2.山ガール(死語)
山ガールとか森ガールとかいろんな○○ガールってありましたが、彼女らも今は立派なレディになられてるんですかね?
「はぁ、はぁ、ゆかりぃ~待って~」
ざっ、ざっと簡単に舗装された山道を息を切らしながら歩く。
「む、ムリ、私も、もう限界だから」
少し先を進む紫髪の少女、ゆかりはこちらを気にするように何度か振り向き、こちらを気にしながらも自分のペースを崩さず歩き進めている。
「そらは、最初に勢いよく進みすぎ、体力管理が、へたくそ」
ゆかりはそう言いながら私を置いてさらに上へ進んでいった。
「ゆかりの薄情者~」
はぁ、はぁと息を切らしながら歩くが差は埋まらないどころか離されていく。
ゆかりの言う通り私はペース配分を間違えたのだろう、最初は調子よく進んでいたが中盤ごろからはゆかりが常に前を歩いており、終盤となった今はゆかりが上を行っている。
「そら、もう少し登ったら休憩スペースあるからそこまでがんばろ」
「う、うぅ……」
「そ、そら?」
「うぅおぉぉぉぉぉ!!!!」
私は残っていた力を振り絞り、ダッシュで山を駆け上る。
「そら!まって!」
距離が離されていたゆかりを追い抜き先に登る。
「私が、私が先に休むんだぁぁ!!」
そう、私は先に登り、1秒でも長く休む、それが今の私の望みだ!
「そらまって、休憩スペースはもうちょっと先だからそのペースだと持たないよ…」
「うぅぅ…」
私は残っていた体力を使い切り山道にしばらくしゃがみ込むことになってしまった……
「そら…だから言ったのに…」
何と登りたどり着いた休憩スペースで私はベンチに横になっていた。
「うぅ、ごめんねゆかり」
ゆかりはそんな私に膝枕をし、持っていた紙で私を扇いでくれていた。
「もう、空の方が体力あるんだから、らしくないよ?」
ゆかりの表情には疑問、というよりは心配の表情が見えていた。
「やっぱゆかりには隠し事できないね」
「ふふ、当たり前でしょ、何年の付き合いだと思ってるの」
そう言うゆかりの表情はどこか自信に満ちているようにも見えた。
「実はね、お兄ちゃんから手紙が届いたの」
私たち兄弟がこの町に引っ越してきたのは今から10年前のことだった。
天文学者である兄の転勤に合わせ、私もこの町に移り住んだのだ。
「初めまして!天田そらと言います!」
新天地に不安と同じぐらいの期待を抱いていた私を待ち受けていたのはまばらな拍手だった。
田舎…とまではいかないが、この町にも少子化の波は押し寄せており、学校ではすでにグループは出来上がっていた。
その中に入った私は腫物、ほどではないが、皆どう接していいのかわからないようだった。
そんな状況でも私に話しかけてくれたのがゆかりだった。
ゆかりが話しかけてくれたのをきっかけに話しかけてくれる子も増え、私はこの町になじめたのだ。
そんな私の変化を見守ってくれていたのがお兄ちゃんだ。
私の喜びは私以上に喜び、私の悲しみは私以上に悲しんでくれる、今思えば過保護なぐらいの、悪く言えばシスコンなお兄ちゃんだった。
最も私もお兄ちゃんお兄ちゃんと甘えており、ブラコンだったのかもしれないが……
そんな私たち兄妹の日常が崩れたのは約2年前のことだ。
お兄ちゃんが仕事に行ったっきり帰ってこなくなってしまったのだ。
泊まり込みで帰って来れないことはこれまでにも何度かあった、だが必ず連絡は入れてくれていた。
今回はその連絡もなく、こちらからの連絡にも反応はなかった。
職場の天文台にも姿はなく、失踪事件として警察や町のボランティアも協力し捜索したが兄の姿どころか手がかりも見つからなかった。
「お兄さんから…」
「うん、手紙といっても中身は写真一枚だったんだけどね」
これっと言いゆかりに写真を渡す。
「これがその写真?」
写真は高台からこの町と、そして空を写している。
「うん、裏にね、この山の名前が、白鳥山の名前が書いてあったの」
ゆかりはだからかと、納得したような顔をしていた。
「さすがにお兄ちゃんがまだ生きてるとは私も思っていない、でも何かあるのかもと思うといてもたってもいられなくって」
そう言うとゆかりはふっと笑う。
「そらって昔からいつもそうよね、何かあると居ても立っても居られない、動いてないと死んでしまうマグロみたい」
「え~、それって褒めてるの?それとも貶してるの?」
「ノーコメント」
「じゃあ褒めてるってことにしておくね」
さて、と声を出しベンチから起き上がる。
「ここからはあと一息なんだよね?」
ゆかりが休憩スペースにある看板を確認し、ええと言う。
「よし、じゃあ残り一息頑張ろう!」