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未来のニュースが先に届く町

作者: 海狼ゆうき
掲載日:2026/03/27

 最初にそれを見たとき、ただの誤表示だと思った。

「……日付、おかしくないか?」

 スマホのニュースアプリ。

 いつもの画面。

 いつものレイアウト。

 でも、

 表示されている日付だけが、

 明日になっていた。

「……」

 画面をスクロールする。

 記事一覧。

 並んでいるのは、

 見慣れた形式のニュース。

 事故。

 天気。

 地域の話題。

 どれも普通。

 ただ一つ、

 日付だけが、

 明日。

「……バグか」

 そう呟いて、

 アプリを閉じる。

 もう一度開く。

 同じだ。

「……」

 再起動する。

 スマホを。

 数十秒後、

 立ち上げる。

 アプリを開く。

 やっぱり、

 日付は明日。

「……」

 眉をひそめる。

 気持ちが悪い。

 でも、

 それだけだ。

 大したことじゃない。

「……」

 そのまま、

 一つの記事を開く。

《本日午後、交差点で軽微な接触事故》

「……」

 内容を読む。

 場所。

 時間。

 被害状況。

 軽傷。

 よくあるニュースだ。

「……」

 スマホをポケットに入れる。

 外に出る。

 いつも通りの朝。

 何も変わらない。

「……」

 歩く。

 交差点に差し掛かる。

 信号。

 青。

 そのまま渡ろうとする。

 そのとき——

 視界の端で、

 車が、

 わずかにズレた。

「……?」

 違和感。

 ほんの一瞬。

 でも、

 確実に。

「……」

 次の瞬間、

 ドンッ!!

 衝突音。

 振り向く。

 交差点。

 車同士がぶつかっている。

「……」

 軽い事故。

 大きな損傷はない。

 人も動いている。

「……」

 さっきの記事を思い出す。

 時間。

 場所。

 状況。

「……」

 全部、

 一致している。

「……」

 息が少し浅くなる。

 ポケットからスマホを取り出す。

 ニュースアプリを開く。

 さっきの記事。

「……」

 そこに書かれている内容と、

 今起きた現実が、

 完全に同じだ。

「……」

 偶然。

 そう思おうとする。

 でも、

 タイミングが合いすぎている。

「……」

 次の記事を見る。

《本日夕方、駅前でトラブル》

「……」

 読む。

 細かい内容。

 人同士の口論。

 警察出動。

 軽い騒ぎ。

「……」

 時間も書いてある。

 まだ、

 来ていない時間。

「……」

 その日は、

 駅前に行った。

 わざと。

 確認するために。

「……」

 夕方。

 同じ場所。

 人が多い。

 いつも通り。

「……」

 数分待つ。

 何も起きない。

「……」

 やっぱり、

 偶然か。

 そう思いかけたとき——

「ふざけんなよ!」

 怒鳴り声。

 振り向く。

 男二人。

 口論になっている。

「……」

 周りがざわつく。

 人が集まる。

 誰かが通報する。

「……」

 数分後、

 警察が来る。

 状況は、

 記事に書いてあった通り。

「……」

 完全に、

 一致している。

「……」

 スマホを見る。

 ニュース。

 明日の日付。

 でも、

 内容は、

 今日の現実。

「……」

 理解する。

 これは、

 予測じゃない。

 偶然でもない。

「……」

 これは——

 “未来そのもの”だ。

「……」

 喉が乾く。

 息が浅くなる。

「……」

 試す。

 まだ読んでいない記事。

 開くのを、

 やめる。

「……」

 そして、

 次の日を待つ。

 何も読まないまま。

「……」

 翌日。

 ニュースを見る。

 日付は今日。

 普通の記事。

「……?」

 違う。

 昨日見た内容と、

 一致していない。

「……」

 事故も、

 トラブルも、

 起きていない。

「……」

 背筋が冷える。

 つまり——

「……」

 読んだ未来だけが、現実になっている。

 その日から、ニュースの見方が変わった。

「……」

 アプリは、毎朝更新される。

 日付は、

 必ず“明日”。

 そして、

 そこに並ぶ記事は、

 まだ起きていない出来事。

「……」

 最初に決めたのは、

 “できるだけ読まない”ことだった。

「……」

 読まなければ、

 現実にならない。

 それはもう、

 確信に近かった。

「……」

 実際に、

 何も読まなかった日は、

 何も起きなかった。

 少なくとも、

 ニュースに載るようなことは。

「……」

 でも——

 問題は、

 “知ってしまっている”ことだった。

「……」

 未来が見える。

 ただし、

 見るかどうかは自分次第。

「……」

 なら——

 いい未来だけ見ればいい。

「……」

 そう考えるのに、

 時間はかからなかった。

「……」

 次の日。

 アプリを開く。

 一覧を眺める。

 タイトルだけを見る。

「……」

《商店街で抽選イベント》

 平和だ。

 問題ない。

 タップする。

 内容を読む。

 詳細。

 時間。

 場所。

「……」

 その日、

 実際に行ってみた。

 記事の通り、

 イベントが行われている。

 抽選に参加する。

 結果——

 当たり。

「……」

 息が止まりかける。

 完全に、

 記事の通りだ。

「……」

 それから、

 少しずつ、

 ルールを試し始めた。

「……」

 小さなニュース。

 事故ではないもの。

 イベント。

 天気。

 軽い話題。

「……」

 読めば、

 その通りになる。

 読まなければ、

 起きない。

「……」

 完全に、

 “選べる未来”になっていた。

「……」

 怖さは、

 まだあった。

 でも、

 それ以上に——

 便利だった。

「……」

 未来を、

 選べる。

 そんな力。

「……」

 やめられるはずがなかった。

「……」

 次第に、

 読む記事は増えていった。

 最初は一つ。

 次は二つ。

 やがて、

 気になるものは、

 全部。

「……」

 その中に、

 少しずつ、

 “嫌な記事”が混ざり始める。

「……」

《駅で転倒事故》

「……」

 読まなければいい。

 そう思う。

 でも、

 気になる。

 どこで?

 誰が?

「……」

 結局、

 開く。

 読む。

「……」

 その日、

 駅で誰かが転ぶ。

 記事通りに。

「……」

 自分じゃない。

 知らない誰か。

 だから、

 問題ない。

「……」

 そうやって、

 少しずつ、

 “線”を越えていく。

「……」

 気づけば、

 怖さは薄れていた。

 慣れていた。

「……」

 そして、

 ある日。

「……」

 いつものように、

 アプリを開く。

 記事一覧。

「……」

 その中に、

 一つだけ、

 明らかに異質なものがあった。

「……」

《男性、自宅で死亡》

「……」

 心臓が強く鳴る。

 視線が、

 動かない。

「……」

 タイトルの下。

 小さく表示されている、

 詳細情報。

「……」

 場所。

 見覚えがある。

「……」

 いや、

 見覚えどころじゃない。

「……」

 自分の住所だ。

「……」

 喉が乾く。

 指が、

 動かない。

「……」

 開かなければいい。

 読まなければいい。

 そうすれば、

 現実にならない。

「……」

 分かっている。

 分かっているのに——

「……」

 指が、

 勝手に、

 動く。

「……」

 タップする。

 記事を開く。

「……」

 画面が、

 切り替わる。

 本文。

 そこに書かれていたのは——

 自分の名前だった。

「……」

 頭が真っ白になる。

 目を逸らす。

 でも、

 もう遅い。

「……」

 読んでしまった。

 観測してしまった。

「……」

 記事の内容が、

 ゆっくりと頭に入ってくる。

 時間。

 状況。

 死因。

「……」

 全部、

 具体的に、

 書かれている。

「……」

 スマホを落とす。

 床にぶつかる音。

 やけに大きく響く。

「……」

 理解してしまう。

「……」

 これは、

 避けられない。

 もう、

 確定している。

「……」

 未来は、

 読んだ瞬間に、

 現実になる。

「……」

 そして今、

 自分は——

 自分の死を、読んだ。

 スマホを拾う手が、震えていた。

「……」

 画面はまだついたまま。

 記事が表示されている。

 自分の名前。

 自分の住所。

 そして——

 死亡。

「……」

 息が浅くなる。

 喉が乾く。

「……」

 閉じる。

 アプリを。

 画面を消す。

「……」

 それでも、

 頭から離れない。

 さっき読んだ内容。

 時間。

 状況。

 場所。

「……」

 やめろ。

 思い出すな。

 詳細をなぞるな。

「……」

 でも、

 思い出してしまう。

 断片的に。

 少しずつ。

「……」

 時間は、

 今日の夜。

 場所は、

 自分の部屋。

「……」

 死因は——

「……」

 思考を止める。

 それ以上は考えない。

 考えたら、

 確定してしまう気がした。

「……」

 立ち上がる。

 部屋を出る。

 外へ。

「……」

 家にいなければいい。

 記事と違う行動をすれば、

 変えられるかもしれない。

「……」

 そう思って、

 歩き出す。

 無意味だと、

 どこかで分かりながら。

「……」

 街。

 人がいる。

 普通の日常。

「……」

 でも、

 全部が、

 少しだけ“ズレている”気がする。

「……」

 視界の端。

 人の動き。

 車の流れ。

 音。

 全部が、

 どこか、

 “決められている”ように見える。

「……」

 歩く。

 とにかく、

 歩く。

 時間を潰す。

 夜にならなければいい。

 記事の時間に、

 ならなければいい。

「……」

 でも、

 空は暗くなる。

 街灯がつく。

 人が減る。

「……」

 時間は、

 進む。

 確実に。

「……」

 時計を見る。

 もうすぐだ。

 記事に書かれていた時間。

「……」

 息が荒くなる。

 心臓がうるさい。

「……」

 逃げる。

 走る。

 どこでもいい。

 とにかく、

 記事と違う場所へ。

「……」

 曲がる。

 知らない道に入る。

 路地。

 暗い。

「……」

 足がもつれる。

 壁に手をつく。

 呼吸が乱れる。

「……」

 そのとき、

 ポケットの中で、

 スマホが震えた。

「……」

 見る。

 通知。

 ニュースアプリ。

「……」

 嫌な予感しかしない。

 でも、

 目を逸らせない。

「……」

 画面を開く。

 新しい記事。

 日付は——

 今日。

「……」

 タイトル。

 そこに書かれていたのは——

 さっき自分が読んだ、

 あの記事だった。

「……」

 内容を確認する。

 変わっている。

 未来じゃない。

 “現在”の記事になっている。

「……」

 場所。

 路地。

 今いる場所と、

 完全に一致している。

「……」

 足が止まる。

 動けない。

「……」

 記事の続き。

 詳細。

 ゆっくりと読む。

 もう、

 止められない。

「……」

 そこに書かれているのは、

 これから起きることじゃない。

 “今まさに起きていること”だ。

「……」

 文章が、

 現実を追い越してくる。

「……」

 視界の端で、

 何かが動く。

「……」

 記事に書かれていた通りに。

「……」

 理解する。

 これは、

 未来じゃない。

「……」

 “観測された結果”だ。

「……」

 読んだ瞬間から、

 すべては、

 その通りに進んでいる。

「……」

 最後の一文。

 そこに、

 こう書かれていた。

『男性はその場で死亡が確認された』

「……」

 顔を上げる。

 何かが、

 すぐそこまで来ている。

「……」

 逃げることも、

 叫ぶことも、

 できない。

「……」

 その瞬間、

 はっきりと理解する。

「……」

 これは、

 最初から、

 決まっていたんじゃない。

「……」

 自分で決めたんだ。

 読んだから。

 観測したから。

「……」

 次の瞬間、

 すべてが、

 記事の通りになった。

 音も、

 感覚も、

 そこで途切れる。

「……」

 そして——

 その出来事は、

 ニュースとして、

 町に配信される。

 次の日の、

 記事として。

「……」

 スマホの画面には、

 また新しい“明日”が表示されている。

 まだ、

 誰にも読まれていない未来。

「……」

 その中の一つに、

 小さく、

 こんな記事があった。

『男性、路地で不審な死』

 誰かがそれを読んだ瞬間、

 その未来は、

 また現実になる。



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