海と青年とゴールデンレトリバー
1話 出会い
山桃真二
20歳。
七里ヶ浜にある本屋で正社員として働いている。
実家は七里ヶ浜にある。
両親はいるが真二に関心がなく放任主義。
愛着障害。依存体質。
栗色の髪。センターパート。見た目は爽やか青年。
もろは
真二が飼ってるゴールデンレトリバー。性別はオス。
京屋一葉
31歳。
七里ヶ浜にあるホテルの清掃のバイトの為に坂ノ下から江ノ電に乗って通勤している。
両親とは仲がいいが離れて一人暮らしをしている。
栗色の髪を後ろで一つ縛りにしている。
七里ヶ浜。海岸。午後3時半。
真二はもろはの散歩をしていた。
砂浜を歩いていると目の前から一人の女性が歩いてきた。
すれ違い様、真二は思わず名前を呼んでしまった。
真二「一葉さん・・・」
一葉「え?」
一葉が振り返る。
真二「あ・・・」
一葉「あの、どこかで会いましたか?・・・」
もろは「・・・」
数秒二人の動きが止まった後。
もろはが一葉に擦り寄った。
一葉「わ!?」
真二「す、すみません!!大丈夫ですか!?」
もろは「わっふわっふ」
一葉「いえいえ、大丈夫ですよ」
一葉はそう言うともろはを撫でた。
真二「もろはが俺以外に懐くなんて・・・」
一葉「もろはって名前なんですね」
真二「はい、オスのゴールデンレトリバーです」
一葉「もろはは普段人に懐かないんですか?」
真二「はい、見たことないです、よっぽど一葉さんが気に入ったんですね」
もろは「わんわん!」
もろは一葉に対してずっとしっぽをフリフリしている。
一葉「ふふ、可愛い」
真二「・・・可愛いですね」
一葉「はい」
一葉「じゃあ、そろそろ」
もろはは一葉と離れがたそうにくぅ〜んと鳴いている。
真二「あ、あの、もろはがこんなに懐く人も珍しくて、
もし良かったらまた会ってくれませんか?」
一葉「いいですよ」
真二「本当ですか!?」(ぱあぁっ)
この子も可愛いな・・・。
一葉「あの、あなたのお名前は?」
真二「真二です、か・・・えと、あなたの名前は・・」
一葉「一葉です、真二さん、凄く若そうに見えるんですけど・・・」
真二「20歳です」
一葉「若!!」
真二「え、一葉さんもそんな変わらないですよね?」
一葉「いえいえ、一回り以上歳上ですよ」
真二「そうなんですか?俺より3、4個上くらいかと思ってました」
一葉「そんな若くないですよぉ、もう31歳です」
真二「そうだったんですね、めちゃくちゃ若く見えますね」
一葉「真二さんって上手いですね」
真二「俺は本音言っただけですよ」
一葉「ありがとうございます」
真二「あ、全然タメ口で良いですよ」
一葉「分かったわ」
連絡先を交換する。
一葉「じゃあ真二君、もろは、またね」
もろは「わんっ!」
真二「はい、連絡しますね」
2話 真二君の友達
真二君ともろはと七里ヶ浜の海岸を歩いていると真二君の友達とバッタリ合った。
えみこ「あ、真二君じゃん!隣の人誰?」
真二「友達だよ」
一葉「初めまして、一葉です」
えみこ「初めまして、えみこです!あ、ひょっとして予定あるって言ってたのこの人のことだったの?」
真二「そうだよ」
えみこ「バーベキュー今からでもいいから来なよ、一葉さんもどうです?」
一葉「せっかくのお誘い嬉しいけど、若い人たちの邪魔しちゃ悪いから私帰るよ、真二君はお友達と楽しんできて」
そう言って帰ろうとした時、真二君に腕を掴まれ止められた。
一葉「真二君?」
真二「一葉さんも一緒に行きましょ?」
う・・・その顔は反則。
お肉や野菜を焼いている一葉を真二がじっと見つめているとえみこに話しかけられた。
えみこ「ねぇ、真二君て一葉さんのこと好きなんでしょ?」
真二「何でそうなるの」
えみこ「気付いてないの?目でずっと追いかけてるじゃない」
真二「・・・トイレ行ってくる」
えみこ「はーい」(ニヤニヤ)
園田「一葉さん、真二と友達として付き合うのは良いですけど恋人として付き合うのは辞めといた方が良いですよ」
一葉「やーね、私、あなた達と一回り以上歳が離れてるのよ?付き合うなんてあるはずないじゃない」
園田「あー、いや、俺らそういう意味で言ったんじゃなくて」
花田「真二、友達としてはいい奴なんすけど
その、なんつーか彼女できると依存ってゆーのかな、
ストーカー気味になっちゃうんすよ」
一葉「そんな風には見えないけどな」
園田「付き合ってみたら分かりますよ」
花田「お勧めしないっすけど」
一葉「そもそも真二君は私のことなんてなんとも思ってないわよ」
""いや、好きだと思うけど""
一瞬でその場にいた全員き真二の気持ちがバレたのである。
3話 真二君の秘密
真二君は電話が好きらしく、よく繋いだまま寝落ちしていた。
一葉「そう言えば真二君て最初に会った時、名前言ってないのに知ってたよね?前に会ったことあったっけ?だとしたらごめんね、ど忘れしちゃうこと結構あって」
真二「それは・・・あの、引かないでくれますか?」
一葉「うん?分かった」
真二「えと、一葉さんが働いてるホテルに俺も友人達と泊まったことがあるんです」
一葉「えー!そうだったの!?」
真二「その時、顔がチラッと見えて覚えてました」
一葉「そっかー、私全然気付かなかったな」
真二「作業中だったので仕方ないですよ、それで作業仲間たちからかずはちゃんって呼ばれてるのを聞いて名前を知りました」
一葉「なるほどねー、それで偶然会えたって凄い奇跡だよね」
真二「そうですね」
ホテルで見かけたのは本当だけど二度目に会ったのは偶然でも奇跡でもない。
ホテルの清掃時間が終わる頃に合わせてもろはの散歩をしていた。
それを何度も繰り返しながら一葉さんに会える時間を微調整した。
そしてあの日、一葉さんが目の前から歩いてくるのが見えて鼓動が早くなった。
やっと会えた。声を掛けなきゃ。
「一葉さん・・・」
思わず名前を呼んでしまった。
いざとなったら緊張して声が出なかった。
もろはが一葉さんに懐いてくれたおかげで自然に話せたんだ。
4話 未来
七里ヶ浜。海が見えるカフェ。
真二「一葉さん、どうしたら俺のこと男として見てくれますか?」
一葉「え?」
真二「俺、本気で、本気であなたが好きなんです、だから・・・」
一葉「・・・真二君、私と付き合っても君の未来に繋がらないよ」
真二「俺の未来って何です?」
一葉「幸せな未来だよ」
真二「俺の幸せには一葉さんが必要だと言ってもですか?」
一葉「それは・・・」
真二「確かに歳は一回り違いますよ、でも俺は未成年じゃないし学生でもない、仕事だってしてます、それでもダメですか?」
一葉「ごめん、これは君のせいじゃなくて私の中の問題なの」
真二「分かりました、今はそれでいいです、一葉さんの気持ちが落ち着くまで待つちますから、
だから今はそばにいさせて下さい」
一葉「・・・うん」
その時、江戸っ子気質な店長さんがデザートをテーブルの上に置いた。
一葉「あの、デザート頼んでないんですが」
店長「これは俺からのサービスだ」
一葉「え、あ、ありがとうございます」
店長「話は聞かせてもらったよ、良い話じゃないか、お嬢ちゃん、あんちゃんの心意気受け取ってやんなよ、泣かせるじゃねーか」
真二"何でこの人が泣いてんだ・・・"(若干引いてる)
一葉「いえ、私一回り以上も歳が上ですし」
店長「そんなこたぁ死んでから考えればいいんだよ、大事なのは二人の気持ちだぜ!」
一葉「は、はぁ・・・」
真二「一葉さん!」
一葉「ビクッ、は、はい、何でしょう?」
真二「一葉さんがどうしても俺のこと嫌なら諦めます、男として見れないなら友達としてでもいいから側にいたいです!」
一葉「キュン・・・」
店長「健気だねぇ・・・おいお前」
妻「なんだい?」
店長「お前も話聞いてただろ」
妻「ああ、聞いてたよ」
店長「お嬢ちゃんあんちゃん、実はうちも姉さん女房でな、俺より8個歳上なんだ」
一葉「そうだったんですね、ですが私は一回り以上上ですし・・・」
真二「でも、ちゃんと成人してます」
真二は頬をぷくっと膨らませている。
妻「あらまぁ、それならいいじゃない」
店長「そうだぜ、細けーことは置いといて今どうしたいかだよ」
一葉「今どうしたいか・・・」
妻「あんた、私らはこれ以上首突っ込んだら野暮だよ」
店長「お、おお、そうだな、じゃあお二人さん、俺はもう厨房に戻るが仲良くな」
真二「一葉さん、そろそろ行きましょうか」
一葉「うん」
こうして二人は店を出た。
ニヤニヤしている店長さんと奥さんに見守られながら。
一葉"私がどうしたいか、か・・・"
5話 永遠に
それから一週間後。
私は真二君を家に呼んだ。もろはも一緒にいる。
一葉のマンションはペットOKの物件だ。
真二「お邪魔します」
一葉「どうぞ」
真二「久しぶりですね、一葉さんの部屋に来るの」
一葉「うん」
真二「それで、話ってなんですか?」
一葉「え、いきなり本題!?せ、せめて何か飲みながらでも良い?」
真二「あ、すみません、もちろんいいですよ」
私は緊張しながら紅茶をグラスに入れる。
今日は暑いので冷たいアイスティーにしようと氷を取り出す。
ガチャガチャ!
真二「大丈夫ですか?」
一葉「う、うん、ごめん手が滑って」
その時、ずっと大人しかったもろはが私の足元に来た。
一葉「もろは?」
もろは"大丈夫だよ"
真二「もろは、一葉さんの邪魔したらダメだよ」
もろは「わーん」
一葉「違うよ真二君、もろはたぶん、私が緊張してるから励ましに来てくれたんだと思う」
真二「え?緊張?励ます??」
一葉がもろは用のお水とアイスティーを二つ用意してソファに座った。
そして深呼吸をひとつする。
一葉「あのね、私も真二君が好き」
真二「え、本当ですか?・・・」
一葉「うん、待たせてごめん、不安だったよね?・・・わっ!?」
真二は一葉をバックハグをした。
その瞬間、もろはは両耳で両目を覆っていないいないをする。
一葉「真二君・・・?」
真二「一葉さん、お願い、俺とずっと一緒にいて下さい」
一葉「うん、大丈夫だよ、ずっと一緒にいるから」
真二「ありがとうございます」
真二"やっと手に入れた、俺の愛しい人、
今度は絶対に離さない、永遠に一緒だ"
6話 訪問
真二が精神的に病んだ時、もろはが真二を引っ張った。
真二「え、ちょっともろは?どこ行くの!」
着いた先は一葉の家だった。
ピンポーンとチャイムを鳴らす。
インターホンから声が聞こえてきた。
一葉「はい、どちら様ですか?」
真二「真二です・・・」
一葉「え!真二君!?今出るね!」
ガチャ。
一葉「急にどうしたの?」
真二「急にもろはが走り出して、気付いたらここに着いてました・・・はっ」
その時、過去の記憶が蘇ってきた。
過去の彼女。
「え、真二君!?いきなり家に来るとかありえないんだけど!」
「病んでるの犬のせいにするとか最低だわ」
「真二君てさ、ただのメンヘラストーカーじゃん」
真二「あの、急に来てごめんなさい・・・壊れそうになってそれで・・・」
もろは「くぅ〜ん・・・」
もろはが心配そうに真二を見つめている。
一葉「真二君」
真二が自分の服の裾をぎゅっと掴んだ。
ぎゅっ。
真二「え・・・」
一葉「壊れる前に来てくれてありがとう、私がいる時で良かった」
真二「っ・・・」
真二はその言葉に一葉にしがみつく。涙が滲む。
一葉「とりあえず部屋に入って」
真二「は、はい」
ソファに並んで座ると一葉は真二の両手を握った。
もろははソファの横で大人しく眠っている。
一葉「大丈夫、大丈夫だよ」
真二「はい・・・」
しばらくして。
一葉「うん、手の震え止まってる、だいぶ落ち着いたみたいだね」
真二「はい、ありがとうございます」
一葉「何か温かいもの飲もうか、何がいい?紅茶かココアしかないけど」
真二「じゃあココアでお願いします」
一葉「分かったわ」
一葉は柔らかく微笑む。
一葉はもろはに水を、真二と自分にホットココアを準備する。
真二がホットココアを飲み、リラックスしたのか真二君がうとうとし始めた。
一葉「少し休んでいって」
真二「はい、そうさせてもらいます」
真二はそのままソファで眠りについた。
一葉がもう一杯ココアを飲もうと立ち上がろうと瞬間。
真二に手を掴まれた。
一葉「真二君?」
真二「すやすや・・・」
真二は寝ながら一葉の手を無意識のうちに掴んだらしい。
一葉は手を繋いだまま真二の頭を優しく撫でると
真二が起きるまでずっと寝顔を見つめていた。
その様子をもろはがチラッと片目で見るとまた目を瞑るのだった。
7話 一緒に
一葉「ねぇ、真二君、一緒に暮らさない?もちろん、もろはも一緒に」
真二「え?でも、もろははともかく俺と住んだら今よりもっと一葉さんの負担になりますよ?」
一葉「私は真二君のことを負担だなんて思ったこと一度もないよ」
真二「一葉さん・・・」
一葉「真二君が家を訪ねて来ても、その時家にいるか分からないし、それなら一緒に暮らせば解決するかなって」
真二「一葉さんが良いって言ってくれるなら・・・一緒に暮らしたいです」
一葉「良かった、それにね、私も真二君にそばにいて欲しい時あるんだ」
真二「え、そうなんですか?」
一葉「うん、私だって寂しくなったり不安になったり結構するんだよ?」
真二「そうだったんですね・・・すみません、俺、自分のことばっかりで」
一葉「そんなことないよ、真二君に会って元気もらってたからそこまで酷くならなかったの」
真二「一葉さん・・・きゅん」
一葉「もろはもいいかな?」
もろは「わんっわんっ!」
真二「もろは嬉しそうだね」
一葉「ふふ、家はどうしようか?私のマンションじゃ狭いしな・・・」
真二「いっそのこと鎌倉に住んじゃいます?」
一葉「あ、いいねそれ!仕事場も今まで通り通えるし」
真二「俺は鎌倉の本屋に変えます、もろはの散歩もあるし」
一葉「私は今のとこ気に入ってるから変えなくてもいいかな?」
真二「はい、もちろんですよ」
一葉「ありがとう」
真二「とりあえず物件見てみますか」
一葉「うん!」
15分後。
真二「あ、ここいいですね」
一葉「本当だ、綺麗だしセキリュティもバッチリだね、8万・・今のマンションの倍だわ・・」
真二「家賃は俺が全部出しますよ」
一葉「え、いやいや!それはさすがに真二君の負担が大きすぎるよ!」
真二「大丈夫ですよ、俺、今まで貯金もしてましたし」
一葉「若いのに偉いわねぇ・・・」
真二「家賃とガス水道光熱費ともろはの分は俺が払いますんで、食費とか雑費とかお願いしてもいいですか?」
一葉「それはもちろん!でも、そんなに任せちゃっていいの?・・・月に13万くらいかかるよね?」
真二「大丈夫ですよ、3万余れば携帯代と娯楽費も使えますし」
一葉「助かるけど、真二君にそこまで出させるわけには・・・」
真二「本当にいいんですよ、一葉さんと永遠に一緒にいられるなら13万は高くないです」
一葉「あ、ありがとう、助かるよ・・・」
一葉"さらっと永遠って言ったなこの子"
8話 初詣
カランカラン。パンパンッ。
お賽銭を入れて鈴を鳴らす。二礼二拍手。お願い事をする。そして一礼。
一葉「真二君なにをお願いした?」
真二「一葉さんとずっと一緒にいられますようにですよ、一葉さんは何をお願いしたんですか?」
一葉「ふふ、真二君がいっぱい幸せでいられますようにって」
真二「もー、一葉さん自分のこともお願いして下さいよ」
一葉「あはは、そうだねぇ」
真二「でも、俺の願いもう叶っちゃいましたね」
一葉「え?」
真二「はい、たった今叶いました」(ニッコー)
んぐっ、可愛い・・・。
周りの人たち。
「ラブラブだなぁ・・・」
「羨ましい〜!!」
「いいないいなー」
真二「おみくじ引きましょうか」
一葉「うん」
・・・。
一葉「あちゃー、私、大凶だったよ・・・真二君は?」
真二「俺も・・・」
一葉「あらら・・・二人とも大凶なんて珍しいね」
真二「恋愛、相性最悪・・・なんか一気に現実突き付けられた感じします・・・」
一葉「んーでも、今が最悪なら後は良くなるだけじゃない?」
真二「え、そうなんですかね・・・?」
一葉「真二君」
真二「はい・・・!?」
一葉がちゅっとほっぺにキスをする。
一葉「これで良くなったかな?なんて」
真二「一葉さん・・・不意打ちは狡いです」
真二は顔を両手で覆った。顔が真っ赤になっている。
一葉「ふふ」
真二「もー・・行きますよ」
一葉「はーい」
真二が一葉の前に手を差し出し、その手を一葉が取る。
恋人繋ぎをしたまま二人は自分たちの家に帰っていった。
番外編 もろは
七里ヶ浜。海岸。午後3時半。
僕は真二と散歩をしていた。
砂浜を歩いていると目の前から一人の女性が歩いてきた。
すれ違い様、真二が思わず名前を呼んでしまったみたい。
真二「一葉さん・・・」
一葉「え?」
一葉が振り返る。
真二「あ・・・」
一葉「あの、どこかで会いましたか?・・・」
もろは「・・・」
真二が困ってる。
僕は咄嗟にその女性に擦り寄った。
一葉「わ!?」
真二「す、すみません!!大丈夫ですか!?」
もろは「わっふわっふ」
一葉「いえいえ、大丈夫ですよ」
一葉はそう言うともろはを撫でた。
真二「もろはが俺以外に懐くなんて・・・」
一葉「もろはって名前なんですね」
真二「はい、オスのゴールデンレトリバーです」
一葉「もろはは普段人に懐かないんですか?」
真二「はい、見たことないです、よっぽど一葉さんが気に入ったんですね」
もろは「わんわん!」
もろは一葉に対してずっとしっぽをフリフリしている。
一葉「ふふ、可愛い」
真二「・・・可愛いですね」
一葉「はい」
僕は一葉さんを知ってた。
だって、ホテルに泊まった時も夕方の散歩の時もいつも真二が彼女を見つめていたから。
その目はいつもキラキラしていたから。
だからあの日、声を掛けられずにいた真二に痺れを切らして一葉さんに擦り寄った。
彼女は優しい人だってすぐに分かった。
この人なら真二のことを大事にしてくれるって。
僕が落ち込む真二を放っておけなくて彼女の家に引っ張っていった時も
真二「あの、急に来てごめんなさい・・・壊れそうになってそれで・・・」
もろは「くぅ〜ん・・・」
もろはが心配そうに真二を見つめている。
一葉「真二君」
真二が自分の服の裾をぎゅっと掴んだ。
ぎゅっ。
真二「え・・・」
一葉「壊れる前に来てくれてありがとう、私がいる時で良かった」
真二「っ・・・」
真二はその言葉に一葉にしがみつく。涙が滲む。
一葉「とりあえず部屋に入って」
真二「は、はい」
今までの人は真二を冷たく突き放してたのに一葉さんだけは違った。
ソファに並んで座ると一葉さんは真二の両手を握った。
僕はソファの横で眠る。
一葉「大丈夫、大丈夫だよ」
真二「はい・・・」
一葉さんの優しい声が心地良かった。
しばらくして真二の手の震えが止まったみたいだ。
一葉「うん、手の震え止まってる、だいぶ落ち着いたみたいだね」
真二「はい、ありがとうございます」
一葉「何か温かいもの飲もうか、何がいい?紅茶かココアしかないけど」
真二「じゃあココアでお願いします」
一葉「分かったわ」
一葉さんが柔らかく微笑んだ。
一葉さんは僕にも水を用意してくれた。
彼女の部屋には僕が来た時用のお皿を用意してくれてあるんだ。
真二がホットココアを飲み、リラックスしたのか真二がうとうとし始めた。
一葉「少し休んでいって」
真二「はい、そうさせてもらいます」
真二はそのままソファで眠りについた。
一葉がもう一杯ココアを飲もうと立ち上がろうと瞬間。
真二に手を掴まれた。
一葉「真二君?」
真二「すやすや・・・」
真二は寝ながら一葉の手を無意識のうちに掴んだらしい。
一葉は手を繋いだまま真二の頭を優しく撫でると
真二が起きるまでずっと寝顔を見つめていた。
人ってこんな風に誰かを愛おしそうに見つめることもあるんだって初めて知ったよ。
僕はチラッと二人の様子を片目で見ると満足して眠りにつくのだった。
お終い。