プロローグ
世界は、極めて静かで、美しく、そして死んでいた。
空を巡る星の軌道から、名もなき花が散る瞬間に至るまで。
すべては神と呼ばれる巨大な演算によって計算され、「契約」という名の法則で縫い付けられている。
悲しみはない。
なぜなら、悲しむこと自体が非効率だからだ。
争いはない。
奪い合うほどの自由が、誰にも残されていないからだ。
人類は、生存という至上目的のために、生きる意味を差し出した。
傷つくことを恐れ、選択することを放棄し、完璧な歯車としてただ静かに回っている。
それは、終わりのない冬のような平和だった。
しかし、神は知らなかった。
歯車が軋む音を。
合理性の海に落ちた、一滴の血の熱さを。
ある朝、一人の少年が故郷を出た。
死に向かうための、ひどく不器用な足取りで。
ある朝、一人の少女がドレスを捨てた。
誰のものでもない、自分だけの朝焼けを見るために。
そして、彼らを記録する冷たい瞳が、わずかに瞬きをした。
完璧な秩序のひび割れから、不条理な風が吹き込んでいる。
遠くで、世界の終わる音がした。
あるいはそれは、最初の産声だったのかもしれない。
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この話は、第十話で完結予定です。
引き続き、「世界の余白」をよろしくお願いいたします。




