第三十七話 女神様と世界の理
私の部屋には伊里也、お姉ちゃん、伊吹、裕翔くん、楓、オーリス、ユリィ、唯斗、雪菜がいる。
勢揃いだ。
ただ……。
全員が部屋の隅を凝視しているのはわかる。
その後で私を見ないで。
聞くなら聞いて。
お願いだから。
「あ、あのぉ……。菜乃葉さん?あれは一体……」
伊吹が口を開いた。
私はみんなに向かって微笑んだ。
なぜかみんなは「ひぃ!」と怯えた声を出して震えている。
何で?
「あー、うん。ちょっとむしゃくしゃしててね?ちょーっと床に叩きつけたら割れちゃった」
そう、部屋の隅にあるのは粉々の魔法球である。
三年前だったかな?
琴葉と話した後でむしゃくしゃして思いっきり床に叩きつけたんだよね。
だから、あれから話せてない。
「ちょっとで割れるか。お前魔力を込めただろ」
「あ、バレた?」
さてと、魔法陣を探すかな。
伊里也達はもうすでに魔法陣を持ってスタンバっている。
私はどこにしまったっけな。
私は引き出しの中を漁った。
そしたら案外すぐに出てきた。
「じゃあ、外に出ますかね」
私達は外に出た。
そこには七色に輝く鳥がいた。
「鳥……?」
その鳥は眩しい光を放った。
やっば、これは失明しそう。
「菜乃葉……。菜乃葉はどこだ……」
「伊里也、私はここにいるよ」
伊里也の声が聞こえるけど、どこにいるか分からない。
全員……。
いや、オーリス以外はそうだろう。
「あ、お前が菜乃葉か」
「落ち着け伊里也、俺は伊吹だ」
「うわっ、最悪っ」
――バチン!
待て、今何が起きた?
伊里也が誰か叩いたのかな?
伊吹かな?
じゃあいいか。
「痛ぁ!何すんねん!」
「すまんすまん。つい」
「おい菜乃葉!お前の治癒魔法で目を戻せないか?」
あ、それならできるかも。
私は治癒魔法を周りに振りまく形で放った。
「あ、治った」
私も治った。
良かった、失明はしてなかったみたい。
失明してたら蘇生魔法じゃないと無理だもんね。
あれ?
オーリスがいない。
他のみんなはいるのに。
「ん?」
目の前に誰かいる。
私はまだチカチカしている目を頑張って使った。
そこには申し訳無さそうにする鮮やかな白銀の髪に、金色の瞳をした女性が立っていた。
白い服を着ているから、神にしか見えない。
「ごめんなさい、思ったよりも人間に害があったみたい」
鈴を転がしたような声をしているな。
「あなたは……?」
伊里也が聞いた。
女神様は微笑んで言った。
「女神と言ったら通じるかしら?」
あー、本物だった。
全員、驚いたように目を見開いているが、私はそうでもなかった。
「お久しぶりですね、女神様」
「え゙?」
みんなは豆鉄砲を食らったような顔をしている。
女神は微笑んで私の頬に触れた。
私は前のように振り払うようなことはしなかった。
それは神様だからとかじゃない。
「良かった。あなたもこの世界で幸せになれたのね」
「おかげさまで。まぁ、転生先がまさか琴葉の書いた小説の世界だったなんて思ってませんでしたけどね」
「ここしか転生先がなかったのよ。何らかのミスによって世界の理がねじ曲がってしまっていたこの世界を救えそうだったのがあなた達だけだったのだから」
「それは分かりますけど、少しは私も幸せにしてくれませんかね?悪役にせられたり、殺されそうになったり親友を殺されたり、並列世界に飛ばされたり、恨まれたり大変だったんですから」
「ごめんなさいね」
女神様は申し訳無さそうに言った。
みんなのことは一旦無視して女神様と話そう。
「本当にとんでもない人生を歩まされましたよ。でも、恨みよりも感謝が大きいですね。女神様のお陰で大切な人に再会できて、大切な記憶を思い出した。本当に感謝しかないです」
「いいのよ。元はと言えば、私の腹黒クソ兄貴がしでかしたこのへの償いなので」
口悪っ。
女神様って意外と口悪いな。
「菜乃葉、説明しろ?」
伊里也が笑顔で聞いてきた。
はずなのに、なぜか怖い。
他のみんなは戸惑った顔をしている。
そろそろ説明するかな。
「私は死んだときここに来たことがあるの。女神様にも会った。どうやら私達の人生は女神様のお兄様が定めたものだったらしい。腹黒だった女神様のお兄様は私達の人生をむちゃくちゃにした。女神様はお兄様をボッコボコにして聖人に戻したのはいいものの、定めてしまった人生は変えられない。だから女神様は死んだ私達の魂を集めて、理がねじ曲がっているこの世界に転生させたの。ちなみに私もさっきそれを思い出したばっかりだよ」
「私が消しましたぁ〜」
女神様がノリノリで言った。
「この世界はなぜかユリィ・セーリアとセシリア・フィーリアが並列世界を移動し続けていた。松谷加那がセシリアになっていたのも何らかのミス。ユリィは菜乃葉達がいた世界で死んでもまた繰り返した。理が元に戻らないのであれば一から書き直せばいい。でも時間がかかる。なら、ユリィが生きている世界に菜乃葉を送り込んで時間稼ぎをしてもらおうと思ってね」
あ、だから並列世界に来たのか。
それなら辻褄が合うな。
何も言わずにってところが引っかかるけど。
「ユリィ、あなたはもう苦しい人生を歩まなくてもいいのよ」
「……え?」
「世界の理は正された。あなたはこの世界で寿命いっぱいまで生きて死ねる。そして、また人生を繰り返すこともない。もう安心して生きていいの」
ユリィは涙ぐむ瞳を細めて微笑んだ。
女神様の今の発言は寿命まで生きれるということだ。
それに安心しているのだろう。
女神様は私の方を見て微笑んだ。
「菜乃葉、あなたにも感謝しているのよ?私と会った記憶がないにも関わらず、人を助けようと自分を犠牲にしてくれて。でも、自分も大事になさい」
「本当にそうだ」
「全くだ」
伊吹も伊里也もうるさいよ?
でも、本当にみんな優しい人ばかり。
「雪菜、唯斗、由梨奈。あなた達も愚兄のせいで迷惑をかけたわね」
「とんでもないですよ!」
「私達、またお姉ちゃんたちに会えて嬉しかったですし!」
唯斗と雪菜が言った。
本当にいい子達だ。
お姉ちゃんは一歩前に出て女神様に頭を下げた。
その様子に女神様は目を見開いた。
「本当に、妹達に会わせてくださり、ありがとうございました」
「愚兄の償いだから気にしなくていいから。あなた達や楓や裕翔、智樹を転生させたのも菜乃葉に会わせるためだったし。結果的に愛子を贔屓しただけだから気にしないで」
全員の視線が私の元に来た。
私はそれに気づかなかった。
「へぇ〜、私って愛子だったんだ〜」
「かえって冷静になるな!」
「いや、もう落ち着くしかないよね」
「この精神チート野郎が」
伊里也がキレッキレなツッコミを入れてきた。
その様子が面白かったのか、女神様は笑い出した。
「その様子を見ていたら心配なさそうね。……もう時間よね?」
「あっ、そうだった」
「それじゃあ、みなさんに幸福があらんことを」
女神様は光を放った。
これまた失明しかけるやつじゃないよね?
気がつくと目の前に女神様の顔があった。
「わっ」
「菜乃葉。―――」
「え?」
私の意識はそこで途切れた。




