第六話 途絶えることのない友情
というわけで、王宮のお茶会に連れてこられた。
そうは言っても、別に大々的にやるお茶会ではない。
「かったるい」
「そう言うな。どうせ俺と兄上ともう一人いるだけだ」
「そのもう一人を教えてくれない?」
「ヒロインだ」
私は来た方向に向きを変えて歩き出そうとした。
すぐにいっくんに捕まったけど。
「どこへ行く?」
「帰ろうかと」
「何で?」
いや、いるんやろ?
私の天敵がおるんやろ?
「ヒロインいるんでしょ」
「いるけど。ほら、入れ」
いっくんは扉を勢いよく開けて、私を中に押し込んだ。
いや、突き飛ばした。
バランスを崩して倒れてしまった。
「ちょっと!」
顔を上げると、中には可愛らしい女の子と容姿が整った男の子が椅子に座っていた。
逃げたい。
この場から逃げたい。
「おいイーベル……。女性には優しく接しろ」
金色の瞳に茶色の髪。
それをひとまとめにして右側に垂らしているのは、恐らくギディオン殿下だろう。
もう一人は、ピンク色の髪にスミレ色の瞳をした美少女はヒロインだろう。
あ、やべぇ、不敬で捕まる。
私は立ち上がって、目の前の二人にお辞儀した。
「お初にお目にかかります。セーリア公爵家次女、ユリィ・セーリアです」
「セレスティア王国第一王子、ギディオン・セレスティアだ」
「おひさしぶりです。フィーリア伯爵家長女、セシリア・フィーリアです」
セシリア様とギディオン様が笑った。
ヒロインスマイルとヒーロースマイルが眩しい。
目が潰れる。
日光を直視している気分だ。
「じゃあ、前世の自己紹介もやるか」
「え?」
いっくんは間違いなくそう言った。
転生者って私、いっくん、ギディオン殿下だけじゃないの?
セシリア様混ぜていいの?
「俺は佐藤伊吹、二十一歳。高卒の社会人だった」
「佐藤柚木、二十五歳。社会人だったが、伊吹に半殺しにされて役職を奪われた可哀想な人だった」
「山里菜乃葉、二十一歳。現役大学生だったけど、いっくんに道のど真ん中でぶち殺された可哀想な人でした」
私は前世の自己紹介を終えて、セシリア様を見た。
彼女の瞳は、なぜか潤んでいた。
「菜乃葉ぁぁぁぁぁぁぁあ!」
セシリア様は、私に抱きついてきた。
「首……!首取れる!」
「菜乃葉!会いたかった!」
私が苦しんでいるのに、それを無視し続けるセシリア様は、泣いている。
ちょっと!
微笑ましそうに見てる佐藤兄弟!
止めろ!
私はいっくんと柚木さんに、口パクで助けを求めた。
「サプラーイズ」
いっくんと柚木さんがニヤニヤしながら、そう言ってきた。
いや、そういうのいいんで。
早くこの人どうにかして。
「セシリア嬢。そろそろ自己紹介を」
「あ、ごめん」
柚木さんがそう言うと、セシリア様は私から離れた。
「大切な親友を道のど真ん中で伊吹くんにぶち殺された野々原琴葉です」
わぁお。
マジかよ。
「伊吹。お前周りの人間に恨まれすぎやろ……お兄ちゃん悲しい」
「お前も道端でぶち殺してくれようか?」
「きゃっ!怖ぁい!」
いっくんと柚月さんは口論を始めた。
状況説明を聞きたいのに、それでは説明すらする気がないだろう。
「おい、そこのブラコン共。さっさと状況を説明しろ」
「誰がブラコンだよ」
「菜乃葉ちゃん口悪ぅ……」
◇◆◇
「で、一応知り合いだった人達は全員転生してるってこと?」
「まぁ、そんな感じ」
私はさっきから気になっていることがある。
私が死んだ後、みんなはどうやって過ごしたんだろうか。
「と・に・か・く!菜乃葉にまたあえて良かった!」
琴葉は私にまた抱きついてきた。
私も嬉しい。
また親友と生きれるんだから。
「で、今日お前……。セシリア・フィーリアを呼んだのは、もう一つ理由がある」
「何?」
「俺、ギディオン・アスクレインの婚約者に……」
「無理」
「…………え?」
「だから無理」
柚木さんが琴葉に婚約を申し込んだけど、一瞬で振られた。
駄目だよ、柚木さん。
琴葉は政略結婚とかはマジで拒否するタイプだから。
「あいつが振られるところ初めて見た」
「これは前世もモテていたと見る」
「正解」
いっくんとこうやって話すのも久しぶりな気がする。
前世で最後に話したのは、ヒステリックすぎたからね。
懐かしい。
「じゃあ、ユリィ・セーリアと婚約を……」
「却下。柚木、菜乃葉は俺の婚約者候補だぞ?」
「いや、婚約者候補だからな?」
いきなり私との婚約の話になった。
私的には別にどっちでも良いけど、何でいっくんはそんなに腹が立っているんだろう。
顔に出すぎてる。
なぜか柚木さんはニヤニヤしてる。
琴葉は呆れ顔だ。
ブラコンの駆け引きにうんざりしてるんだろうか。
「まぁ、いずれ婚約する運命にあるけどな〜」
「あ、そっか。ユリィとイーベルは婚約者同士だったね。じゃあ、柚木さんと婚約した方が良いかもね」
「え、やだ!菜乃葉ちゃんったら情熱的」
「図に乗るなよ、柚木」
低音ボイスが怖いよ、いっくん。
そういえば、セシリアが聖女の力を覚醒させるのって魔法学園に入学するタイミングだよね。
魔法学園に入学するのは12歳。
現在はギディオン以外は6歳。
でも、全員すぐに7歳になる。
となるとタイムリミットは残り五年。
その間に、他のヒロインに惹かれる人達との関係をなんとかして、私の悪評も流れないようにすれば、私の死亡フラグも折れるんじゃないかな?
「ねぇねぇ、琴葉。この世界で攻略したい人とかいる?」
「え?特にいないけど……」
「じゃあ、私の死亡フラグを折るために仲良くしたりして良い?」
「え……?」
全員が眉をひそめて私を見た。
「駄目なわけないでしょ。何?また死ぬ気でいるの?」
琴葉が鬼の形相で私の方を掴んで聞いてきた。
やばい、今のは聞かないほうが良かったんだろうか。
愚問だろう。
聞いてはいけなかった。
いっくんや柚木さんに助けを求めようとしたけど、諦めろと言わんばかりの顔で見られた。
そこからずっと琴葉からのお叱りの言葉を受けて、お茶会はお開きになった。
私が怒られているのを眺めながら、優雅にお茶をしていたいっくん達を呪ってやろうかと思った。
でも、またみんなに会えて前世から変わっていない関係に私は安堵した。
転生しても途絶えることのない友情。
夢物語だと思うかもしれない。
でも、私達の友情は途絶えることはなかった。
きっとこれからもずっと途切れないだろう。
◇◆◇
今日は楽しかったな……。
怒られたけど、すげぇ怒られたけど。
部屋で今日のことを思い出していると、部屋のドアが叩かれた。
「どうぞ」
「お嬢様、今よろしいでしょうか?」
「……?どうぞ」
部屋のドアを開けて、入ってきたのは私の専属メイドのアエテルナ・ライトエアーだ。
彼女は子爵令嬢だ。
なぜ子爵令嬢が私の専属メイドをしているかと言うと、転生前のユリィにアエテルナが専属メイドにしてほしいと懇願したかららしい。
なぜかは分からない。
こういう時にユリィの記憶がほしいと思う。
ちなみにアエテルナは諸説に登場している。
学園でセシリアの親友になる予定だ。
「どうしたの?」
「お嬢様、あなた……。転生者でしょう」
あ、終わった。
若干スランプ気味の春咲菜花でーす(笑)。今後の展開どうしよう。まぁいいや、さて今回は第一王子であるギディオン・アスクレインとヒロインのセシリア・フィーリアが登場しましたね!二人共転生者!何なら専属メイドも転生者!いやぁ……。次はどうなるんでしょうね。作者も分かってないです(笑)。許してください。学生なんですから。次回はたぶんアエテルナとユリィが中心になると思います。お楽しみに!それではまた次回!