第五話 ノイズ
補給のために立ち寄った都市は、ひどく静かだった。
人々は等間隔で歩き、そこに無駄な会話はない。
最適化された、正しい街並み。
イザークもまた、感情を殺し、その風景の一部として溶け込んでいた。
その時だった。
路地裏の買い取り商の店先。
一人の少女が、小刀を握っていた。
彼女の背には、夜の闇を溶かしたような、美しい藍色の長い髪が流れていた。
この世界において、それは明らかに高貴な身分と、保護された安全な生活を保証する『高い価値』の象徴だった。
だが、少女は躊躇いもなく、その髪に刃を当てた。
ジョキリ。
鈍い音とともに、少女の手に納まりきらない、美しい藍色の糸が石畳に零れ落ちる。
「あんた……自分が何を切り捨てたか分かってるのか。もっとマシな選択があったはずだ」
呆れる買い取り商に対し、少女の唇は、かすかに弧を描いた。
「この先、この髪はいらないもの。これが『私』の選んだ正解よ」
風が吹き、短くなった彼女の髪を揺らした。
イザークは、立ち止まっていた。息をするのも忘れて、その横顔に見入っていた。
すべてが計算され尽くしたこの狂った世界で。
彼女は、
彼女だけが、
損得を無視して、
ただ自分であることのためだけに、その価値を切り捨てたのだ。
イザークの胸の奥で、完全に凍りついていたはずのノイズが、微かに跳ねた。
彼女だけが、ちゃんと生きている。
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この話は、第十話で完結予定です。
引き続き、「世界の余白」をよろしくお願いいたします。




