3.超高層雷放電
超とか高層とかの言葉が付くとかっこいいよね。
「ねえそら、この写真の空、紫色に光ってるように見えない?」
ゆかりは山道を歩きながらスマホに保存した先ほどの写真を再度確認していた。
「うん、私も思ってたんだけど調べてもこれといった原因がわからないんだよね」
うっすらとだが確実に紫色に光る亀裂のようなものが写っていた。
「夕暮れ…とは違う、影の角度的に昼頃に取られた写真のようだし…」
ゆかりにつられ私も再度写真を確認する、その紫色の光は空を割るように亀裂が入っているようにも見えた。
「もしかしたら空の切れ目だったりしてね、光は向こう側から漏れた光だったりして」
突拍子もない考えではある、空の割れ目などアニメやSFでしか聞かない単語で自分でも少し笑ってしまう。
「もしかしたら本当にそうかもね」
だがゆかりはまじめな顔でそうつぶやいた。
「え~?そんなことあるのかな、私も今思いついた妄想だよ~」
「そら、レッドスプライトって知ってる?」
ゆかりは写真を見るのをやめ何かを調べ始めた。
「レッドスプライト?赤くなった炭酸飲料?」
「いいえ、レッドスプライトというのは超高層雷放電のこと、つまり雷の1種ね。詳しい理由は忘れたけど、この現象は普通の雷と違い赤色に光るの」
「そんな現象が…つまりこの写真に写ってる光は!?」
「もしかしたらレッドスプライトかも」
そういいながらゆかりはスマホでの検索をまだ続けている。
「なんだ、じゃあこれはちょっとレアなただのの雷か、空間の亀裂とか言ったのがなんか恥ずかしくなっちゃうね」
「いえ、もしかしたらあながち外れではないのかも」
ゆかりは検索していた手をぴたりと止め、少し青くなった顔をこちらに見せる。
「ゆかり?どうしたの?顔色が少し悪くなってるけど?」
「そら…これ…」
そういわれ提示されたスマホの画面を見る。
「レッドスプライトはその発生頻度からあまり研究が進んでいないといわれているの、発生メカニズムや気象条件も、まだ完全には解明されていない」
スマホの画面にはレッドスプライトが発生した日付と場所が記載されている。
「これはあくまでも偶然一致してるだけの可能性もある、でもレッドスプライトの発生頻度からして偶然にしてはでき過ぎてると思う」
そしてその横には同じ時期、同じ場所で行方不明となった人の名前が記載されていた。
「レッドスプライトはもしかしたら行方不明の原因になっているのかも」
その中にはこの場所、白鳥山と私のお兄ちゃんの名前があった。
「そら!待って!」
そらは私がまとめた画面を見せると山頂に向かって駆け出した。
レッドスプライトと失踪者の関係、何か根拠があるわけでもない、あくまでも状況証拠が残っているだけ。
だがレッドスプライトの発生は非常にまれだ、それと失踪事件がこれほど被るとは思えない。
「今魅せるべきじゃなかった」
駆け出したそらの背中を追い山道を駆ける。
休憩スペースから山頂までは徒歩で10分程度と看板にはあった。
「走れば5分程度かと思うけど」
そこまで距離があるわけではないはずなのに空の背中になかなか追いつけない。
体力を回復したそらはそれほど早くかけていたのだろう。
「そらのほうが運動神経がいいから当たり前か」
はぁ、はぁと息を切らせながら山頂に向けて走る。
最低限の運動はしているとはいえインドア派には厳しいラストスパートだ。
「あ」
ようやく山頂の休憩スペースが、そして空の背中が見えた。
そらは山頂からの景色、そして空を見ていた。
「そら、あくまでも可能性だから、まだ、レッドスプライト、が原因かもわからない、から」
息も絶え絶えでそらへ説明する。
「うん」
そらはどらを見上げ心ここにあらずというような状態でつぶやく。
ここまで走って来たとは思えないほど呼吸は整っていた。
「ずっと空をみあげて、何かあるの?」
私もそらにならい空を見上げる、しかしそこには何もなく、ただの青空が広がっていた。
「レッドスプライトはとても珍しい現象なの、そんな頻繁に起きないわ」
「わかってる、でももしかしたら起きるかもしれない、そんな気がして」
「なによそれ、レッドスプライトは一応雷なのよ、こんな雲一つない空で―」
目を再び空に戻した時、私は閃光をみた。
空には赤く、いや、空の青さを巻き込み紫色に光る亀裂を見た。
「レッドスプライト…!」
レッドスプライトの発光時間は1/10秒以下と言われている、だがこの一瞬は永遠と思えるほど長かった。