありえない、奴等の威力は、岩を軽く粉砕するのだ。
しかし、彼はそれだけに留まらず、棍棒を跳ね上げると、間髪入れずに、奴の右目を貫いた。
ここでも疑問が生じた。彼は、エビルホビットの名前も知らなかったはずだ。
エビルホビットの重要器官が多く集まっている部分、つまり弱点が、右目なのだ。しかし、私は彼にそれを教えた記憶は無い。
すると、彼が不意にこちらを睨んできた。その眼は、緋色に輝いていた。
と、次の瞬間、恐ろしいまでの死の恐怖を感じた。まるで、今「お前を殺す」そういわれたような気がした。
そして、いきなり手に持った剣を、投擲した。
あわててしゃがむ、すると、後ろでくぐもった悲鳴が聞こえた。
反射的に振り向くと、右目に剣の突き立ったホビットが居た。どうやら私を後ろから殴りつけようとしたようだ、それを、投擲した剣で倒した、ということらしい。
どちらにせよ、私自身は悲鳴を上げる暇すらなかった。
そのまま彼は飛び上がり、倒したホビットから剣を引き抜くと、残りのホビットを睨みつけた。
感情表現のほとんどできないホビットたちが恐怖に震えたのが分かる。
「安心しろ…誰一人逃がすつもりは無い…」
彼がそういった瞬間、弾かれたようにホビットたちが逃走を図った。が…
「クク…」
不気味に笑った後、姿が消えた、いや、移動したのだ、目では追えない速度で。
「グオオォォ…」
声が響くと同時にホビットたちが一斉に倒れる。
そして、それらが黒い粒子となって消滅し、牙や、棍棒等の戦利品が残った。
「グオオォォッ!」
またもや雄たけびの声の主を振り返ると、何処からとも無く、またホビットたちが集まってきていた。恐らく、仲間の断末魔の声を聞き、集まってきたのだろう。その数、4体。
「さっきが6体、今4体、クク、都合がいい…」
そして、彼は狂気に侵された様に、舞い踊るかのごとく、剣を振るい続けた。
―――数分後―――
そこは惨状だった。魔物の消滅までの短時間までに流れた血によって、草木から岩に至るまで、全てがどす黒い色に染められており、思わず目を覆いたくなった。
あの後、ホビットたちを殲滅したレンは、突然走り出し、追いかけると、無差別にモンスターを殺していた、そう、それはまさに殺戮。
そして、今彼は木に寄りかかり、座り込んでいる、その眼は、まるで感情を無くしたように、虚空を見つめている。
「ねぇ…レン?」
問いをかけると、はっとしたように、眼に光が戻った。一瞬、私が殺されるのでは、そう思ったが、彼は周りを見渡し、いつもの声の調子で、こう尋ねた。
「ここは…何があったんだ?」
「はぁ!?」
とぼけているのか、そう思ったが、彼の様子は嘘をついているようには見えない。
しかし、確かに人格が変わっていたとはいえ、この惨状を作り出したのは、紛れも無く彼自身なのだ。
ともかく、ギルドに帰らなければならない。
その後は、少々ふらつく彼に肩を貸しながら(彼は嫌がっていたが)ギルドの魔石車に向かった。
―――ギルド―――
彼は疲れているようだったので、家に帰しておき、ギルドに向かった。ギィィという音を立てながら扉を開く。そして、リーラと話したい事もあるが、取り敢えず報告を兼ねて、受付に一直線に向かう、幸い、受付にはリーラしかいなかった。
受付に着くと同時にテーブルから乗り出して、リーラに話しかける。
「…どういうこと?」
「?何が?」
しらばっくれている。まだ短い付き合いとはいえ、その程度は分かる。
「彼よ!なにあれ!?山林エリアのモンスターはほぼ壊滅状態よ!」
「まぁまぁ、無事に帰ってこれたんならいいじゃない?」
「ううう――――」
…返す言葉が無い。
と、いうか、リーラは彼の素性を知っていたのだろうか?
それはさておき、今回の件は、だいぶ広範囲に広がるだろう。恐らく、奴等もコレに気づく。そうなれば私は…
私の気持ちを読んでいるように、リーラが視線を向けてくる。
言っておいたほうがいいだろう、いろんな意味を含めて。
「ねぇ、リーラ…」
「なぁに?」
そして、長い間秘密とし、さらにギルドに入る理由となった秘密、それを明かした。
長い夜が、町に訪れていた。
あらら、主人公暴走しちゃいましたね、
ああ、アルナが頑張って仕込んだ伏線については次回で分かります
でわでわ。