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幸せを追う悪女達  作者: 春咲菜花
第二章
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第三十五話  思い出したこと

一時の迷いが俺を人殺しに導いた。

俺は好きな人を殺してしまった。

つまらなかった俺の人生を明るく照らしてくれた人を殺してしまった。

そんな俺は今、彼女の姉の前にいる。


「突然ごめんなさいね。過去の妹があなたに渡したがっていたものを見つけたから」

「過去の菜乃葉が?」


由梨奈さんは鞄から箱を取り出して開けた。

中から一枚の紙を取り出して広げた。

それを俺の方に向けて差し出した。

見ていいのか迷った俺は監視の方向を見た。

監視は俺に近づいて「一緒に読むならいい」と言ってきた。

俺は紙に綴られた菜乃葉の文字を見た。


『いっくんへ

元気かな?元気だよね?私は元気とは言えないかな。ごめんね、同じ高校にも行けず、告白の返事もできなくて。でも、答えが出たんだ。私もいっくんが好きだった。けどそれは友達として、親友としての好き。こんだけ待たせといてって思うよね?でも、どうしたって私の中にあるのは友達としての好きだった。今、君は何をしてるかな。私といるときみたいに屈託なく笑っているかな?私はいっくんの笑顔が好き。救われたんだ。いっくんの笑顔に。まだ話せていないことがたくさんある。これを受け取ったとき君が何をしているかわからない。今の私にこの手紙を送る勇気はない。君に嫌われるのが怖いから。いつか送れたとき、君と笑ってこの手紙を読んでたらいいな。また君と一緒にいられたらいいな。それが叶わなくても、これだけは覚えていて欲しい。君はずっと幸せでいることを、親友としてずっと願い続けるよ

山里菜乃葉より』


俺の目からは涙が流れていた。

監視の目は潤んでいる。

菜乃葉は俺を見捨てたわけじゃなかった。

嫌いになったわけじゃなかった。


「菜乃葉は君に救われてたんだよ。君が菜乃葉を殺した事実は変わらない。私もそれは怒ってるよ。でも、過去に菜乃葉の心を救った君には感謝している」


由梨奈さんは優しい表情で言った。

この人も菜乃葉と同じなのかな。

自分のことを全然話さなくて、自分の気持ちを無視して笑う菜乃葉と同じなのかな。


「だからね、伊吹くん」


由梨奈さんは立ち上がった。

そして俺に微笑んだ。

その表情には悲しみが隠れている気がした。


「あの時の菜乃葉を救ってくれてありがとう」

「……っ」


自分の妹を殺した相手に過去の感謝を伝える人なんて初めて見た。

柚木にすら「今までお前のしてきた事、全部無駄になった!」と怒られたのに。

この人は俺の過去のことも、今やったことも両方見てくれている。


「妹さんを殺してしまって……。本当に申し訳ありません……」


俺がそう言うと、由梨奈さんは少し微笑んで去って行った。


* * *


「で、この世界で愛を育て始めたと」

「そう。今ではこんなに仲良し〜」


伊吹はお姉ちゃんにすり寄った。

けど、すぐに避けられてしまった。


「何で避けるんだよ」

「なんとなく」

「ぬおぉぉぉぉぉおお!」


お姉ちゃんと伊吹のやり取りを、みんなは微笑ましく見守っていた。


――ガタッ!


ユリィがいきなり立ち上がった。


「どうしたの?」

「声が……」

「声?」


耳を澄ませてみるが、全く何も聞こえない。

ユリィは周りをキョロキョロして、庭園の方を見て目を見開いた。

私達もその方向を見た。

全員が目を疑っただろう。

庭園の先には半透明の前世の私がいたから。


「あれは……。菜乃葉……?」

「でも、私はここにいるよ?」

「じゃあ、あれは……」


半透明の私は何かの原稿を手に持っている。

私達は半透明の私に近づいた。

手に持っていたのは「君が世界を救うなら」の二巻の原稿だった。

開いていたのはユリィの死亡シーン。

それをじっと眺める私。


「幸せになりたかったんだよね。君はもう休んでいいよ」


ポツリと呟いたその言葉は、ユリィが死ぬときに聞こえたという言葉と同じだ。

みんなは私を見ている。

そうか、思い出した。

琴葉が渡してきた原稿のユリィの死に方があまりに悲しかったから、私は思わず呟いたんだ。

誰からも愛されない。

そこに共感して。


「あなただったの……?」


ユリィが聞いた。

私は頷いた。

ユリィは私に抱きついた。


「ありがとう菜乃葉。あなたのお陰で私は前を向くことができた。本当にありがとう」


半透明な私はユリィと私を見た。

そして、穏やかな表情で微笑んだ。


「よかった」


そう言って消えた。


「あなたもね」


私のつぶやきは誰の耳にも届かずに、空気中に消えた。


◇◆◇

――三年後


「そっつおめぇ〜!」


裕翔くんが伊吹の肩をぶっ叩いて言った。

そう、今日は私達の卒業式だった。

今は卒業パーティーに行くところだ。


「お〜!菜乃葉ちゃん黄色と黄緑のドレス?似合ってるよ!」

「ありがとう。ユリィが特注で作ってくれたの」

「伊里也は前と一緒か。つまんないの。そんな君に提案がある。菜乃葉ちゃんを僕にくれないかな?」

「断る。これ以上言うと食事に毒盛るぞ」


最近二人はこんな感じだ。

何の冗談か知らないけど、裕翔くんは事あるごとにこういう会話を伊里也に振っている。

何の意味があるんだろう。


「ちょっと、道の真ん中で揉めてないで早く行くよ」

「お姉ちゃん!」


お姉ちゃんが私達に言った。

お姉ちゃんは薄紫色のドレスをまとっている。


「とってもきれいだね、お姉ちゃん!」

「ありがとう」


お姉ちゃんは照れながら言った。

会場についた私達はまずユリィ達と合流した。


「あっ、菜乃葉達だ!こっちだよ〜」


笑顔で私達を呼ぶユリィの横にはギディオンがいた。

私達は側に行くなり頭を下げた。


「ご機嫌麗しゅう、殿下。今宵はお招きいただきありがとうございます」

「そう固くならずとも良いと前にも言っただろう?今宵は良い月だな」


私達は頭を上げた。

ギディオンは笑っている。


「あの、なぜ殿下はユリィ様とご一緒に?」

「今宵のエスコート役は私が務めることになったからな」

「ん?」


この国では婚約者以外の人をエスコート役に選ぶことはできない。

婚約者に予定がある場合は、兄弟か父親がやるのが決まりだ。

私達のいた世界ではそのルールは伊吹と柚木によってなくされたけどね。

それはそうと、この状況。


「もしかして、ギディオン殿下がユリィ様の新しい婚約者ですか?」

「ああ」

「そうですか。ユリィ」


私はユリィを見た。

ユリィは首を傾げている。


「良かったね。あなたはもう平気だ」

「そうね」


◇◆◇


私はいろいろと用事を済ませて、バルコニーでユリィと話していた。


「それにしても……。いろいろあったねぇ」

「みんなが来た時はびっくりしたわ。……あれから四年か。早いね」


ユリィはそう言って笑った。

平和を掴むことができたからこそ笑えるんだろう。


「ユリィ、本当に良かったね。これで安心して生きれるね」

「本当にありがとう。私のために怪我までしてくれて」


戦争の時にできた傷のことを言っているのだろうか。

何度も治癒魔法で消したと言っているのに、まだ気に負っている。

優しい。


「菜乃葉、聞いてくれる?」


ユリィは真剣な眼差しで私を見つめて言った。

私はそれに応えるように、真っ直ぐにユリィの目を見つめた。


「前も言ったように、私はこの世界で人生をループしている。今まではずっと苦しくて苦しくて、ループから抜け出したかった。苦しいことしかない人生なんてもう懲り懲りだった。でも、百回目の人生であなた達と出会って変わった。菜乃葉が心の痛みに慣れちゃ駄目だって言ってくれた時、嬉しかった。初めて自分を大事にしようって思えた。菜乃葉のために死んだ私はまた繰り返してしまった。自暴自棄になった私の前に、また菜乃葉が現れた。あなたはまた私を救ってくれた。私を止めてくれた」

「ユリィ……」

「私を止めてくれて、救ってくれただけじゃなくて、私を安全な人生へと導いてくれた。本当にありがとう。感謝してもしきれないわ」


ユリィは涙目になりながら言った。

私はエゴのために戦争を起こしたことを知っているはずなのに、ユリィはこうやって私を褒めてくれる。

悪女の性質はもうなくなったみたいだ。

生まれた時から悪女として定められた運命を歩んできた彼女を変えたのは、周囲の行動とかもあるだろうけど、一番は自分自身だ。


「これから先、私達はユリィを助けられないよ。物語を改変した代償は未来が分からなくなること。私達の行動が凶と出るか吉と出るかは分からない。それでもあなたはこれからも胸を張って生きれる?」

「神に誓おう。私はこれからも胸を張っていく。もう一度ループしたとしても、あなた達のことを思えば苦にはならない」


それでこそユリィだ。

気が強くて優しい。

それこそがユリィ・セーリアの本質だったのだ。

周りが彼女を変えただけ。

私達は彼女の本質を見失っていただけだ。


「菜乃葉、ユリィ」


誰かに名前を呼ばれて、私とユリィは空を見上げた。


「「ユアン!!」」


そこには浮遊魔法で体を宙に浮かせるこっちの世界のユアンの姿があった。

みなさんこんにちは春咲菜花です!今回は菜乃葉がユリィの死に際に聞いていた声の正体だったことが明かされました!他にも卒業式パーティーの様子もありました!次回は主にパーティーのことを書いていこうと思います!それではみなさんまた次回!

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