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第17章 幸福(1)

ブラインドの隙間から漏れる朝日が綾香の白い肌に当たり、堅の胸の上に

頭を乗せて静かに寝息をたてている。


堅は背中にクッションを重ね、頭を少し起こして綾香の寝顔を見ていた。

広いベッドの中央、ほんの僅かなスペースに二人は体を寄せ合う。

1時間ほど前から目を覚まし触れたい気持ちを抑えながら綾香を起こさ

ないように息を潜めていた。シーツが綾香の胸から下に掛かっていて何

も纏わない肌が触れ合い温もりが伝わる。一つになれた喜びと今まで感

じた事の無い満たされた感覚が体の中に溢れていた。


細くて柔らかな髪に朝日が当たりツヤツヤと輝いて見える。綾香の寝顔

は子供のように幼く見えて口をほんの少し緩ませ穏やかな表情だった。

(まるで、子供だな)


そんな風に想うと可愛くて愛おしくてたまらなくなる。

綾香の寝息が変わった。

ゆっくり頭が動く「ん・・・」

綾香が目を覚ますのをずっと待っていた堅は起きたのを確認すると細く

て柔らかい髪を撫でた。

「おはよう」

胸に頭を乗せたまま、ゆっくりと堅を見ると重そうに瞬きをする。その顔

がなんとも言えないくらい無防備で笑みがこぼれた。

目覚めて直ぐ堅が見ている。


(・・やだ、もしかして寝顔見られていた?)


意識がハッキリしてくると途端に恥ずかしさがこみ上げる。無言で

ゆっくり瞬きして顔を下に向け頭からシーツを被った。

「綾香?」

「いつから起きていたのぉ?」眠そうな口調で話す。

「1時間くらい前かな?」

「やっ、やだ寝顔見ていたの?」

「うん、ヨダレたらして大口開けて寝ていたね」と笑いながら意地悪を

言ってみた。それを聞いて、瞬間で顔が熱くなる.


「え〜どうして見るのよ。恥ずかしいなぁ」とシーツを被ったまま顔

を出さない。

(今どんな顔をしているんだ?)


その顔が見たくなって頭に掛かったシーツを剥がす。

「きゃっ」

シーツを剥ぐと背中が見えた。そのまま覆いかぶさるように上に

なると綾香は仰向けになり胸元をシーツで隠す。 白い頬が紅潮してい

て大きな瞳が潤んで見えた。唇が微かに震えていて堅と目が合うと顔を

逸らし恥ずかしそうに目を伏せた。


その顔がたまらなく愛おしく、昨夜の薄暗い部屋では分からなかった綾香

の顔がどんな風に変わるのか見たくなる。


胸元にシーツを被せていた綾香の右手をゆっくり解く。綾香は恥ずか

しそうに瞳を揺らして堅を見た。

シーツに手を掛けてゆっくりと体から捲っていくと豊かな胸が露になる。

肌が露出して恥ずかしそうに目を伏せると右手で隠そうとした。

「綾香」


名を呼ぶと堅を見た。瞳を見つめて視線を捕らえると唇を重ね

て激しく絡ませる。 綾香の手から力が抜けていくのを感じた。そのまま

シーツを体から外していくと白い体が朝日に照らされてベッドの上に現れた。

「見ちゃ・・だめ・・」

「綺麗だよ」

紅潮した頬が愛おしくて堅は悪戯気に微笑むと綾香の胸に顔を埋めた。

次第に息が荒くなり綾香の艶やかな吐息が部屋を満たしていく。






シャワーを浴び疲れては眠り。目覚めて食べ物と飲み物を口にしては

飽きる事無くベッドで絡み合う。 愛おしくて綾香を離したくなかった。

濃密な時間がゆっくりと過ぎ、やわらなか肌の感触と甘い声が、瞳が堅を満た

していく。

日差しが傾き始め部屋に西日が差し込むと腕の中に顔を埋めている綾

香が堅を見た。

「堅。そろそろ起きようぉ」

「そうだな、何か食べに出よう」と綾香の髪を撫でる。

「堅はいつも外食なの?」

「あぁ。そうかな、でもここで食べる時もあるよ」

「え?堅の家で?」と驚いた様子で聞くと堅は少し微笑み。

「シェフを呼んで作ってもらうんだ」

「キッチンあるの?ここ」

「ああ、シェフが使うように最低限のものはそろえてあるよ」

「堅って、手料理とか食べた事あるの?お母さんとかの」

堅は少し考え込む。

「母親は僕が10歳の時に他界して、まぁ。それまでも使用人が作って

いたけど時々キッチンに立って作っていたな」

綾香はそれを聞いてベッドから体を起こして堅を見つめ

「どんな料理?」と瞳をキラキラさせる。

「野菜が沢山入っていてスープみたいなポトフって言うのかな?

シンプルな味の」

「そうなんだぁ」

「あまり、料理は上手ではなかったけどアレだけはうまかったな」

遠い記憶を辿るように瞳を輝かせて言った。

(堅って、手料理あんまり食べた事ないんだなぁ。確かに豪華な食事は

美味しいし、きっとシェフも一流の人で味も食材も完璧なん

だろうけど、なんだかそれって寂しいかも)

少し考え込むと唇に人差し指を当てた。

「ねぇ、今日私が作ってもいい?」

「え?綾香が?ほんとう?作れるの?」

「私、お料理得意なんだよ。これでも家でちゃんと作っているんだから」


得意げな顔で微笑む綾香が可愛くて笑いを堪えた。

「じゃぁ、作ってもらおうかな」

堅の顔を見てニンマリ笑うと頬に素早くキスをして「お買い物行こう!」

とベッドから飛び起きた。 その素早さに驚き目をパチパチさせていると体

にシーツを巻きつけて着替え始めた。子供のようにはしゃぐ後姿を見て笑い

がこみ上げる。


(本当に、綾香と居ると退屈しないな)


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