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推し活@縄文

作者: 早水せを
掲載日:2026/01/24

 私・ヒカリはムラのカリスマ・ヤマちゃんのことが好きだ。

 恋愛の意味じゃなくて、推し、と言った方が正しいのかもしれない。

 彼女は、私と同じムラに住んでいる同い年の女の子だ。

 ヤマちゃんは、私では足元にも及ばないほど、眩い眩い(まばゆ)光を放っている。


 私は、いつものように家の中でポシェットを編んでいた。

 一人でちまちまと編んでいると、「入るよー」という明るい声が聞こえてきた。


「はーい」


 返事をすると、ひとつ上の幼馴染のタカちゃんが入ってきた。

 タカちゃんは、少しボサボサの髪を高い位置でひとつに結んでいる、ヤンチャな女の子だ。


「おお、相変わらず綺麗に編んでるねえ。それ、もしかしてヤマにあげるの?」


「ふぇ⁉︎」


 私は、思わず変な声を出してしまった。


「そんな、私が作ったポシェットなんて、いらないでしょ……」


「おいおい、自己肯定感低すぎるだろ。自信持てよ。この間、ヤマがお前のこと褒めてたぞ?」


「えっ、本当⁉︎」


「ホントホント。手先が器用で、羨ましいってさ」


 ヤマちゃんが、私を褒めてくれていた……!

 思わず顔がニヤけ、「ぐふふふふ」と笑う。

 タカちゃんは、「またやってるよ」と言いたげな顔で私を見ていた。


「大丈夫、お前の作ったポシェットなら、ヤマも喜ぶよ。今度、あげてみたら?」


「そ、そうかなぁ……」


「いつまでモジモジしてるんだよ。じゃあ、アタシはもう仕事に戻るから」


 タカちゃんが立ち上がり、手をひらひらと振りながら出ていく。


「お仕事、頑張ってね」


 去っていく背中にそう声をかけたあと、私はまた手の中のポシェットに目を向けた。


「喜んでくれるかな」


 喜んでくれなくても、彼女が私の作ったものを身につけてくれるのなら、私は嬉しい。

 ヤマちゃんに似合うものを編もう。

 そして、褒めてもらいたい。笑ってもらいたい。

 ヤマちゃんの笑顔が、私にとってのなによりのご褒美なのだから。

 私は、素早く作業に取りかかり始めた。


 次の日。

 私は、昨日作ったポシェットを持ってヤマちゃんに会いに行った。

 ヤマちゃんは、いつも森で木の実を収穫しているはず。

 そう考えて、森にやってきたのだけど――。


「ま、迷子だ……!」


 よく考えれば、ヤマちゃんがどこにいるかなんてわからなかった。

 森の前でアタフタしていると、


「何してんだよ」


 男子の声が聞こえてきた。


「リク!」


 振り返ると、同い年の幼馴染・リクが呆れたような顔で立っていた。


「迷子になったの。ヤマちゃんを探しているんだけど、知らない?」


 そう尋ねてみると、


「知らないな」


 と無愛想な返事が返ってきた。

 気まずい沈黙が流れ出したとき、リクが私の持っているポシェットに気づいた。


「そのポシェット……。ヤマに、渡すのか?」


「う、うん!」


「はあ、ヤマは仕事で忙しいと思うぞ。お前も、働いたらどうだ?」


「それはリクもだよ?」


 呆れたというふうに言ってきたリクに、ここぞとばかりに反撃する。

 十五歳というと、もう仕事を任されている歳だ。

 リクは、確か狩りや土器作りを手伝うとか言っていたような……?

 ジトーっと見てやると、リクは顔を赤くし、


「ああもう、お前はヤマに構うのをやめて仕事しろってことだよ! じゃあな!」


 と言い捨てて去っていった。

 本当に、意味がわからない。

 はあ、とため息をひとつつき、私は森の前でヤマちゃんが出てくるのを待つことにした。

 後の世で言う、“出待ち”のようなものだろうか。

 数分後、森の中から一人の女の子が出てきた。


「ヤマちゃん!」


 突然、私が出した大声に驚いたように、彼女がこちらを見る。


「やっぱりヒカリだ。どうして、ここに?」


 彼女の綺麗な石のネックレスが、動作に合わせて揺れる。

 ヤマちゃんは、私が後ろに何かを隠していることに気付いたようで、興味深そうにのぞきこもうとしてくる。


「ねえねえ、隠してるそれ、なに?」


 そうやって、かわいい上目遣いで聞かれてしまった。

 ああ、なんてズルいんだ!

 私は、勢いよく後ろで隠していたポシェットを差し出した。


「こっ、これっ! ヤマちゃんに、あげる!」


「えっ、ポシェット? すごい、さすがヒカリ。綺麗に編んであるね」


 口元に嬉しそうな笑みを浮かべたヤマちゃんが、ポシェットを優しく受け取る。

 ヤマちゃんに、褒められた……!

 私は、有頂天になって、口がゆるむ。


「ありがと、ヒカリ!」


 ヤマちゃんが、歯を見せてニカッと笑いかけてくださる。


「あっ、いや、その、よ、喜んでくれたならなによりでございます!」


「あはは、そんなにかしこまらなくていいって。ヒカリって、昔からちょっと変わってるよね。けなしたわけじゃないよ。そんなおもしろいヒカリが、私は好きだよ」


 や、やめて、これ以上私を褒めないで〜!

 私は、ふらりと力が抜け、地面に崩れ落ちた。


「だ、大丈夫⁉︎ ちょっと!」


 ヤマちゃんの慌てた声を聞きながら、私は幸せに包まれて気絶した。


 私がヤマちゃんを推しているのは、ヤマちゃんがカッコいいからだ。

 七歳くらいのとき、幼馴染たちと川に行ったときに、私は足を滑らせて溺れそうになった。

 そのときに助けてくれたのが、ヤマちゃんだ。

 記憶はあまりないけど、助けてくれたときのヤマちゃんの顔は、忘れられないくらい焼きついてる。

 それから、私はヤマちゃんのことが大好きになった。


 そして、ヤマちゃんたちが中心となるお祭りの準備が始まった。

 大活躍するヤマちゃんの姿が見られるとは、私はなんて幸せ者なんだ……。

 その準備には、私、リク、タカちゃんもたずさわることになった。

 実は、ヤマちゃんのお母さまは神さまの世界に行けるお方で、ヤマちゃんにもその力が少しあるのだそう。

 私とタカちゃんは、土の人形づくりを手伝うことになった。

 私たちは、さっそく粘土をこねていく。


「うわー、全然上手くできねー。おっ、ヒカリはやっぱ上手いな」


「そ、そうかな?」


「いやいや、上手いって! アタシなんてさぁ、こんなんだよ?」


 タカちゃんは、自分の作った少し小さめのよくわからない人形を私に見せた。

 一方、私は綺麗な曲線の妊婦さん人形を作っていた。

 あはは、と苦笑いになったとき、男性の声がした。


「タカー、向こうのムラから人が来たぞー」


 すると、タカちゃんは顔をパッと輝かせた。


「あっ、黒い石が取れるムラの! ごめん、ちょっと抜ける!」


「うん、頑張ってね」


 タカちゃんは、タッタッと男性につれられて走っていった。


「じゃあ、ちょっと休憩にしようか」


 お母さんもそう言うので、私もその場を離れた。

 もしかしたら、準備をするヤマちゃんの姿が見られるかも、という淡い期待を持って。


 きょろきょろと周りを見ながら歩いていると、不意に少年と目が合った。


「リク……」


「……!」


 なぜか、リクはすぐに視線を逸らして駆け出してしまう。


「ちょ、どこ行くの? ねえ!」


 そのまま向こうにリクの背中が消えるのを見て、はあ、とため息が溢れた。

 最近、避けられている気がする。

 やるせない気持ちで戻ろうとしたら、


「悩み事かい?」


 しわがれた老人の声が聞こえてきた。

 ハッと振り返ると、そこにはたくさんシワのある、けれど強いオーラを放つおばあさん――長老がいた。


 場所を移動し、はらっぱに長老と腰かける。

 そこで、私は悩みを全て話した。

 長老はウンウン頷きながら真剣に聞いてくれた。


「そうかそうか……。リクに避けられているかもしれない、ヤマに近づこうとすると文句を言ってきた、か。それは嫌だったのう」


 唇を噛み締めて俯きそうになった私に、「じゃが」と長老が続ける。


「リクにも、何か理由があると思うのじゃ。話し合ってみなさい、ヒカリ」


 気持ちを訊く、か……。

 正直、怖い。

 リクの気持ちを知りたいとも思っているし、知りたくないとも思っている。

 でも、知らなきゃ前には進めない。

 私は覚悟を決め、顔を上げた。


 一方、その夜。

 リクは、長老と話していた。


「ヒカリのことを無視したり、ヤマと親しくしていると邪魔したくなる……か」


「……はい。ヒカリと、普通に話したいです」


「ほうほう。それは、もしかすると恋、かもしれんな?」


「なっ⁉︎」


 リクは、顔を真っ赤にした。

 そんなリクに、長老はニコリと笑いかけた。


「話してみなさい。そうしたら、なにか変化があるかもしれん」


 そんな長老の話を受け、リク、そしてヒカリはお互いと話し合おうと心を決めた。


 そして、次の日の朝。

 ご飯を食べ終わったあと、ゴミを捨てに行くと、リクが近づいてきた。


「……あ」


「おはよう、ヒカリ」


 私は、昨日のリクの背中を思い出して心臓がギュッと掴まれたようになった。

 でも、長老から言われたことを思い出した。

 グッと手を握り締め、「あの」と声をかけた。


「リク。私のこと、嫌いなの?」


 私は、単刀直入に訊いた。

 すると、リクは驚いたような顔をした。


「いや、そんなわけ……。ヒカリ。お、俺のこと、好きか?」


 今度は、私が口をポカンと開ける番だった。


「もちろん、リクのことは、大好きな友達だよ!」

 誤解されないように、キッパリと言い切った。

 そうしたら、リクは苦笑いになった。


「あ、あはは、そうだよな、そうだよな。俺も、同じような気持ち……」


 リクの苦笑には疑問が残るけど、リクは私のことを嫌っているわけじゃなかったんだ……!

 顔じゅうに、笑みが広がる。


「これからも、いいお友達でいようね!」


 私が笑顔で差し出した手に、リクはなぜか大きくため息を吐いて手を添えたのだった。


「って、なんだアレー!」


「わっ、ビックリしたぁ。やめてよ、タカちゃん」


「イヤイヤイヤ、何あのリクとの会話! 青い春が見えたんだけど!」


「今は、秋だけど」


「う〜ん、そうだけどそうじゃなくて!」


 私は赤く染まった葉っぱを見上げて首をひねった。

 今日はお祭り本番だというのに、タカちゃんは何を言っているんだろう。

 タカちゃんはゴニョゴニョとなにか言いながら、もともとボサボサの髪を掻きむしってボッサボサにしていた。


「フン! いいもんね。ああ、春といえばさ、黒い石のムラの男の子がヤマと結婚したいって――」


「ダメ!」


「わっ。まあ、言うと思ったよ」


「うーん、でもヤマちゃんが幸せならいいけど……」


「メンドくさいなー、ヒカリ」


 タカちゃんは、私の頭もかき混ぜてきた。

 そんな風にじゃれあっていると、


「何してるの、二人とも」


 笑い混じりの凛とした声が響いた。

 バッと振り返ると、お祭り用の豪華な貝のブレスレットやかんざしを身につけ、頬には朱の線を描いたヤマちゃんがいた。


「二人とも、こんにちは。さっきの話だけど、私はこのムラの人たちが好きだから。出ていきたくないな」


 照れたようなヤマちゃんの顔を見て、私は自分の顔が晴れ渡っていくのがわかった。


「もちろん、タカのことも、――ヒカリのことも。大好きだよ」


 ドキッと心臓が大きく脈打つ。

 はにかんだ笑顔のヤマちゃんに、尊い以外の言葉が思いつかないくらい。

 私も、誰かに好きだと思われていたんだ。

 祭りが始まるそのとき、私の心には一つの火が灯った。


 祭りが始まった。

 ヤマちゃんのお母さまは、意識を神さまの世界に飛ばす。

 私たちは、祈りながら頭を下げた。

 今年も、たくさんの木の実が採れますように、と。

 ヤマちゃんを、チラリと見る。

 彼女は、美しい顔を下げて祈っていた。

 あと一つ、祈ってもバチは当たらないよね。

 私は、深く深く頭を下げ、祈った。

 ヤマちゃんと、みんなと、ずっと楽しく過ごせますように、って。


 祭りが終わった。

 私たちは、すっかりいつもの日常に戻った。


「おーい、ヒカリ!」


 私の編んだポシェットを身につけて走ってきたのは、ヤマちゃんだ。


「お仕事お疲れさま、ヤマちゃん」


「ヒカリも。ところで、川に魚を釣りにいくんだけど、ヒカリも来ない? あ、でもヒカリは川は嫌かな?」


「ううん、あの川はヤマちゃんとの思い出の場所でもあるから……。平気」


「本当? なら、いいけど」


 気遣うような顔で覗き込んでくるヤマちゃんの顔がいつもよりも近くて、少し体温が上がった。


「おーい、ヤマ、ヒカリ! 私も一緒にいい?」


「俺も……」


 向こうから、また二つの人影がやってきた。

 タカちゃんとリクだ。


「もちろん。いいよね、ヒカリ」


「うん!」


 私たちは、川に向かって駆け出した。

 私は、少し遅いスピードでみんなの後ろをついていく。


「ヒカリ、大丈夫? ついて来れるかー?」


 タカちゃんが、ニッと悪戯っぽく笑って言う。


「ヒカリは体力がないからな。……無理はするなよ」


 リクが、少しスピードを緩めてこちらを見る。

 私は、息を弾ませながら走っていく。

 すると、目の前にひとつの手が差し出された。


「行こう、ヒカリ」


 顔を上げると、そこには女神さまみたいな笑顔。

 私は、ニッコリと笑ってヤマちゃんの手を取った。


「うん!」


 そうして私たちは、川まで駆けていった。

初めまして、早水せをと申します。

長い物語を読んでくださり、ありがとうございます。

この作品が初投稿になります。

初投稿で歴史、しかも古代って難しいのでは……と思っていましたが、調べて書いて投稿する、というとても楽しい経験になりました。

私たちも、ヒカリのように推しを、そして自分も大切にしていきたいですね!

よろしければ、感想などをいただけると励みになります。

これから、他の時代の推し活も書きたいと思っています。

応援していただけると嬉しいです!

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