第三十六話 卒業式パーティー
そこには浮遊魔法で体を宙に浮かせるこっちの世界のユアンの姿があった。
「来たよ」
「ごめんね、わざわざ来てくれて」
「ユリアンは用事でまだ来れないって」
「いいよ。まだ時間あるし」
「じゃあ、僕はしばらく王都を見て回るよ。僕が国を治めていたときよりも活発で面白いんだ」
ユアンは笑った。
どんな国王でも思うだろう。
自分の国は未来でどうなっているのか。
ユアンの場合はなおさらだ。
「そう言えば、ここに来る途中で伊里也を見たよ」
「え?あいつめ、いないと思ったら……」
「菜乃葉、そろそろサプライズイベントがあるから戻ろう」
「うん。それじゃあユアン、また後で」
私達はバルコニーから王宮の中に戻った。
サプライズイベントとは、その名の通り何をされるか分からないイベントである。
卒業生代表である生徒会長を中心に生徒会メンバーが企画するイベント。
それを卒業生は例年楽しみにしている。
階段の上にはギディオン、イアン、アルト、裕翔くん、そして伊里也がいた。
伊里也は生徒会メンバーではないはずだけど……。
「これより、生徒会企画のサプライズイベントを開始する。去年の先輩方は宝探し、一昨年の先輩方は仮装など、様々なサプライズを用意してきた。しかし、そこには我々が培ってきた魔法などが一切使われていなかった。ということで、今期の卒業生達にはここのイリヤが調合した魔法薬を使う!」
ほぼ全員が歓声を上げた。
面白そうなことを思いつくな、ギディオン。
どこぞの無能王太子とは大違いだ。
「魔法薬は令嬢にしか効きません。まずは魔法薬を浴びてください」
伊里也がそう言って、大きな魔法薬の瓶を宙に投げた。
それを周りにいた全員が割り、中から溢れた液体を会場にまんべんなく撒いた。
ちょっと待て、それって媚薬じゃないよね?
私は媚薬を浴びた前科があるから強すぎる。
避けることもできず、私もユリィもしっかりかかった。
――ポンッ。
たくさんの煙が会場で上がった。
「「な、なにこれ!?」」
「「分からない……」」
「「なんか声が二重に聞こえる気が……」」
私は横を見た。
「「うわぁぁぁああああああ!!」」
思わず声を上げてしまった。
鏡?
いや違う、これは……。
私!?
「驚いただろう?これはもう一人の自分を生み出す魔法薬伝説級のものだ。男子生徒は後で前に来るように。もとに戻す薬を渡す。女子生徒はこの会場に必ずいる婚約者から逃げる、男子生徒はどちらの婚約者が本物か見極める。これが今年のサプライズイベントだ!楽しんでくれ!」
面白いことをしてくれる。
私は伊里也を見た。
不敵に笑う伊里也は明らかに楽しんでる。
「「殿下!どこに逃げてもよろしいのですか?」」
私は聞いた。
「ああ、両陛下には許可を取っている。好きに走り回るといい」
なら私は逃げるよ、伊里也。
私は勢いよく駆け出した。
「「菜乃葉!?」」
「「捕まるもんか!」」
他の令嬢達も一斉に走り出した。
王宮の構造はあっちの世界の知識でお見通しなんだから。
◇◆◇
息を切らして走りまくった私の目の前にいるのは、同じく息を切らした伊里也だ。
どうやら私達が最後のようだ。
「「どっちが本物だと思う?」」
観念して聞いた。
伊里也は迷わず私の方に来た。
「こっち……。たく、手間取らせやがって。こっちは一撃で分かってたっつうの」
伊里也は私じゃない方の私に元に戻す薬をかけた。
私は笑顔で言ってやった。
「流石だね」
伊里也は不敵に笑った。
「さぁ、最後のペアの愛を見せつけられたところで、ダンスタイムにしようか」
ギディオンはそう言った。
その言い方はやめてくれよ。
ちなみに魔法学園では礼儀作法やダンスも教わることができる。
つまり、全員参加だ。
「踊ってくれますか?」
伊里也が格好つけて言ってきた。
思わず吹き出してしまったのを伊里也に睨まれてしまった。
「喜んで」
さて始まったダンス。
私と伊里也はどちらも貴族なので流石にちゃんと踊れる。
「意外と踊れるんだな菜乃葉は。前世ではダンスだけは出来なかったのに゙ぃ!」
それは私の地雷である。
だから思いっきり足を踏んでやった。
ざまあみろバーカ。
そんな気持ちを顔全体で表すと、伊里也はムッとした顔をしてステップを激しくした。
「うわわっ」
「どうしましたか?お嬢様?」
こいっつ……。
その後も三連続くらいダンスを続けられてやっと開放された私はみんなと合流した。
「はぁ……。酷い目にあった……」
「菜乃葉が喧嘩売るからでしょ?」
「だってお姉ちゃん聞いてよ!伊里也ったらね」
「ナノハ!」
あれ、この声は……。
「アルバート!」
見かけないと思ったら、今来たのか。
アルバートは私達のところに小走りでやって来た。
「首席卒業おめでとう、ナノハ!」
「アルバートも卒業おめでとう」
アルバートは笑顔で頷いた。
「あーあ、サプライズイベント俺も出たかったな〜」
そっか、アルバートは今来たところだからサプライズイベントには出れてないのか。
誰かから内容を聞いたのかな?
「お前には無理だろ〜」
「そもそも婚約者いないだろ」
後ろから声が聞こえたから振り向くと、アルトと楓、藤井くんがいた。
生徒会メンバーはもうやること終わったみたい。
ギディオンは女子生徒に囲まれて困っている。
絶対助けないけど。
「よ、ナノハ。ご機嫌はいかがかな?」
「絶頂だよ。生徒会は面白い企画を思いつくものだね。すっごく楽しかった!」
話しかけてきたアルトに答えると、アルトはまるで良かったと言うように微笑んだ。
アルトはあの戦争のときに一時的に国に帰ったが、すぐにまた戻ってきた。
卒業式に一緒に出られてよかった。
「あ、鍵!」
「え?」
私はドレスのポケットに入れていたアルトの曽祖父の鍵を取り出した。
アルトはくれると言っていたが、流石に良くないと思って持ってきておいたんだ。
私は鍵をアルトに渡した。
「別に返さなくていいよ。使い道もないし」
「それでも、アルトの曽祖父様が残したものでしょう?大切にしてくださいよ」
「……そうだな」
アルトは微笑んだ。
「ア〜ル〜ト〜!」
可愛らしい顔をした青色の髪と緑色の瞳を持つ女の子がアルトにバッグハグをした。
アルトは驚きつつも嬉しそうな顔をしている。
「アニス!どこに言ってたんだ?」
「おやつ食べてた〜!あれ?この人達は?」
「俺の友達だよ」
「そうなんだ〜!」
ゆるい喋り方をするアニエスという人はアルトから離れてきれいなお辞儀をした。
上級貴族か。
「はじめまして!アニエス・セレナーデと申します!アルトの未来の妻です!」
あー、婚約者か。
そりゃあ婚約者の一人もいるよね。
シナリオぶち壊しちゃったもんね。
でも良かった。
死ぬこともなく婚約者に愛されてて。
「ナノハ・リーベルです。イリヤ・ジュリーの婚約者です」
「ユリィ・セーリアです。ギディオン・アスクレイン殿下の婚約者です」
「ユリナ・セリーナです。イブキ・アイラルの婚約者です」
全員の自己紹介が終わったところで、私はアニエスに近づいてニヤニヤしてやった。
アニエスは少し戸惑っている。
「アルトとの馴れ初めは?」
「ナノハと出会った後でタックルしてきたんだよな〜?」
「やめてよ〜。忘れ物して急いでたんだからぁ〜」
ちょっとちょっと、お二人さん?
イチャイチャしないでもらってもいいですかね?
なるほどね、私と会った後でタックル……。
タックル!?
令嬢が!?
余程急いでたんだろうな。
「菜乃葉、そろそろ時間だよ」
楓がそう言ってきた。
時計を見るともう十一時半。
もう帰らないとか。
「何だ?この後用事があるのか?」
「うん」
「じゃあ、また会おうな!ナノハ、ユリナ!」
もう二度と会えない。
けど、気を損ねてほしくない。
「そうだね」
私はできるだけ笑顔を作った。




