【誰もいない世界】
【誰もいない世界】
真っ先に視界に入ったのは
目の前の赤信号
自分が横断歩道の上にいることに気付くと
サツキは慌てて横断歩道を渡る
そこでようやく気付く
そこに
誰もいないことに
「何…これ」
今まで、この暑い中人混みを歩いていたはずだ
誰もいない
人々の話し声も、車の走る音も聞こえない
横断歩道の信号機が点滅する
それに合わせて、音が鳴る
いつもよりハッキリ聞こえたその音に
サツキは恐ろしくなった
何が起こったのか
ここは何処なのか
ここはさっきまで自分がいた場所のはずだ
夢?
夢を見ているの?
それならば
こんなに恐怖を感じることも、焦る必要も無いのだが
しっかりしたアスファルトに立つ感触と
はっきり覚えている夏期講習に行くという記憶が
夢だと思うことにも
少しの不安を感じさせた
道路には車が渋滞の列を作っている
しかし
その車内には人の姿は見られない
段々怖くなってきたサツキは
怯えた様子で辺りに誰かいないか探しだした
サツキ「誰か…いませんか?」
決して大きな声ではなく
細々とつぶやくようにそう言う
この誰もいない世界に恐怖を感じているのか
自分の立っていた場所の近辺しか探そうとしないサツキ
ふと、渡ってきた横断歩道のほうに目をやると
最前列で止まっている軽自動車の中に
ハンドルにもたれかかってる人の姿を見つけた