表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せを追う悪女達  作者: 春咲菜花
第一章
5/70

第五話    また会えた人

「今日からユリィ様の家庭教師を務めさせて頂きます。グリーファ公爵の妻、イーリス・グリーファです」


昨日晩餐の時に話していた家庭教師が来た。

グリーファ家はセーリア家と同じ公爵家だ。

エメラルドグリーンの瞳に紺色の髪をした女性はイーリスというらしい。

小説内のヒーローの一人、イアン・グリーファの母親だ。

ここで交流を持っておくことで、少し断罪から遠ざかるかもしれない。


「お初にお目にかかります。セーリア家次女、ユリィ・セーリアです。イーリス様にご指導頂ける事、恐悦至極に存じます」


イーリス様は、目を見開いた。


「どうかされましたか?」

「い、いえ……。正直驚きました。過去に勉強や作法など要らないと言い、家庭教師を全員クビにしたと聞きましたので……。昨日、セーリア公爵からの申し出が来た時は耳を疑いました。礼儀もなっていないクソガ……。失礼。礼儀のなっていない方が迎えて下さるのかと思っていたので」


今クソガキって言おうとしてなかった?

そして随分毒舌だな。

かなり刺さった。


「今日は教科書を持ってきたわ」


――ドサッ、ミシッ


うおぉ……。

分厚っ。

ねぇ、待って?

今、机がミシって言った?

国語辞典くらいの分厚さの、教科書と呼ばれるものが20冊程机に置かれた。


「き、今日は顔合わせだけと聞きましたが」

「えぇ。次回持ってくるのは面倒なので、今日持ってきましたの」


正直だな。


「次回からは授業を始めます。今日はこれでお暇させて頂きますわ」


そう言ってイーリス様は馬車に乗って帰った。

この教科書の山……。

どうやって部屋に運ぼうかな。

私は教科書を持ち上げるべく、一番下の教科書を掴んだ。


「ふんぅぅぅぅぅぅ!」


品のない呻き声が出た。

教科書はびくともしない。

あの人魔法使わずにこの教科書持って来たよね?

嘘でしょ?


「あ、いた。ユリィ……」

「ふんぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!あ、殿下」

「……何をしている」


怪訝な顔でそういうイーベル様に、昨日の不機嫌な雰囲気は無い。

ちなみに私とイーベル様は婚約しているわけじゃない。

私はただの婚約者候補だ。


「教科書を部屋に持っていこうと思ったんですが……。重くて」

「……一冊ずつ運べば良くないか……?」


その手があったか。


◇◆◇


私達は一冊ずつ部屋に教科書を運んだ。

その後は、殿下との地獄のお茶会〜!

いえ〜い!

沈黙が続き、気まずくなる〜!

事はなく、なぜか以前よりも会話が弾んだ。


「あ、そうだ。殿下、教科書を運ぶのを手伝って頂きありがとうございました。とても困っていたので」


私はイーベル様に微笑みかけた。


「菜乃葉……?」


イーベル様は私の名前を呼んだ。

前世の私の名前を。


「え?何で……その名前を……」

イーベル様は立ち上がって、私の方に来た。

そして、私はイーベル様に抱きしめられた。


「やっぱり!菜乃葉だ!」


うぉぉぉぉぉい!

早いよ!

展開が早いよ!

もう一人の転生者と出会うのは、ある程度の期間をおいてからってお決まりなのにぃ。

まぁ、それはどうでもいいけど。

イーベル様が転生者なのは分かった。

中身は誰か知らないけど。


「菜乃葉?菜乃葉だよな」


おいやめろ。

この世界で日本語を話すな。

周りの人間には、何言ってるか分かんないから!

この世界に日本語は存在しない。

何でこの世界の言葉を、私が理解できているかと言うと、転生ボーナス的なアレだ。


「まず、お名前を言ってくださいませんか?」

「伊吹だよ!!佐藤伊吹だよ!!」


そう言ってイーベル様……。

いや、いっくんは胸元からトマトを出して、私に投げつけた。

私はそれを右手で受け止めて、握り潰した。

いっくんは青い顔をしながら顔を引きつらせた

私は笑顔でいっくんに言った。


「急にトマトを投げるとか……。転生しても変わらないんだから!!」

私はいっくんを蹴った。


「痛っ!!」

「何でトマトを胸元にいれてんのよ!」

「まずは謝罪を聞きたい……」

「そもそも、何で同じ世界に転生してんの?」

「まずは謝罪を……」


それにしても、いっくんにトマトを投げられたのはいつぶりだろう。

どうしていっくんが私にトマトを投げつけてきたかと言うと、前世の私がいっくんの顔面にトマトを投げつけたからである。


◇◆◇


「うわぁぁあ!蜂がいる!」

「はぁ!?ちょっと男子が騒いでんじゃないわよ!男子を代表して山田が潰しなさいよ!」

「無理だよ!てか、性別は関係ないと思うよ!?俺はジェンダー平等の社会を目指している!って事で後は強い坂本に任せる!!さらば!」

「どーいう事よ!ざけんじゃねぇ!山田てめぇ!ジェンダー平等目指してねぇじゃねぇのか!」


技術の実習で、遠くにいる班がざわざわしている中、私は安全地帯で箸で掴んだ芋虫をいっくんに押し付けていた。


「いっく〜ん。ほぉ〜ら。いもいもだよぉ〜」

「うわっ。芋虫を俺のプランターに入れるな。てか芋虫をいもいも言うな。キモい」

「キモいとは何だね。可愛らしい名前でしょ?あ、ミミズ居るじゃん。も〜らい」

「やるよ。どうせ害しかないんだろ?」

「え?いっくん知らないの?ミミズのフンって栄養たっぷりで、プランターの中に野放しにしておくと野菜がすっごく立派になるんだよ」

「もう育ってるから意味なくね?」

「ノリが悪いなぁ」


いっくんは私から離れて行かない、唯一の友達だ。


「あっちの班、すごい騒がしいな」

「空飛ぶタイヤでも出たんじゃない?」

「何でだよ」

「都会だしそれくらい出るでしょ?」


私は収穫中のトマトを食べながら言った。


「出ねぇよ。おい!今食べるな!」


意外と甘くて美味しい。

あ、でもちょっと熟れ過ぎてたかも。


「おい佐藤!蜂がそっち飛んでったぞ!」

「佐藤くん逃げないと刺されるよ!」


あからさまに私の名前は呼ばない。

確か山田くんと坂本さんだったかな。

何もしてないんだけどなぁ……。


「おい菜乃葉!逃げる……。ぞ……」

私は咄嗟にトマトを投げた。


――グシャ。


そんな音を立てて、いっくんの顔面にトマトがぶつかって弾けた。

いや、潰れた。

トマトを投げた瞬間から、蜂の羽音が聞こえなくなった。

どうやら一緒に潰れたようだ。


「あ、いっくんごめん」

「何すんだよっ!」


◇◆◇


その後トマト祭りが開催されたからである。

そして、クラス全員トマトまみれになって先生にこっぴどく叱られたのであった。

ちなみに前世のいっくんもしつこく私にトマトを投げつけてきた。


「ところで、この世界の事知ってたの?この世界のこと初見で転生したんだったら、ユリィの名前も分からないはずだけど……」

「順を追って説明する。実は俺あの時捕まった。野々原琴葉には滅茶怒鳴られたよ。そこでお前がイラストを書いていた小説を貰った」

「あー、なるほど。知ってる話に転生したから、キャラの名前も知ってたんだね」


琴葉がいっくんに、私が手掛けた小説を渡してくれたんだ。

でも……。


「琴葉は怒ってたんだ……」

「俺に対しても、お前に対しても、めっちゃくちゃキレてた」

「あ〜」


琴葉が怒った理由は明確だ。

私が琴葉を、身を挺して守ったからだ。

親友を守って何が悪い。


「俺の記憶が戻ったのは、昨日だ。帰ってから、頭が割れるかと思う程の頭痛に襲われた」

「私も昨日だよ。異世界転生系あるあるの高熱で記憶を取り戻した」

「……ベタだな」

「ベタだね。ていうか、いっくんは何でユリィが私だって分かったの?」


私はさっきから疑問に感じていたことを、いっくんに聞いた。

外見も全く違うし、分かるはず無いと思うんだけど。


「お前、前世で俺に『自由に生きた人の人生って輝いてると思うんだ。決められた道を歩くなんて、人生とは言わないと思う。自分が決めた道を歩くからこそ、人生って言えると思うんだ』って言ってただろ?って、何で引いてんだよ」

「いや、そんな事も言った気がするんだけどさ。何で一言一句覚えてるんだろうって思うと……気持ち悪……」

「言葉を選べ!傷つくぞ!」


本当にお父様もいっくんも突っ込み上手いよね。

それにしても、どうして私にとっての人生の価値観の話を覚えてくれたのだろうか……。

どうでもいいか。


「で、いっくん。今日は何の用?」

「兄さんがお前に会いたいって」


イーベル・アスクレインの兄はギディオン・アスクレインだっけ?


「兄貴も転生者だ」


うん、多いね。

転生者が多いね。


「あれ?お兄さんって……」

「話せたんだよ。お前が言ったように、兄貴は目を覚ました」

「ところで、お兄さんは?」

「明日城でお茶会をする。その時に兄貴と会ってもらう」


いっくんは机の上に、お茶会の招待状をおいた。


「え、面倒くさ」


お茶会は基本的に招待状がないと参加することは不可能だ。

ちなみに招待状を渡された者は、必ずパーティなどに参加しなければならない。

欠席することは基本的に、それ相応の理由がないとまず無理だ。

例え社交界デビューしていなくても。


「それ、本当に行かないと駄目?」

「あぁ」

「えー」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ