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【始まりの音】
【始まりの音】
体温よりも暑い空気の中
サツキは汗を滲ませながら人混みの中を進んでいた
高校受験を控えた15歳の夏
楽しいはずの夏休みも
今年ばかりはそうもいかない
夏期講習に向かう炎天下の道程
耳に差し込んだイヤホン
お気に入りの曲を聞こうと、手元の小さな画面に集中していた
器用に指を動かしながら
お目当ての曲を見つけて再生ボタンを押す
この暑さでも
少しは気分の良くなるイントロが流れてくる
変わらずその小さな画面を見たまま
歩く速さは変わらずにいた
最後に聞こえた音は
お気に入りの曲と
大きなクラクションの混ざった音だった