第二十七話 夜の散歩
ローブの人達はフードを取った。
黒髪にスミレ色の瞳。
綺麗。
「帰るぞ、菜乃葉」
「や……。やだ……!」
昨日ぶつかったであろう人は、私の手を強く握って出入り口まで歩き出した。
抵抗しようにも抵抗できない。
「待ってくれ……!レリアは指名手配されるような事をする子じゃない……!レリアは……。レリアは戦争に巻き込まれた子なんだ……」
おばさんは開放された。
指名手配?
私が……?
立ち上がったおばさんは私に目を合わせない。
私の手を握っていた人は立ち止まって言った。
「なにか勘違いをしないないか?指名手配は罪人にしか使われないわけじゃない。我々は彼女の保護者だ」
「保護者?嫌がってるじゃないか」
「……」
黒髪の人は私を見た。
「菜乃葉、帰りたくないのか?」
「あなた達……。知らない……」
「……え?」
「見ての通り、この子は記憶喪失なんだ。戦争に巻き込まれた影響か、何かは分からないけどね」
おばさんは丁寧に私の状況を説明してくれた。
「お前は菜乃葉という名前だ。俺はイアン。覚えていないのか?」
私は頷いた。
見覚えもないし知らない。
イアンという人は、どうして私を切なそうな目で見るんだろう。
「えっと……。イアン……。様……?」
「イアンでいい」
「あなた達はどうしてここに来たの?」
「お前を探していた。一年半前からずっと」
一年半前?
でも私がここに来たのは一年前。
なら、半年は?
ここに来る前の半年間、私は何をしていたんだろう。
「なら人違いじゃない?」
「いいや。お前は俺達が探していた人。菜乃葉だ」
「分からない。私がここに来たのは一年前だよ?その半年間、私はどこにいたっていうの?」
「おそらく戦場にいたんだろう」
戦場……?
――お前さんは戦争に巻き込まれたんだろう。
半年も……?
――私が悪者になれば、誰も悪者にならない。
悪役?
何の話?
おばさんは私のもとに来て頭を撫でた。
「いきなり思い出させようとしないでおくれ。宿は取ってやる。レリアを連れていきたいなら、レリアの記憶を取り戻してみな」
「おばさん……」
「安心しな。無理に追い出したりはしないさ」
おばさんは私にウインクした。
そして、イアン達は宿に行った。
◇◆◇
「レリア、慌てなくてもいいんだよ」
おばさんが言った。
慌てなくてもいい……。
その気持ちは嬉しい。
でも、本当にゆっくりしてていいのかな。
私はご飯を食べ終わって、部屋に行った。
私は部屋のある二階から街の景色を見ていた。
ところどころが明るい。
あれは宿だろう。
――覚えてないのか?
うん、覚えてない。
覚えてないよ。
――コツン。
窓に何かが当たった。
窓を開けると、外にいたのはイアンだった。
「菜乃葉、この後ちょっと話さないか?」
「え……?」
いいのかな。
勝手に抜けて。
悩んでいたら、部屋のドアが開いておばさんが入って来た。
私の元へ来て、イアンを一瞥して私に微笑んだ。
「行って来な」
「……うん」
行っちゃダメな気がする。
でも、話さないと何も変わらない。
私は一階に降りて、イアンの元へ行った。
そこには馬の横に立つイアンの姿があった。
「わぁ、すごい。馬に乗るの初めて」
「そうか。国境まで連れて行ってくれるリーヤだ」
「よろしくね、リーヤ」
私がそう言いながら頭を撫でると、リーヤは嬉しそうに私の手に頭を擦り付けて来た。
可愛いなぁ。
私は先に乗ったイアンとリーヤの間に挟まれるように乗せられた。
なんか恥ずかしいな。
そして、ゆっくりとリーヤが動き始めた。
「ねぇ、イアン。あなたはどうして私に執着するの?あなた程の美形なら、私よりいい人もいるでしょ?」
「……俺は菜乃葉以外はいらないんだ。どんなに美人でも、どんなに性格が良くても、お前に叶う人はいない」
サラッと照れることを言ってくるな。
少しだけ顔が熱くなった。
「……昔」
「ん?」
「……遠い昔、救われたんだ。お前に」
「救う?感謝を伝えるためってこと?」
私はなんだかそんなの嫌だなと思ってイアンを見た。
イアンは真っ直ぐに私を見つめていた。
そして首を振った。
「救われたことがきっかけでお前が好きだと気づいた。俺は救われるずっと前から、お前のことが好きだったんだ。でも、菜乃葉はすごく遠い人だったから」
昔の私ってどんなんだったんだろう。
人を救う善人?
いや、偽善者かもしれない。
「疑わないの?」
「何を?」
「私のその行動が偽善や嘘かもって」
私が恐る恐る聞くと、イアンはフッと笑って私の頭を乱暴に撫でた。
「偽善と善って何が違うんだ?偽善でも、俺が菜乃葉に救われたのは事実だし、変わらない。それに……」
イアンは私を愛おしいものを見るような目で見つめた。
私を見つめながら馬を止めた。
国境に着いたんだ。
「それに、俺はお前のあの笑顔が嘘だとは思えない」
「……」
そっか。
私は周りを見渡した。
ここが私が倒れていた場所。
私が戦争に巻き込まれた場所。
……本当に?
本当に巻き込まれたのかな。
なんだか違う気がする。
私は……。
ここに何をしに来たの?




