第八話 新しい生活
「ユリィ!誕生日!おっめでとう!!」
琴葉が私に抱きついてきた。
あれから何度かいっくんたちと会って話をしている。
流石に前世の名前で呼んでしまうと、この世界の人達が戸惑ってしまうから、こちらの名前で呼ぶことになった。
当然なんだけどね。
「ありがとう、リア」
「ユリィ嬢」
どこからか、いっくんの声が聞こえた。
「きゃあ!イーベル殿下とギディオン殿下よ!」
周りの令嬢たちが騒ぎ出した。
流石国宝並みの顔面を持って生まれた二人。
「お誕生日おめでとう。ドレスも綺麗だ」
「社交界デビューもおめでとうだね!」
二人が祝福してくれた。
私はイーリス様にバキバキに鍛えられた淑女の立ち振舞を実践した。
「イーベル殿下、ギディオン殿下、ようこそお越しくださいました」
「堅苦しいのは要らないよ〜。なんせ弟の婚約者だからな」
「あ、そっか」
……ん?
コンヤクシャ?
婚約者って言った?
ん〜?
「申し訳ございません。聴力が衰えたらしく……。もう一度言っていただいてもよろしいですか?」
「聞き間違いじゃないよ。君はイーベル・アスクレインと婚約したんだ」
『本人の同意なしに何してるんだよ!』
『菜乃葉ちゃん!日本語日本語!』
うっかり日本語が出てしまった私に、柚木は慌てて指摘してきた。
今はそんなことどうでもいい。
横にいる琴葉も、柚木をすっごい睨んでいる。
『今そんな事はどうでもいいでしょ!何勝手に婚約させてるのかな?ああん?』
『俺は止めたぞー。勝手にこいつが動いた』
キレる琴葉を見て、いっくんはすぐさま柚木を売った。
「ちなみにセシリア嬢は俺の婚約者になった」
殴りかかる勢いで琴葉が柚木に近づいていく。
私といっくんはそれを必死で止めた。
『おいこら柚木、一発殴らせろ』
『なぁ、菜乃葉。琴葉なんだかキャラが違くないか?』
『怒らせるとこうなるんだよ』
私達は琴葉を止めながらのんきに話していた。
そろそろ日本語を話すのはやめたほうが良いな。
周りの人たちが困惑している。
『琴葉、日本語を話すのはもうやめようか。柚木を殴るのはまた今度で』
『菜乃葉のお願い事なら』
そう言ってその場は収まった。
しかしパーティーの後、柚木は琴葉によってボコボコにされていた。
不敬で捕まるんじゃないかと思ったけど、いっくんが自業自得だからと言ってなんとかしてくれた。
平和で何よりだ。
「……あの言語って」
◇◆◇
――五年後
「次は在校生代表、ギディオン・アスクレイン殿下による演説です」
堂々とした立ち振る舞いで舞台に上がったのは柚木だ。
私達よりも四年早く学園に入学している。
ちなみに学園には学年がある。
飛び級制度もある。
私といっくんと琴葉とアエテルナは一年生に紛れて入学しているけど、入試で満点を取ったから、お姉様や柚木と同じ第四学年になる。
お姉様と柚木は同い年だ。
飛び級した生徒も、一年生と一緒に入学する。
「――であるから、君達も学園のルールを守ってほしい。充実した生活を送ろう!」
柚木がそう言った瞬間、新入生全員が拍手と歓声を上げた。
流石一国の王太子。
中身がアレでも、表向きはいい人だもんね。
隣の席にいる琴葉とアイコンタクトを取った。
琴葉は私に親指を立てて笑った。
……何で?
そういえば、セシリアは魔法学園入学と共に聖女の力を覚醒させるはず。
でも、覚醒してないよね?
「これにて、入学式を終わります。第四学年以上の新入生は前扉から、第三学年以下の新入生は後ろ扉からご退場ください。扉を出た先にクラス分けがあります。先生方の指示に従って教室に向かってください。繰り返します。第四学年以上の―――」
私達は前扉から出てクラス分けを見た。
全員同じクラスだ。
「おー、全員同じAクラスか。柚木も同じじゃん」
「お前ら、いきなり四年に飛び級とかキモいんだけど。しかもAクラス」
「あなたが『キミセカ』の作者ですか!?楓夏菜先生の次にファンです!!」
「やだ〜!楓夏菜のこと知ってるの〜!?ファンなの〜!?分かる!!」
みんながそれぞれの形でわちゃわちゃしてる。
柚木といっくんが小競り合いをして、アエテルナと琴葉が楓夏菜のことを話している。
そんな様子を見ていた私のところに、お姉様がやってきた。
「ユリィ、入学おめでとう」
「ありがとうございます!」
「飛び級でAクラスになるなんてすごいわね。同じ時期に卒業できそうよ」
「そういえば、お姉様もAクラスですね。これからよろしくお願いします」
お姉様は笑って頷いた。
この学園は合計四クラスに分けられる。
魔力量や知能がAクラスより高いとSクラス。
魔力量や知能がBクラスより高いとAクラス。
魔力量や知能がCクラスより高いとBクラス。
魔力量や知能がどのクラスよりも低いとCクラス。
つまり、私達は二番目のクラスに入ったということだ。
私達は教室に行って、それぞれの席に座った。
自己紹介などをして、明日から本格的に授業をするらしい。
◇◆◇
私とアエテルナ、お姉様は屋敷に帰って、それぞれ明日の準備をすることになった。
しかし……。
「アエテルナ……。なぜ私の部屋にいるの?」
「少しでも楓夏菜先生と同じ空気を吸いたいんです!!」
「あー、うん。そっか」
そこまで来ると私も引くよ!?
同じ空気……。
ポジティブに考えよう。
「あっれれ〜?何で悪役令嬢が平和に暮らしてるの〜?」
ベランダの方から声が聞こえた。
私とアエテルナはベランダに目を向けた。
ベランダには幼い男の子がいた。
美しい銀髪に琥珀色の瞳。
誰だろう。
「悪役令嬢のくせに、悪い事してないなんて〜。そんなのいけないんだよ〜」
みなさん!あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いいたします!さて、今回のお話は社交界デビュー、学園入学でしたね!まさかのユリィとセシリアが不本意にもイーベルとギディオンと婚約することになっていました!他にも色々ありましたね。最後には謎の少年が現れました!次回は少年の話になります!お楽しみに!それではまた次回!