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第16章 密度(2)

堅は部屋の灯りを点けた。間接照明が柔らかく室内を照らし奥にあるカウ

ンターのライトがつくとまるで貸切りのお洒落なバーにいるような錯覚に

陥った。リビングの大きな窓には夜景が広がっていて綾香は部屋に入るな

り眼下に広がる夜景を見て微笑んだ。

「わぁ〜綺麗〜」


その顔を見て堅はホッとしていた。泣きそうな顔だった先ほどの綾香を

思い出し切なくなる。綾香が堅との違いに戸惑い悩んでいるのと同様に

堅もまた綾香に対してどう接したらよいのか考えていた。


これほど強く女性を愛した経験が無い堅にとって愛しく思えば思うほど

気持ちが空回りしてしまう。困らせたくない幸せにしたい。その笑顔を

守りたいと思うのにその手段が分からないでいた。

「前来た時は雨だったけど、今日は晴れていて綺麗に見えるね」

と瞳をくりくりさせて隣に立つ堅を見上げると優しく微笑む。

「何か飲む?」ゆっくりとした口調で話しかける。

その瞳が夜景に照らされて煌めいて見え、綾香はまた堅を意識して緊張した。

「あ、うん」とぎこちなく微笑む。

(やだっ、なんか意識しちゃうよぉ。緊張でトイレ行きたくなってきた)

「あ、化粧室借りてもいいかな?」

何気に言った言葉を口にした後、堅の顔を見てまた緊張する。

堅はいつもの優しい微笑みで綾香を見た。

「じゃぁ、ついでにシャワー浴びて着替えてきたら?」

さりげなく言ったつもりの言葉が思いのほか大胆だったと綾香の顔を窺う。

(なんか。不自然だったな)

「あ、うん」(やだ、なんか余計に緊張)

綾香が俯いて頷くと堅は先ほど買ってきた紙袋を手渡す。

「バスルーム分かるよね?」

「うん」


返事をするつもりで堅の顔を見るとその瞳が妖しげでまたドキドキした。

気持ちを落ち着かせようとトイレに入る。洗面所にある大理石で出来たカ

ウンターにもたれ掛かると深呼吸して鏡を見た。

(顔が赤いよ〜)ふと、体に汗をかいている事に気がつく

(今日は緊張の連続で、そう言えば汗でべとべとだぁ)

シャワーを浴びて髪を乾かし体を拭くとバスタオルを巻いて袋を開けた。

下着やルームウエァーが何点か入っていてもう一つの袋には部屋用の

ミュールが2足入っている。下着を身につけてルームウエアーを着る。


白の上質なシルク。全体的にゆったりとした感じだったが胸元が少し

大きめに開いていてレースが重なるようにあしらってあり、ウエスト

のラインから下は体の線が綺麗に出るデザインだった。

(これってルームウエアーって言うよりも、ワンピースだよね?なんか

お姫様チックで私のイメージに合わないかも)そんな風に思いつつおそ

ろいの色の可愛いミュールを履いた。


緊張感に包まれたままリビングに出る。


足元を柔らかな光に照らされ、広いリビングの奥にあるバーカウンターに

ゆっくりと歩く、堅がカウンターの中で何かをしている。どんな反応をさ

れるか少し心配になった。

(似合わないとか思われたらどうしよう)

深呼吸をして一歩一歩ゆっくりと近寄る。堅は綾香を見ると真顔のままカ

ウンターから出た。

(やだ。なんだか、やっぱり似合わないのかも。堅、真顔)

堅の目の前で立ち止まると薄暗いライトで陰り遠目でははっきりと窺え

なかった眼差しがドキッとするほど優しく、そして妖しく輝いて見えることに気

がついた。また白い歯を見せてニッコリ微笑み「似合うな」と呟くと綾香の頭を

大きな手のひらでポンポンと優しく撫でた。

「ほんとう?」と堅の顔を覗き込むように聞く。


少し胸元が大きく開いた服の隙間から白い肌が見えて堅は緊張していた。

覗き込むように聞く顔がたまらなく可愛く見えて、抑えているつも

りでもコントロールが効かないと自覚するほどにやけている事を実感し

ていた。

「うん、似合うよ」

さらに深く微笑んで堅のゴツゴツした顔は柔らかく緩み、頬に笑窪が

出来た。その笑窪が意外なほど可愛く堅がまるで子供のように見える。

「座って」

イスに座ると堅はカウンターの中に入り空のカクテルグラスをカウンタ

ーの上に置く。鮮やかな手つきでシェイカーからカクテルを注いだ。


カクテルを丁度グラス1杯分きっちり注ぐと、ゆっくりと滑らせるように差し出す。

「あは、カクテル作れるんだ」

その手つきも感心したが意外な一面を見られて嬉しさがこみ上げる。

「酒は好きだからね」と優しく微笑む。

「それ、飲んで待っていて僕もシャワー浴びてくるから」

少し俯いてカクテルグラスを口に近づけると、その言葉を聞いて堅の顔を

見上げた。目が合って恥ずかしくなる。(なんだか私意識しすぎ)

「うん」

と微笑むと直ぐに俯いた。 カクテルは淡い綺麗なブルーで微かに甘く

柑橘系の味がした。

「美味しいなんて言うカクテルかな?」


グラスから唇を離して一人になった広いリビングを改めて見回す。

(広いなぁ〜。これってどのくらい広さがあるんだろう?さっきのレス

トランの倍以上はあるよね)

家具や観葉植物一つ一つが間接照明によって上品に照らされ、まるでショール

ームに居るような気分にさせる。一面の大きなガラスからの望める夜景がこの

部屋にはまるでインテリアの一つの様に輝いて見える。


(お金も掛けてあるんだろうけど厭らしさを感じさせない、シックで上品で凄

くセンスがいい)




バスルームの方からドアが開く音がした。カウンターに腰掛けたまま

回転するイスに座り振り返ると、白い襟がついてゆったりとしたシャツ

とおそろいのズボンを着たラフな格好の堅が歩いてきた。髪がセットしていない

ままの洗いざらしで少しだけ幼く見える。いつもと違う姿にまた胸が高鳴るのを

感じた。



歩み寄り近づいてくる堅は綾香の視線に気が付くと笑顔になる。

「おまたせ」と微笑んでそのままカウンターの中に入り、空にな

ったグラスを下げてシェイカーに手際よく何かを入れて振った。


別のグラスに葡萄色のカクテルを注ぐと静かに差し出す。

「ありがとう」

「さっきのカクテルってなんて言うの?」


「これはカシスソーダー。さっきのはオリジナルだよ」

「オリジナル?すごい〜作れるんだね」

「綾香をイメージして作った」悪戯気に笑う。

「あはは、私のイメージ?ってどんなだろう?」


笑ってから首を傾げる。堅は綾香を見て不敵に笑うと。

「聞きたい?」と綾香を見つめた。

「意地悪だなぁ〜、んー聞きたい!」堅の覗きこむ様に身を乗り出した。

堅は綾香の顔を見て、少し真顔に戻ると意地悪な顔で

「やっぱり、教えない」と笑った。

「なによ、それぇ〜」(堅やっぱり意地悪)と少し頬を膨らませる。

「あはは。そう言う事は言わない主義」と白い歯を見せて笑う。

「聞きたい?って言うんだもんっ」とさらに頬を膨らまして堅を見ると

「じゃぁ〜私も堅のイメージ言わない!」とグラスに口を運んだ。

堅はロックグラスに氷を入れてバーボンを注ぐとカウンターから出て

隣に腰掛ける。

「それは、聞きたい」とマジマジと綾香を見た。

その距離が近くて、子供みたいに瞳を見開いて顔を近づける堅が可愛くて

思わず噴出しそうになる。

急いでグラスから口を離すと「聞きたい?」と少し上目使いで堅を見た。

「うん!」と普段の堅からは想像も出来ないような顔で頷く。


「あはは、内緒〜!ぜーったい言わないもん」

「・・・意地悪だな」

堅の顔がふと真顔になり戸惑った。その瞳がまた妖しくそして深い優し

く煌めいている。隣に座る堅との距離が近い事を急に意識し始める。


視線を逸らすと、少し膝が堅に向き合っていたのに気がつき直ぐに正面

を向いた。カクテルを口に運び胸に突き上げるように感じる高鳴りを抑

えようと必死になる。平静を装いながらも横顔に視線を感じていた。

体を揺らす胸の高鳴りはグラスを持つ指先にまで伝わる様で微かに震え

ている。(やだ。急にドキドキしてきちゃったよ)

「綾香」

「な、なに?」


(なんだか堅の顔見られないよ)

そのまま正面を向いてカウンター奥の棚に並べてあるアルコール瓶に目が行く。


「綾香どうかした?」

「ううん、どうもしていないよ」


ぎこちなく笑うとグラスを置いて手を膝の上に置いた。不自然なほど

堅を見ないように視線を逸らしたまま。


堅は綾香の右手をそっと握る。

「震えている」

そう言って口元まで運ぶと、唇を押し当てるように優しく手の甲にキスをした。

驚いて堅を見るとまた不敵に笑って「やっと僕を見てくれた」そう言って悪戯

気に見た。


その瞳に吸い込まれそうで堅と見つめあったまま視線が外せなくなる。

少し笑顔が消えるとその表情は驚くほど切なくなった。軽く眉を顰めて

瞳は潤んでいて唇は寂しげで。顔がそっと近づくとそのまま逃げられ

なくなる。

触れ合わなくても肌の温度を感じ取れるほど近づくとそっと目を閉じた。

少し酔っているせいか堅の唇が激しく動く。下腹部から熱くこみ上げる

何かが瞬間で全身に行き渡ると、唇の隙間から吐息が漏れた。


頭が真っ白になり何も考えられなくなる。絡み合う唇がほんの少し離れ

ると堅が呟くように言う。

「綾香、僕の肩に手を回して」

言われるままに両手を肩に回すと堅の唇がまた激しく絡みつく。

そのまま堅が立ち上がりながら、綾香の膝の裏に手を入れて持ち上げると軽々

と抱きかかえられ腕の中に居た。驚いて唇が離れる。胸に顔を埋めたまま下を

見て慌てた。

「えっ、重いよ?!私?」

(やだ。どうしよう本当に重いのに)

恥ずかしくて体が硬直するように力が入る。堅の瞳が優しくそして妖し

く煌めいていてまた戸惑うと堅は微笑み、そのままカウンターから離れ

てリビングの奥に歩き出した。

安らぎを覚える堅の暖かい温もりが伝わってくるとその心地よさに

力が抜けて胸に顔を埋めた。

薄暗い部屋に入り、足元の小さなセンサーライトが点く。その微かな灯

りが漏れると広いベッドルームだという事が分かった。体中に突き動く

ような緊張感が走る。大人が4人くらい横になれるベッドにゆっくり下

ろされると仰向けになった。


堅は見詰め合うように上に覆い被さる。

体に負荷が掛からないように体は僅かに離れていたがその両手は綾香

の指と絡み合い、再び唇を重ねる。


堅の体に高揚感と刹那が溢れ出し止まらなくなっていた。

切なくて、愛おしくて

(出来る事なら、綾香の体を僕の中に取り込んで一つになってしまいたい)

そんな風に想いながら唇を重ねる。二人の唇から漏れた吐息が絡み合うと

堅がそっと頬に唇を動かし、ゆっくりと耳下へと移動していく。


そのまま首筋から鎖骨へと動く堅の唇が綾香の体に心地よい刺激となっ

て伝わり意識していなくても唇から声が漏れる。

肩紐を外す堅の手の平が熱く感じ、少しずつ肌が露出していく。


気がつくと二人の呼吸が速くなり裸で何も纏わない体が重なり合った。

高揚感と切なさがどうしようもないほど二人の体に溢れる。

堅の指と唇が綾香の体を辿ると普段の何倍も敏感になったかの様に体

が反応する。下腹部を過ぎて堅の唇が下に移動すると綾香の口から声が漏れた。

「け・・・ん」

堅は体を浮かせると綾香の左太ももを右手で持ち上げながら体を上に

移動させ、綾香の震えを押さえるように唇を重ねた。激しく絡み合い舌

先が触れ合うと堅はゆっくり体を押し付けた。


僅かに離れた唇から綾香の艶やかな声が漏れる。

もう誰にも止められないほど高まる感情。二人の体から放たれる熱は

広く静まり返ったベッドルームに充満するように広がる。


次第に早くなる堅の動きが綾香を突き上げ激しく揺さぶり、普段の殺伐

とも言える空気が充満している冷たく乾いたこの部屋に、綾香の甘い吐息と

ベッドの軋む音が響き渡った。体の鼓動が一つになって二人は幸せな気持ちで満

たされていった。


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