表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/11

第二話 契約成立

翌朝、神殿の空気は凍てつくように冷たかった。


装飾のない白い石造りの祭壇。


そこは祈りを捧げる場所ではなく、世界を管理する巨大なシステムの、冷酷な端末でしかなかった。


イザークは指定された円の中に立つ。


「対象個体、イザーク。役割『勇者』への適性を確認。これより契約の受諾を問う」


祭壇の奥から響く声には、一切の抑揚がない。


イザークは小さく息を吸い、言った。


「同意します」


その瞬間。


カチリ、と。耳の奥で、


いや、世界の底で、冷たい歯車が噛み合う音がした。


見えない重力が肩にのしかかる錯覚。


空間が、一瞬だけ硬直する感覚。




___ 契約の成立 ___




イザークという人間の運命が、役割が、この世界の法則として完全に固定された瞬間だった。




「契約の締結を確認。これより、随行ユニットを配置する」


祭壇の影から、足音もなく一人の青年が進み出た。


灰色の外套。無機質な出で立ち。


そして何より、感情が完全に抜け落ちた、レンズのように冷たい青い瞳。


「私はテミストス。記録する者」


青年の声もまた、神殿と同じ温度だった。


「対象イザークの生存確率、討伐効率、および世界への貢献度を観測・記録する。


 ……初期スキャン完了。


 対象の潜在魔力量、規格外。戦闘における最適化プロセスへの極めて高い適応性を予測。


 これより観測任務に移行する」


イザークは曖昧に頷いた。


自分と同じ人の形をしているのに、違う設計図で造られた存在のように思えた。




町を出る時、見送りはなかった。




勇者の出立は名誉なことだが、


祭りのような騒ぎにはならない。


この世界においてそれは、


ただの「合理的な配置換え」に過ぎないからだ。


イザークは振り返らずに街道を歩く。


テミストスが一定の距離を保って後ろを付いてくる。




町の門から少し離れた丘の上、一本の木の陰にリーナが立っていた。


彼女は何も言わない。


手も振らない。


ただ、じっとこちらを見つめている。




イザークも立ち止まらず、


前を向いたまま、心の中で小さく頷きを返した。


『帰ってくる』




正しすぎる時間の流れの中で、非合理な約束が、今はそこにあった。



少しでも「面白い」「続きが気になる」「システムが不気味だ」と思っていただけましたら、

【ブックマーク】【評価】を押して応援していただけると、執筆の大きなモチベーションになります。


この話は、第十話で完結予定です。

引き続き、「世界の余白」をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ