死霊祭
やっと終りが見えましたよ。少し時間があきましたが、大したオチもないまま申し訳ない気持ちでいっぱいです。
メキシコには死者の日というものがある。
日本でいうお盆に酷似した死者の魂を年に一度家に迎え入れ対話する儀式である。
今行われようとしている死者の祭りは、正式には「死霊祭」という。
死者が生者に対話を求める祭りである。
今、死んだ御大が息子娘に対話を求めているのだ。
「今から結界を張ります。ここから出ないでください」
マヤが呪文を唱え始めた。その呪文は時郎も知っている。前にある事件でこの呪法を使われ、回避するために紅夏が使ったことがあるからだ。死者の霊を退ける結界の呪文である。
死霊祭は実は祭りではない。裁判なのだった。死者が生者を裁く為に審判の場を形成し、罪に対する罰を裁定するのだ。
時郎が結界の外に出ると生きた人間として同罪で裁かれてしまうのである。死霊に見境はないのだ。
「やはり御大はこうなることを想定して断罪する気だったのか」
呪文を唱え終えて結界を形成したマヤに尋ねた。
「はい。本来ならこうなって欲しくはないと仰られていましたが、もしそうなったら、親として子供の罪は罰しなければならない、と」
「だがこの裁判は有罪と無罪しか裁定されない。有罪なら、生きたまま死者の世界に引きずり込まれる刑しかない。実質死刑しかない私刑裁判だからな」
老人の前に立った三人は白い靄のような物が手足に巻きつき身動きが取れなくなっていた。それらは呼び出された死霊だった。
「お父さん、ごめんなさーい」三男が涙と鼻水を垂れ流しながら許しを乞うている。つくづく本能のみで生きている子供だった。
「わ、悪かったよ親父。許してくれよ」顔をそむけて次男は吐き捨てうように言った。この男はどうしても自分の非は認めたくない性格らしい。
「わ、私は悪くないのよ、お父さん。こいつらが私を無理やり引きずり込んだのよ。私はこんな事したくなかったの。本当よ」次女も責任転嫁型のようだ。
「黙れ!」御大が一喝すると三人は大人しくなった。
「お前たちと違って長男と長女はわしの意向に沿ってこの家のために生きておるというのに。お前たちときたら、親の金で放蕩三昧。それだけならまだ許せたものを、わしに手を出すとは。なんたることか!」
全くだな。時郎は激しく同意した。
親なのだから愚かな子供でも庇ってくれるものである。だがその親に手をかけたら、お終いだ。以降誰が自分を守ってくれると思っているのだろうか。
「お前たちにはもう何も望んでいない。わしは家の汚名となるお前たちを連れて行く。最後の親の慈悲だと思うがいい」
三人は自分達の運命を理解して大声で泣き出した。
「おいおい。刑事の目前で私刑はないだろ。と言ってもここからじゃどうにもならないな」時郎は肩をすくめた。
「これから食魂刑が始まります」とマヤ。
「無数の飢えた死霊が生きた人間の魂を喰らい尽くす刑罰。これが始まれば、三人の魂が跡形もなく喰らい尽くされるまで死霊の狂乱が続きます。とばっちりがこちらにも来るでしょう。結界が持つかどうかわかりませんけれど、できるだけ保持してみます」
「マヤ、さん。お願いします。まだおれは死にたくはない」
「申し訳ありません。お約束は、できかねます」
「ひええええ」
この時の光景は意味的には恐ろしいものだが、ビジュアル的には白い靄が飛び交い部屋いっぱいに煙が立ち込めているだけにも見える。
靄が時郎達の結界にもやって来た。煙が結界に体当たりしてくる。結界に阻まれて煙が拡散する。その繰り返しが数十分続いた。これが死霊との戦いの全容である。
やがて、戦いは終わった。処刑が終わったからである。
地面に処刑された三人の肉体がうつ伏せに倒れている。死んではいないが、生きてはいない。
老人は滑るようにマヤの方に近づいてきた。
「お前には面倒をかけたな。そちらの刑事は巻き添えにしてしまった。すまなかった」
老人は軽く頭を下げた。
「いいえ、そんな。後はご主人様の仰せの通りに処理をさせていただきます」
「うむ。頼むぞ」
老人はゆっくりと透明化してゆく。そして消えた。
「事件は解決したが、警察的にはいいところなしだった」
時郎は自分が道化にされた事にかなり不満だった。ふてくされている時郎を見て、マヤは思わず微笑んだ。
夜が明けた。
低気圧が島を通過し、雲ひとつない青空が広がっている。
警察のヘリがやって来た。
あとはエピローグのみです。しばらくは短編を書くと思いますのでそちらもよろしくお願いします。ただネタ切れよりも眠気との戦いでなかなか書き進めない状態ですが。




