第二十一話 厨房の心霊現象
「国王……。陛下……」
「父上!この無礼者達を投獄してください!この者達は私に不敬を働きました!」
国王陛下は怖い顔をして私達を見た。
流石に国王陛下まで頭おかしいわけないよね?
「捕縛せよ!」
頭おかしかった。
会場の出入り口から衛兵が来た。
捕まるのか。
覚悟を決めたのに、衛兵は私達の横を通り過ぎて行った。
そして……。
「離せ無礼者!」
「離しなさい!私を誰だと思っているの!!」
「国王陛下のご命令ゆえ、それは出来ません」
「父上!どういうことですか!」
イーベルは国王を見て言った。
この状況には誰もが困惑しているだろう。
こんなの想定外だ。
「とある平民の少年が私のところに来てな。その勇気に関心を持ち話を聞いた。内容がひどいものだったのでな、私はここに来た」
「答えになっていません……!」
「お前が不貞を働いているという話だ」
なぜその話をただの平民の少年が?
それに、国王が平民の言うことを信じるなど……。
「……っ!へ、平民の言うことを信じるのですか!?」
「その者は魔力を持っていた。彼はその魔力を使って嘘をつけなくなる魔法を自分自身にかけた。だから信じることができた。話はもういいな?その者達を投獄せよ」
「父上!!」
国王は階段から降りてきて、イーベルの顔に触れた。
そして、さっきよりも厳しい顔をしてイーベルの顔の前に手のひらを向けた。
「今この時をもって、イーベル・アスクレインを勘当する。そして、王家の印であるその瞳も剥奪する」
国王がそう言った瞬間、イーベルが強い光に包まれた。
失明しそうになる光から、目を守り、光が収まってから目を開けた。
イーベルの瞳は黒色に変化していた。
こんな事ができるのか。
「そんな……!罪人の印である黒色の瞳だなんて……」
イーベルは絶望した顔をしている。
そして……。
「セシリアが……。いない……」
その光で周りが見えなくなった拍子に、セシリア・フィーリアはその場から逃走し、行方不明になった。
国は大々的に指名手配を出し、賞金をかけた。
しかし、それから半年経っても、セシリアは見つけられることがなかった。
イーベルは平民となり、二度と学園に来ることはなかった。
◇◆◇
「セシリアはどこに行ったのかなぁ」
「考えても仕方ないわ。平和になったのだし、気にしなくてもいいんじゃない?」
「そうだね。よし、食堂に行くぞー」
「はいはい」
私はお姉ちゃんと食堂に行くことにした。
にしても、あれから半年かぁ。
早いな。
「あー、オーリス、ディーア!」
私はオーリスと藤井くんを見つけたから、二人に駆け寄った。
二人は私に気づいてこちらを見た。
このまま体当たりしてやろうかな。
「あっ」
私の足がもつれた。
あー、倒れる。
私は覚悟を決めて目をしっかり閉じた。
「よっと」
あれ?
痛くない?
私は目を開けた。
「危ないですよ、お嬢さん」
「伊里也!何でその姿で?」
「俺はまだ菜乃葉に正体を明かさない主義なので」
よく分からない。
どうして伊里也は私に正体を明かしてくれないんだろう。
お姉ちゃんも伊吹もオーリスもユリィも藤井くんも知ってるって言ってるのに。
「さぁて、学食を食べるぞぉ!」
「ないってどいうことだよ!!」
大きな声が注文口から聞こえてきた。
魔法学園は無料でお昼が食べれる。
注文口で注文をしたらそれが出てくる。
寮生は朝昼晩と学食で食べることができる。
便利だ。
ていうか、騒いでる人達って同じクラスの人じゃん。
やだわぁ、同じAクラスにこんな横暴な人がいるなんて。
「どうかしたの?」
「ナノハか。それが、今日は学食が出せないと言ってきたんだ」
「え?」
この人はいつも学食に一番に来る。
私はいつも最後らへんに来るから物がないのは仕方ないけど……。
今日は早めだし、出せないなんてことは……。
「何があったんですか?」
私は中にいる人に聞いた。
みんな何だか疲れた顔をしていた。
「実は、材料が全てなくなってしまったのです。それだけじゃなくて作り置きしていたものまで……」
「半年くらい前からだったんだけどなぁ……。ちょっとずつなくなる量が食えていって……」
「生徒様には申し訳ないけど、今日は何も出せないんだ」
「それじゃあ、夕飯とかは……」
「明日には材料が入荷できるけど、今日は無理だね」
えー、じゃあ餓死して死ねってことー?
待って、今日本語おかしかったな。
明日まで何も食べないのは流石に死ぬかもなぁ。
「では、学園から出る許可を与えてはどうですか?」
「ギディオン殿下!」
その場にいる人が一斉に頭を下げた。
もちろん私も。
何で学食なんかにいるんだよ。
第一王子で王太子のギディオンが……。
「よい、ここは学園。皆平等であるべきだからな。ん?」
ギディオンは私を見た。
そして、私の前に来た。
何か粗相をしたのか?
と思ったらいきなり頭を下げられた。
「何してるんですか!?」
「半年前、愚弟の悪事を暴いてくれたこと、礼を言っていないと思ってな」
イーベルと同じように見えて、この人はちゃんとしてるな。
この世界のギディオンとは初めて会ったな。
いい人そうだな。
「いいんですよ。王家側は相応の対処をしてくださりましたし。何より私はユリィ様をお救いしたかったので」
「当のユリィは今日は欠席だそうだな」
「体調不良らしいですよ」
ユリィは今日は休み。
風邪を引いたらしい。
「ところで殿下、学園から出る許可とは……?」
「ああ、流石に二食なしはキツいだろう。ならば、今日は学園の外で食べることを許可しよう。学園長にも言っておく。それと、鍵付きの保冷道具も注文しておこう」
有能すぎてちょっと怖い。
ギディオンは伊里也を見た。
あ、まずい。
「その者は学園の者か?見たことがないが……」
「殿下、発言をお許しください」
「許そう」
「神に誓って、この者は学園の者です。わけあってナノハの前では魔法で姿を変えています」
オーリスが丁寧に説明してくれた。
いやぁ、頼もしいな。
しかも神に誓ってる。
「ほう。面白いことをしているな」
ギディオンは笑いながら言った。
器の大きな王太子だな。
これはいい国になりそうだ。
「殿下、そろそろ……」
側近の人がギディオンに言った。
この後に何かあるのだろうか。
ギディオンは後ろを向いてこちらを見た。
「それではこれで」
ギディオンは側近と共に食堂を出て行った。
その途端、みんなが大きなため息をついた。
安心したからだろう。
「結果オーライかな。学園の外で食べられるらしいし」
「そうだね。あ、ねぇ。君も一緒に食べない?」
「え?」
「ほら、ご飯ってみんなで食べた方が美味しいじゃん」
そうだよ。
一人で食べるご飯なんて、美味しくないわけじゃないけど、寂しくて何だかあんまり好きじゃない。
みんな、家にいるはずなのに一緒にご飯を食べることもなかった。
私はクラスメイトに手を差し伸べて、微笑みかけた。
「そ、そうだな。俺は平民のアルバート・オール。よろしく」
アルバートは私の手を取った。
そういえば名前聞いてなかったな。
「私は平民のナノハ・セイルナだよ」
「同じく平民のユリナ・セリーナです」
「伯爵家のディーア・ベイルドでーす」
「侯爵家のオーリス・クレイトだ」
ディーアとオーリスってそんないい家の人だったの!?
忘れてた!
ディーアは伯爵家、オーリスは侯爵家。
うっわぁ……。
無礼な態度しかしてない……。
まあ、オーリスは私が違う世界の公爵令嬢だって知ってるし無礼とかはないと思うし。
それに、藤井くんも中身は同級生だしね。
「イリヤ・ヤマモトです」
「ヤマモト?珍しいファミリーネームだな。それにイリヤって……」
「同じ名前なんですよ!」
「そっか」
いやぁ、あのイリヤとこの伊里也は違うし、何より誰だよって感じだよね。
伊里也からしたら。
やば、ややこしい。
「よっしゃ!行くぞー!」
――ガン!ガタン!
「え?」
何の音だろう。
厨房から?
私は厨房を覗き込んだ。
何やら怯えた料理人がいる。
「どうしたんですか?」
「最近心霊現象が起こるんだ……!また……!」
心霊現象?
さっきの物音のことか?
隣の教室とかじゃ……。
いや、隣に教室はない。
なら……。
――うーん。じゃあ、厨房の裏で!
「あっ。ごめん、用事ができた!ご飯はみんなで食べてて!」
「え?ちょっと菜乃葉!ご飯は!?」
お姉ちゃんが大きな声で言ってきた。
でも、急がないと。
私は急いで留学クラスに行った。




