転移ゲート
三人は呆然として事態を把握出来ていなかった。
即座に時郎が謎を解いてしまったのだ。この事実に三馬鹿兄妹は愕然とした。三人がかりで、しかも二男と次女は曲がりなりにも国立大学卒業だというのに糸口すら見つけられなかったのだ。
「場所は船の部屋、そこへゲートを使っていけばいいんだな。マヤさん」
「承知いたしました。ではご案内いたします」
マヤは一礼した。
「では行こうか。宝の在り処に。おれたちはトレジャーハンターだ!」
明らかに時郎はから元気を見せつけていたが、ただ空回りしただけだった。時郎軽く咳払い。
「暗号文には二通りある」
時郎はマヤの誘導にしたがってある場所に向かっていた。その途中で解読方法について三馬鹿兄妹に解説を求められて歩きながら話し始めた。
「意味を持つ文章を詩文のような隠喩記号で変換して文章化する方法。
もう一つは暗号文らしく文章を文字レベルで解体し一定の法則性で羅列する方法だ。
前者は文章記述者と解読者の間にイメージの共有が必要となる。
中世のヨーロッパには図像学という学問があったのだが、動物や植物などにその存在とは直接関係ない意味を与えてその記号が描かれているとその意味で変換して図像を読み取る教養が求められた。今でも花言葉とかにその片鱗が残されているな。それを知らなければただの花の絵の記号として終り。その先には進めない。それがインテリジェンスを持つ者と持たざる者の差別化をするための試金石だったのさ。
つまり共通のイメージの共有が成立しなければ、解読はできない。またそれを誘導するヒントがなければフェアではない。例えば日本人の資産家の出生地が実は外国で、その国の鉄道網が隠喩化されているとか。どう解けばいいんだよ、というやつだ。これは最近やっていたゲームの話だ。
後者はさまざまな方面で使われている暗号であるが、この場合適用できない。この方法だともう一枚解読の手掛かりとなる乱数表などが必要となるのに、このメモ紙しかないということから推察できる。
だが、このメモ紙はこの二つでもなかったのさ。それ以前の子供のなぞなぞレベルの言葉遊びだった。
縦読みで左一文字目を読めばいいんだよ。その時漢字を平仮名に変換すればいい」
「ば、しょ、は、ふ、ね、の、へ、や。ああ!そういう事か!」大きく口を開けて次女が拾い上げたメモ紙を見つめている。
「このメモ紙の記述者は謎を解かせる気満々だったと思う。おれの私見で、だが」
「なぜだよ?」後ろにいた三男はナイフを弄びながら視線を時郎から外さずにいる。何かあった場合、ナイフで攻撃できるよう用心を怠っていなかったのだ。
「さっきも言ったように、これは子供の言葉遊びだ。解かせる気がなければ、もっと複雑なものを用意すればよかったのに、だ。どう思う?」
三人とも何も言い返せなかった。
肯定したくないが、否定出来なかったからだ。
黙々と五人は歩いて行く。事態に変化がなければ何も話すことはない集団だった。
そして目的地にたどり着く。そこは温室だ。
「やはり、ここなのか」と時郎。
「はい。その為のゲートです」とマヤ。
このゲートは島の内部を自由に移動する交通網だった。
その一つに宝の在り処である「船の部屋」がある。
「そこへはゲートでしか行けません。その難破船が眠っていたのは島の海底洞窟の一つでしたが、ご主人様の意向によって先代の執事でした方が別時空間内に個室を作りそこに収めたのです」
「そういう事か」時郎が手を叩いた。
「前にもここには魔法使いはいた。が、彼が亡くなりにゲートは封鎖された。しかし君が現れてゲートを復活させた。そしてこのゲームが行われることになったのだな」
「はい。肯定です。それをご主人様から聞きました。ですがその事でご主人様は死んでしまいました。私さえ現れなければ…」
「悲劇はタイミングしだいということか。誰も望まないのに悲劇の種がばらまかれ、死体が出来る。彼女が悪いわけでもないのに」
そしていよいよゲートの上に立った五人は船の部屋に向かうことになった。
そこで予想しない人物と出会うことになる。
悲劇の始まりとなる出会いが待っていたのだ。
また届きませんでした。次回こそ魔法世界回です。お楽しみに。ホントかよ。




