第三十一話 前世の味方
「というわけで記憶が戻ったんだよね」
「そうかい、よかった」
おばさんやジャック、おじさんは笑顔で言った。
そうだった。
この人達はこう言う人だった。
「じゃあ、レリアはもう帰っちゃうの?」
「そうなるね。学園にも行かないとだし」
「ん?」
おばさんが青い顔をしてご飯を食べる手を止めた。
どうしたんだろう。
そして、ぎこちない動きで、私を見た。
「じ、じゃああんた……。お貴族様だったんかいな?」
「ううん私は平民の特待生として入学してるから貴族じゃないよ。ただ……」
「ただ?」
「ちょっと有名人なんだよね〜。あはは」
そうなんだよね。
私、第二王子を断罪した人として世界中で知られてるんだよね。
『速報!平民がアスクレイン王国第二王子を断罪!アスクレイン王国第二王子!ざまぁみろ!」
みたいな記事が回っちゃってるんだ。
元々イーベルのことを好いている人は正直少なかった。
だから、王家の称号を剥奪された今、言いたい放題なんだよね。
「改めて、私はナノハ・セイルナ」
「思ったより有名人だったわ。でも、容姿が……」
「これが私の本当の姿なんだ〜。ユリィ・セーリア様に似てるから、不敬で捕まるかな〜。って思って変装してたんだよ」
雑な言い訳になってしまった。
まぁ、いいよね?
信じてるみたいだし。
「今日か明日帰るよ。……お金とか払った方がいい?」
「いらないよ。これは私達がやったことだしね。なんならまた来てくれないかい?」
「いいの?」
おばさんは笑顔で頷いた。
やっぱりこの家庭は温かい。
何が温かい?
よく分からないけど、なんだかあったかいの。
それからは数少ない荷物をまとめた。
「菜乃葉〜。来たぞ〜」
「あ、伊里也だ」
私は荷物を持って伊里也のいる玄関に向かった。
あれ?
ジャックと何か話してる。
「どうしたの?」
「なんでもない」
ジャックはおばさん達のところに行った。
少し照れ屋だから顔が赤くなってる。
ジャックは私達の1004歳くらい下だ。
「それじゃあ、行くね。半年間ありがとう、おばさん、おじさん、ジャック」
おばさんは私を涙ぐみながら抱きしめた。
「しっかりね」
「分かってるよ」
その声に私も涙が出そうになった。
ジャックを見ると、ちょっと目を赤くしながら私を見ていた。
「元気でな。ナノハ!」
「うん!」
おばさんは私から離れて、おじさんの方を見た。
あまり話すことのなかったおじさん。
彼もまた涙ぐんでいた。
『大っきなったな。菜乃葉お嬢様、伊里也の坊主』
え?
日本語……?
しかも大阪弁。
――初めまして、今日からお嬢様の運転手を務めます、柏田智樹っちゅうもんや。よろしゅうおたのもうします。
私は伊里也を見た。
私達の周りにいた大阪弁を喋る人は智樹さんだけだ。
伊里也もまた、それに気づいて私を見た。
「ともちん?」
「智樹さん?」
私と伊里也は一緒に言った。
智樹さんは頷いた。
「とっちん知り合いだったの?」
「あぁ、遠い遠い昔に使えとった家の……。お嬢さんだ」
「そうかい」
ジャックの質問に答えた智樹さんは一筋の涙を流した。
おばさんはおそらく智樹さんの転生のことを知っていたのだろう。
だから優しく微笑んだ。
「お嬢様、あの時はお守りできず、申し訳ありまへん」
「いいんですよ、智樹さん。智樹さんは私とたくさんおしゃべりしてくださった。他の人達もそうです。みなさんがおしゃべりしてくれたから、私は厳しい教育にも耐えられた。ありがとう」
心の底からの笑顔を浮かべると、智樹さんは目を見開いた。
そして小さく「良かった」そう言った。
そして私は馬車に乗り込んだ。
お姉ちゃん達はもう王都に帰ったらしく、また伊里也と二人きりになった。
「次は魔王戦」
「は?」
「だから、次は魔王と戦うぞって言ってんの」
意味が分からない。
いきなり魔王戦とか言われても、何のことか分からない。
「魔王戦はこの世界の人がやればいいんじゃないの?」
「ば〜か」
伊里也は私の脳天をぶっ叩いた。
なんっか最近伊吹に似てきたなコイツ。
めっちゃムカつく。
私は伊里也よりも強く伊里也の頭をぶっ叩いた。
「つぅ〜」
「それで?」
「だからな、よく考えてみろよ。この世界の魔王討伐メインメンバーは二人いないんだぞ?」
「あっ」
そうだった。
魔王討伐メンバーはイーベル・アスクレイン、セシリア・フィーリア、カイル・シルコード、ディーア・ベイルド、イアン・グリーファの五人だ。
そして、ユリィが生きていれば六人。
そのうち二人がかける。
魔法の構成を秒で組み替えられる賢者、その魔法の威力を増幅させる精霊の愛子、魔王の体を切るだけの騎士。
駄目だ、勝ち目ない。
「原因はなんだろうね〜?」
「なんだろうな〜。どっかの誰かが原作をぶっ壊したからじゃなぁ〜い?」
こういうときはあれだ。
あっちの世界の過去でアエテルナが言ってたあれを試すんだ。
――お嬢様、いいですか?めっちゃムカつくやつがいたら、利き手の親指を立てて、利き手じゃない方の首元まで持っていきます。そして、勢いよく利き手の方向に横向きに移動させます。そしてそのまま手のひらを伝えたい相手の方に向けて親指を下に向けて振り下ろします。これを世間では「go to hell(地獄に落ちろ)」といいます。
私は早速やってみた。
伊里也は青い顔をして私の肩を揺さぶった。
まるで、「そんな子に育てた覚えはないわ!」と言わんばかりの。
「誰に教わった?」
「……伊吹です」
「シメる」
よし、完璧。
その後、寮に戻った伊里也が伊吹をボコボコにするのはまた別の話。




