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第八話 揺り籠の終わり

荒野を抜けた先にある岩山に差し掛かった時、空の色が唐突に死んだ。


鉛色の雲が頭上を覆い尽くしたかと思うと、吹雪が白い壁となって三人から視界を奪い去る。


ほんの数分歩いただけで、手足の先の感覚が急速に失われていく。


圧倒的な、純粋な『寒さ』という暴力。



イザークは外套の襟を固く引き寄せながら、微かに震える声で口を開いた。


「……やっぱり、おかしかったんだ」


「どうしたの?」


後ろを歩くシーヴァが、イザークの足跡を踏みながらながら問う。


「今までの旅路だよ。雨は降っても豪雨にはならないし、歩きにくい悪路もない。

 現れる魔物だって、まるでその日の僕の成長に合わせて用意されていたみたいだった」


イザークの脳裏に、旅に出てすぐの頃の違和感が蘇る。




「世界はいつだって、勇者が歩きやすいように『調整』されてたんだ」




「テミストス」


シーヴァが振り返る。「気象の予測演算はどうなっているの?」


「……」


吹雪の中、監視者であるテミストスは立ち尽くしていた。

 

常に冷たいレンズのようだった彼の青い瞳が、不穏な『赤色』に明滅している。



「…予測演算、不能。システムからの応答、なし」



テミストスの声に、初めて微かな揺らぎが混じった。


「現在座標における気象データの照会に失敗。……このような事態は、私の記録領域に存在しない」


まるで迷子の子どものようだった。


信じていたものに拒絶される、恐怖。


そのまま真っ白な世界に溶けて消えそうだった。


しかし、瞳の奥の赤い点滅がテミストスはここだと知らせている。




「あなたの予測が完璧だったのは、あなたの計算が優れていたからじゃないわ」


シーヴァは、突き刺すような吹雪を見上げて言った。


「システムが、未来の天候も魔物の配置も、すべて『管理』していたから。

 ……私たちは今、そのシステムの保護下から完全に外れたのね」


赤く点滅する瞳の閉じ、テミストスは沈黙した。




それは、最適化された安全な揺り籠の終了を意味していた。


彼らを殺そうとしているのではない。


ただ、彼らに対する『配慮』をやめたのだ。


歯車であることをやめたエラーに対する、完全なる無関心。



今彼らの皮膚を刺しているこの吹雪は、何の調整もされていない、生の自然現象だった。


少しでも「面白い」「続きが気になる」「システムが不気味だ」と思っていただけましたら、

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この話は、第十話で完結予定です。

引き続き、「世界の余白」をよろしくお願いいたします。

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