第二十六話 記憶のない少女
――一年後
「レリア〜。レリア〜」
「何よジャック。ここにいるでしょう?」
「母ちゃんがレリアに頼み事があるってさ。早く行けよ」
「分かった。この子のブラッシング終わったらね」
私はアスクレイン王国のすごく端の方にある小さな村で生活している。
私はなぜか血だらけで、メイラール国とアスクレイン王国の境界線である草原に倒れていたらしい。
それをここの夫婦が助けてくれた。
名前も家も覚えてない。
だから、おばさんにレリアという名前を付けてもらった。
その上、こんなに楽しいところに住ませてもらってる。
いつか恩返しがしたいな。
私の特徴といえば、白髮に澄んだ青色の瞳くらいだ。
「レリア!やっと来たのかい!早く座んな!新作のお菓子ができたんだよ!」
「またぁ〜?おばさんは私を太らせて食べるつもりなんだ……!」
私はわざとらしく言った。
もちろん冗談だ。
「馬鹿言ってんじゃないよ」
おばさんはおぼんで私の頭を叩いた。
私は大人しく椅子に座って、試食品が運ばれてくるのを待った。
おばさんはこの村のカフェを経営している。
私はその味見役だ。
「はい、どうぞ」
「わぁ……!可愛いね!食べるのがもったいない!」
雪うさぎのような形をしたケーキだ。
耳のところには食用の葉っぱが刺さってて、目はチョコチップだ。
本当に食べるのがもったいない。
そう思いつつも私は頭にフォークを突き刺して食べた。
「……遠慮がないねぇ」
「美味しぃぃぃぃいい!」
「そうかいそうかい。良かった」
「これ売れるよ!若者にも人気が出そうなデザインだし!」
おばさんは嬉しそうに微笑んだ。
私は美味しいケーキを頬張った。
あっという間になくなったケーキの行方は不明である。
「ごちそうさまでした!」
「はい、お粗末様でした」
「本当に美味しかったよ!」
私は満面の笑みで言った。
おばさんは照れたように目を逸らした。
そしてまた私に視線を戻した。
「どうしたの?」
「髪の毛が伸びたねぇ」
「ああ、確かに。おばさん果物ナイフ貸して」
「……何をするんだい?」
おばさんは眉をひそめながら果物ナイフを持ってきた。
私は果物ナイフを受け取って前髪を掴んだ。
「何してんだい!」
げんこつが私の頭に降ってきた。
超痛い。
「だってだって!ジャックが『髪は果物ナイフで切るべし』って言ってたもん!」
「あの馬鹿!最近なんか髪の毛の伸び方がキモいと思ったら……!どこにいるんだい?」
「あっちです」
私は素直にジャックのいる場所を指さした。
何をするんだろう。
「殴ってくる」
「待って待って」
私は急いでおばさんを止めた。
まさか殴りに行くとは思ってなかった。
「レリア、止めるな。私はレリアに変なことを教えたジャックが許せない」
「おばさん、その気持は嬉しいけどジャックが実際やったかどうかなんて分からないよ?ほら、だただた髪の毛の伸び方がキモいだけかもしれないし……」
「だったらなおさら殴らないとね。知ってたかい?毛根に刺激を与えると生き返るらしいよ」
「おばさん、それ多分意味ない」
おばさんは私を振り払って走って行ってしまった。
私は家の中に一人ぽつんと残された。
追いかけるか。
私は椅子にかかっている服を見た。
「ちょっとだしいらないか」
私は家を出た。
「う〜ん。どこ言ったんだろう」
しばらく歩いてるけどいないなぁ。
あの二人は身体能力がバケモノだからすぐ見失っちゃうんだよね。
私は考えながら歩いていた。
だから人が目の前にいることに気づかなかった。
私は真正面から人にぶつかってしまった。
私はしりもちをついた。
「いったた……。すみません、前を見ていなくて……」
前を見ると、ローブを被った人達数人がいた。
ローブのフードを深く被ったその人達の顔は見えない。
私は一番体の大きい人にぶつかってしまったらしい。
「こちらこそすみません。前を見ていなかったもので……。なの……は……?」
「え?」
ローブを被った人達は私をまじまじと見つめ始めた。
何この人達……!
怖い……!
あれ?
なんだろう。
この人達の後ろですごい砂埃が……。
「うちの娘がぁ!申し訳ありませんでしたぁぁぁあああああ!」
その砂埃はおばさんのものだった。
おばさんは私を担ぎ上げて、すごい勢いで走り出した。
「おばさん」
「何だい?」
「いいの?あれ」
「いいんだよ」
何だったんだろう。
ナノハ?
なんだか聞いたことがある声だったな。
それに、なんだか懐かしいような……。
人違いだよね……?
「菜乃葉……。やっと見つけた……」
◇◆◇
「何でフードを被らなかったんだい?」
「ごめんなさい。少しならいいかと思って……」
「済んでしまったものはもういいよ。今日は部屋で大人しくしてな」
私は家でおばさんに話を聞かれていた。
おばさんはほんの少し怒っている。
でも、決してガチギレはしない。
私を心配してくれるからだ。
おばさんは座った私を立ったまま抱きしめた。
「怖かったろうに」
すごく温かい。
怖かった。
体の大きい人達にじっと見られて怖くないわけない。
私は二階にある部屋に行った。
どうしてフードを被らないといけないのか。
私はそれが気になってしかたない。
私はベッドに寝転がった。
私は誰なんだろう。
どこから来たんだろう。
半年ここにいるけど記憶は戻らない。
――チリンチリン。
店のベルが鳴った。
誰か来たのかな。
――ドン!ガシャン!
「……え?」
何……?
何なの……?
「――!」
「――。――!」
「――!―――」
誰かの話し声が聞こえる。
何も聞き取れないけど、何かを話してる。
私は急いで店の方に行った。
そして、勢いよくドアを開けた。
「……っ!レリア!部屋にいなさいと言っただろう!」
「おばさん!」
おばさんは床に押さえつけられていた。
さっきのローブの人達!
私は急いで駆け寄った。
しかし、おばさんを押さえつけている人と同じローブをまとった人が私の腕を引っ張った。
そのまま私はその人に抱きしめられた。
「……え?」
「菜乃葉、捕まえた」
誰……?




