第二十三話 セシリアの本音
「何でここにいるのよ。山里菜乃葉。殺されるリスクを考えなかったの?」
セシリアは私がここに頻繁に来ることを予想していなかったらしい。
だからこそ不愉快なのだろう。
自分の思い通りにならないから。
「考えたから今ここにいるんでしょう?……あなた、私の知り合いだったの?」
「……そうね。高校の時、同じクラスだった」
高校の時に同じクラスで、私のことを目の敵にしてた人。
しかも女子。
ならば話は早い。
「あなたに協力してほしいの。松谷加那さん」
「察しがいい女ね。で、協力?嫌に決まっているでしょう」
彼女が嫌がることは予想できてた。
だから本題はこれじゃない。
「繰り返しの記憶がある?」
「いきなり何よ」
松谷さんに確認したいことがある。
ユリィと人生を同様に繰り返しているのか。
そして、その記憶があるのか。
「記憶はあるわ」
「あなたはユリィやアルト、他の人達が死ぬのを黙ってみていたの?」
「言ったでしょう?誰が死のうと関係ないって。この世界は私のものなんだから。私が主人公なんだから」
「ふざけてる……」
「は?」
人が死んでも関係ない?
未来を知っていながら……!
変えられた未来を変えようともせずに自分のことばかり……!
「人が死んでも関係ない?自分が主人公だから?ふざけないで!この世界の人達はちゃんと意思を!人生を持ってる!あなただけが主人公なわけじゃない!みんなが主人公なの!そんな人たちをあなたは自分のくだらないエゴのために殺したの!アルトが何度痛い思いをしたと思う?ユリィが何度苦しい思いをしたと思う?オーリスが何度あなたのために人を殺したと思ってるの?イアンが……!イアンが何度あなたのために死んだと思ってるの?」
松谷さんはただただ不機嫌そうな顔をしているだけだった。
この物語のメインキャラは約四人死ぬ。
それを止めなかったこの人は私は許せない。
一度なら許せる。
でも、何度も何度も彼らを殺し、傷つけたことを許せないんだ。
矛盾してるよね。
そんな人に協力を頼むなんて。
でも、この人ならできると思ったから。
「くだらない……?あんたからしたらくだらないかもしれない……。でも……。それでも……。私は愛が欲しかったの……!望めば湧いて出てくるあんたと違ってね!」
そっか。
松谷さんも同じ境遇だったんだ。
愛が欲しい。
どれだけ願っても手に入らない。
社長令嬢なんてそんなもんだ。
ただの道具にしか見られず、努力よりも評価を見られる。
いい点数を取っても褒められない。
それどころか怒鳴られる。
そんな場所に生まれたんだ。
同じ穴のムジナだったんだ。
そして、彼女は私が甘やかされて育ったと思ってる。
「君と私は似てる」
「……っ!どこが……」
「私もね、愛をもらったことがない。愛ってね君が言うように望んだらもらえるものじゃない。たとえもらえたとしてもそれは偽り。何の意味もないものだよ。あなたはそれで満足できるの?心の底からじゃない”好き”や”愛してる”が欲しいの?」
私はいらない。
上辺だけのものなんて。
それでもほしいと思うのは松谷さんの自由だけど。
「そんな言い方あんまりよ……」
「じゃあ聞くけど、あなたがしてきた事もあんまりだと思わない?」
「……」
松谷さんは黙り込んだ。
分かるよ。
愛されたいゆえに頑張って、空回りして、周りが見えなくなる。
――要らない……!!こんなもの……!!あってもなくても……何も変わらないじゃない……!!
私もそうだった。
でも、だからといって何をしても許されるわけじゃない。
分かるからと言って許せるわけじゃない。
松谷さんがやったことは許されないし許せない。
「……間違ったことをした自覚はあった。でも、人生を繰り返すたび、人から愛されるたび、自分が特別だと思った」
「そうだね。私もセシリアに転生したら、きっとそう思っただろうね。死ぬ人を助けられたかなんて分からない。でも、助けてもらえる方が嬉しかった」
セシリアは松谷さんは私を見た。
私はまっすぐに彼女を見つめた。
「あんたのことは嫌い。死んで欲しい。でも、今は殺したいほどじゃない」
「松谷さん!」
「勘違いしないで。私はあんたの敵じゃなくなっただけ。味方にはならない」
それでもいい。
友達になりたいなんて微塵も思ってない。
私は同類の君を利用する。
ユリィも、アルトも、オーリスも、イアンも死なせない。
誰も死なない世界を実現する。
「……この紙。あなたも見たでしょう?」
私はアルトの曽祖父が残した手紙を手に取って、松谷さんに見せた。
「内容が原作とは変わってるやつね」
「アルトの曽祖父はもう亡くなってる。でも、彼は転生者だった。それだけは分かる」
「そうね。その世界に転生者なんて単語ないものね」
「『この字を読める君は転生者だろう。私もそうだ。この部屋に入れるということはあの小説を知っているからだろう。私はレオンとこの鍵は誰にも渡さないと約束したからな。君がどこの誰なのか私は知らない。この世界で人がたくさん死ぬ事は君も知っているだろう。私はそれを止めたい。私と同じ転生者である君にしか頼めない。しかし、人の死の運命をなくすためには、大きな運命を変えなければならない。この国が代表となるあの小説の運命を変えるには、国がかかわる程のことをしなければならない。一番早いのはアスクレイン王国を滅ぼす事。しかし私は親友の国を滅ぼしたくない。それに、この時代に殺されたり自害する者はいない。自分勝手かもしれない。これを読んでいる君が、人の死ぬ時代にいて、行動してくれることを願っている』アイベルム・メイラール」
レオンというのはイーベルの曽祖父だ。
そして、アイベルムというのはアルトの曽祖父だ。
ユリィを救うためには国が関わる程の大きな運命を捻じ曲げないといけない。
つまりは現国王やギディオンの運命を改変するか、革命やクーデターを起こすしかない。
しかし、その後の展開が分からないのが難点だ。
私達は未来を知っているから、その通りに動くか、運命の改変を行えばいい。
もちろん改変にはリスクを伴う。
それは誰が死ぬか、誰が生きるかなどの未来が一切分からなくなることだ。
当たり前だけどね。
「それで?あんたはこれに私を巻き込みたいってこと?」
「そう。滅ぼすような事はしない。国が絡むようなことをすればいいの」
松谷さんは怪訝な顔をした。
ハッキリ目的を言わない私に対して、少しイラ立っているんだろう。
「つまり何がしたいの?」
「他国との戦争を起こす」
「……は?」




