第四話 違和感
町を出てから数日が過ぎた。
その間、イザークは数度の戦闘を経験した。
初日、震える手で剣を握りしめた記憶は、システムの最適化によってすでに遠い昔のように薄れていた。
感情の摩耗は、恐ろしいほどに速く、そして静かだった。
「討伐完了。対象、風狼三体。魔力消費量、許容範囲内。負傷、ゼロ」
テミストスのペンの音が、静かな森に響く。
イザークは血振るいをし、無言で剣を鞘に収めた。
荒い息一つ吐いていない。心拍数も落ち着いている。
テミストスから受ける基礎訓練は、精神論を排したシンプルなものだった。
『魔力出力、十四パーセント。対象の首の骨を断つにはそれで十分だ』
剣の重心と、関節の動き。
鍛冶屋の息子であるイザークは、物質の脆い部分を本能的に知っていた。
そこに規格外の魔力が合わさることで、彼は恐ろしい速度で『効率的な殺戮の装置』として完成しつつあった。
すべてが、完璧だった。完璧すぎた。
初めての戦闘は、鈍重な獣だった。
二回目は、硬い甲殻を持った魔物。
テミストスから『魔力の刃への集中』を教わった、わずか数時間後に現れた。
初めての野営では魔物は現れなかった。
だが、幾度目かの、野営にも慣れたころにそれは現れた。
やたらと羽音の騒がしい魔物だった。
そして今日は、素早い個体の群れ。
昨夜『複数対象への効率的な足運び』を学んだばかりだった。
ぞわりと、皮膚の下を冷たい虫が這い回るような悪寒がした。
魔物は、決して理不尽な暴力として牙を剥かない。
常に、イザークが『学んだばかりの最適解』を選択しさえすれば、必ず無傷で勝てるように調整されて現れる。
これは生存競争ではない。誰かが周到に用意した、精巧な箱庭だ。
イザークは思考を断ち切った。
考えてはいけない。
疑問を持ってはいけない。
システムが用意した最適解に従っていれば、誰も傷つかない。
感情は、ひどく非効率なノイズだ。
イザークの瞳から、また少しだけ光が零れ落ちた。
ガラス玉のように澄んだ、装置としての勇者が完成しようとしていた。
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この話は、第十話で完結予定です。
引き続き、「世界の余白」をよろしくお願いいたします。




