第二十話 いつか出会える人
目を開けると、真っ暗闇だった。
なんかこの間もそんなことあったなぁ。
「飛び降りろ飛び降りろ」
「嫌な声」
「ふーん、それだけで済ませられるんだ」
そんな声が聞こえて、私は横を見た。
出た。
幼い私だ。
「嫌な景色だね」
「平気なの?」
「何が?」
「こんな景色を見せられて」
平気か平気じゃないかって聞かれたら、もちろん平気じゃない。
ただ強がってるだけだ。
だって、幼い私は何だか辛そうなんだもん。
「どうして君はここにいるの?」
「……」
幼い私は黙り込んだ。
分からないのか。
それとも知られたくないのか。
「ねぇ」
「ん?」
「何でこの後、あなたは生き続けたの?」
この後?
あぁ、飛び降りた後か。
「そりゃあ、死にたいって何度も思ったよ。でも……。あんな奴らの言いなりは何だか嫌だなって思ったから。かな?」
「ふーん」
幼い私は興味なさそうに答えた。
何で聞いたんだ?
「私、精神崩壊する何かをぶっかけられてここにいるんだけど、精神崩壊する感じないね」
「そりゃそうだ。私が止めてるもん」
「え?」
「私が止めてなかったら、きっと今頃崩壊してたよ」
なるほど。
嫌な人かと思ったら、案外いい人だった。
……私だけどね。
「帰れるの?」
「帰れるよ。でもね、聞きたいんだ。あの時、私に何を言おうとしたのか」
「あの時?」
「伝えに来るって」
あー、あれか。
確かに言ったな。
「冷静になればあなたの言っていることも正しいって思ったの」
「そっか。……私が言いたかったのはね」
私は幼い私の前に行って、膝をついて両肩を触った。
「裏切られることは決して悪いことではないの。裏切られることを恐れていたら、誰とも話せなくなる。裏切られないと分からない痛みがある。その痛みを持ち続けて私達は生きていく。そのうち出会える信頼できる人を待ちながらね」
「そんな人と出会えるの?」
幼い私は首を傾げた。
分からないんだろう。
今まで出会えなかったから。
「うん。私は出会えたよ。幼稚だけど信頼のできる伊吹、沸点が低いけど他人のために怒れる琴葉、自分勝手で強引だけど人のために何かをできる柚木、間違いは沢山したけど私と向き合ってくれたユリィ、最初は険悪な雰囲気だったけど私を信じて助けてくれたカイルとディーア、警戒心が強くて他人に興味がないけどなんだかんだ優しいオーリス、前世では関わりがなかったけど仲良くなれた藤井くん、そして……。口は悪いけど誰より私を信用して愛してくれたイアン。みんなに出会えた」
「そっか。いつか会えるんだ。じゃあ、あなたのその言葉を信じる」
幼い私がそう言うと、私の体は光をまとい始めた。
時間か。
手のひらを見ると、どんどん形がなくなっていく。
その光は宙に待っている。
「菜乃葉」
私は私を見た。
私は目を見張った。
幼い私は私と同じ大きさになっていた。
幼かった私は微笑んだ。
「いい人に出会えたんだね」
「うん。とってもいい人にね」
「そっか。ありがとう、心の中に閉じこもっていた私にそれを教えてくれて」
「どういたしまして」
「どんな事があっても幸せになってね。菜乃葉」
「分かったよ。菜乃葉」
◇◆◇
私は目を開けた。
天井で光るシャンデリアが眩しい。
「菜乃葉!!」
「みんな……。おはよう」
「良かった……」
みんなは目に涙をためていた。
私は体を起こした。
「なっ……。何でまだ正気なのよ……!」
「生憎、私の精神はあなた達みたいな人のせいで鍛えられたものでね」
「この……!この死にぞこないがぁぁぁぁああ!」
セシリアが私にまた何かをかけようとしてきた。
伊里也がそれを止めた。
「二度も同じ手に乗るかよ」
私はなんとなく周りを見た。
セシリアの本性を受け入れられない人が多いな。
「聖女様があんな言葉を……」
「それに、殿下まで……」
現実を受け入れられないその気持ちは分かる。
けど、あなた達が見ていたのは表側だけ。
裏側を知ろうとしなかったあなた達の落ち度だよ。
「イーベル」
え……?
私は顔を上げた。
その場にいる全員が絶句した。
ここに……。
いるはずがない……。
階段の上にいる人物は誰もが知るこの国最高位の人物。
現国王陛下、エドウィン・アスクレイン陛下が。




