第二十九話 固く閉ざした心
「お前が戦争を起こしたことなら、知ってる」
「なら!」
なら呆れてよ。
冷たい視線で私を突き放してよ。
贖罪なんて必要ない。
だから、こんな最低で面倒くさい女を嫌いになってよ。
「なら嫌いになってよ……」
一人の方が気楽だった。
前世ではずっと煙たがられて、幸せにすらなれなかった。
道具としか思われなくて、愛情なんて一切もらえなくて、一緒にいたい人とも引き離されて、私の元には何もなくなった。
だから一人の方が気楽で、失うものもなかった。
だから楽だった。
「……お前は俺達に心を開いているように見えて心を閉ざしてる」
「……そ、そんな事……」
そんな事ない。
私はみんなを信頼して、ちゃんと心を開いている。
何でそんな事言うの?
私はちゃんと……。
ちゃんと……。
「本当にそう思うの?」
「え?」
誰の声?
私は周りを見た。
その瞬間、あたりは真っ暗になった。
既視感あるな、この感じ。
案の定、声の主は私だった。
なんだか私の目線が低いような。
私は私を見下ろして言った。
「心の中でちょっと疑ったりしてたんじゃないの?」
「……」
「私は未来を信じたよ。あなたが信じられるようにしてくれたんだ」
私は私の右頬に触れた。
――菜乃葉、痛かったわね。でもね、お父さんはあなたのために……。
私はその手を振り払った。
呼吸が乱れる。
息が……。
苦しい……。
「……試したりしてごめん。今、あなたは私の手を振り払った。よく考えてみて?あなたは今まで、差し出された手をどうしてきた?」
――私にこの手を取る資格はない。
そうか。
私は自分が思っているよりも人を信じてなかったんだ。
振り払っていたんだ。
私は私の手を取った。
「間違えたのはあなた。でも、間違えた分だけ成長するのはあなた。人を信じろって私に言ったあなたはちゃんと人を信じてなかった。変われてなかったのは私もあなたも一緒。そりゃそうだよね。どっちも山里菜乃葉だもん。愛をもらわずに、自分を見失って育ったただの人形だもんね」
「……」
人形、か。
確かにその言い方は正しいかも。
親の言うことを素直に聞いて、都合のいいように動く人形。
操り人形。
「でも、今のあなたはどう?操られてないでしょう?自分の意思で動いて間違えてるんでしょう?あなたは人形じゃない。自分の意思で動ける人間でしょう?」
「でも、やっぱり私も怖い。私は人に心を開くのが怖い」
「人を信じていても、心を開くのは難しい。だって忘れてしまったから。私達は心を開く方法を、人を信じる方法を」
忘れたからと言って、そのまま生きていくことは難しい。
どれだけ弁解しようと、いつかバレてしまう。
恐れることは悪いことではない。
それを克服しないと成長なんかできっこない。
分かってるんだ。
分かってるのに、いざ心を開こうと思うとビクともしない。
みんなは優しい。
だからといってその優しさに甘えてちゃダメなんだ。
「開けられないなら、頑張ってこじ開けよう。私達を信じてくれたみんなのことを思い出して、力一杯に」
私達の横に、大量の鎖で開かないようにされた大きな扉が現れた。
私は私を見た。
私は私に微笑んだ。
「誰にだって怖いことはある、不慣れなことはある。それを克服するために仲間がいるんだ。自分一人ではどうもできないことでも、仲間がいれば協力できる」
「……」
「出会えたんでしょ?信用できる人に。なら、あとは心を開くだけ。簡単だ」
「ここは私の心の中だからかな」
私がそう呟くと、私は首を傾げた。
いきなり言われても意味が分からないよね。
前世は笑うこともなければ、泣くこともなかった。
笑い方は忘れてて、涙は枯れてた。
だから、感情を表に出す術がなかった。
でも今、私達は表情を表に出せてる。
前世の山里菜乃葉としての姿で。
「ここでは、私達は泣けるし笑えるんだ……。自由なんだ……」
「ここだけじゃないよ。あなたがこれから戻る伊里也達のところでも感情を出せる」
とっくの昔に、私は自由になってたんだ。
私は鎖に触れた。
過去に囚われて何もしなかったのは私。
壁を作っていたのは私。
心に閉じこもって成長できなかった私に、みんながいろんなことを教えてくれたから。
みんなが私に信頼できる人が現れると教えてくれたんだ。
今の私がいるのは、みんなが私に感情や愛情をくれたからだったんだ。
出会いや別れが多かった山里菜乃葉の人生。
出会いの分だけ私は成長できてたんだ。
それを出すことができなかっただけで、私は成長できてたんだ。
出会いと別れの分だけ人はたくさんの感情や愛情をもらう。
そして成長する。
私達はそうして大人になっていく。
心を閉ざせば成長なんかできなかったんだ。
なろう、大人に。
鎖は光を放って砕け散った。
私は斜め後ろにいる私を見た。
「ほらね、簡単だ。心と向き合えば、過去を振り払えば、あなたは大人になれる。幼かったのは私も同じだよ」
そういえば、私の目線が高くなった気がする。
「おめでとう、菜乃葉。あなたはもう、ちゃんとした大人だ」
私達はお互いに微笑みあった。
目に少しだけ涙をためて。
みなさんこんにちは春咲菜花です!もう二九話ですか!?書いてるときに話数見てビビり散らかしましたよ。さて、今回は菜乃葉が心を開く(物理)シーンを書きました!いやぁ〜、ロリ菜乃葉がまたしても登場ですよ〜。私、また登場させるとは思ってませんでした〜。おい作者って感じですよね?ごめんなさい、私後先考えずに書くタイプなんです(笑)それではみなさん、また次回お会いしましょう!




