第十九話 忘れた記憶
「ユリィは今日欠席すると聞いていた。だからセシリアをエスコートしている」
「建前は聞いてないんですよ。セーリア家からの使いは一週間以上前に送られたはずです」
「証拠は……」
「手配した書類があります」
ユリィがそう言って書類をイーベルに見せた。
イーベルは言葉に詰まっている。
そう、イーベルの素直さは表向きの話。
裏では浮気を必死に隠蔽するようなゲス野郎だ。
「イーベル様、どういうことでしょうか」
「……大人しくなったと思ったら、こんなことをしていたのか!!」
イーベルはユリィの近くまで行き、手を振り上げた。
ユリィは目を強く瞑った。
私は急いで止めようとした。
だめだ!
間に合わない!
――パシッ。
「……え?」
「女の子に暴力とはいけ好かないな」
白銀の髪に青色の瞳。
日本人の顔だ。
「大丈夫?ユリィ様」
「だっ!誰だ貴様は!」
「僕はイリヤ。ヤマモト・イリヤ」
「い……。伊里也……」
◇◆◇
「今日からこいつがお前の世話係だ。クソ。何でお前のために分家の奴らに金を払わねばならんのだ。気分が悪い。後は二人でやってろ」
お父さんは部屋から出て行った。
私が話し相手がほしいとダメ元で頼んだら、予想外にオッケーしてくれた。
でも、すごく機嫌が悪かったな。
「あ、あの!」
黒髪に黒い目を持つ男の子が言った。
不安なんだろうか。
「僕は山本伊里也です。お嬢様の二つ上です。よろしくお願いします」
伊里也は頭を下げた。
すごい、この子。
礼儀作法が完璧だ。
「私は山里菜乃葉!小学二年生!よろしくね!」
「……はい!」
そうして私と伊里也は仲良くなった。
「この子達は私の妹と弟なんだ!こっちは6歳の唯斗!こっちが5歳の雪菜!仲良くしてあげてね!」
私は伊里也に雪菜と唯斗を紹介した。
二人はその時点でかなり元気がなかった。
でも、私はそれに気づけなかった。
そして、二人は死んだ。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「あなた……。誰だったかしら」
私はショックで大切な彼の名前を、記憶を失くした。
それでも彼は……。
伊里也は私に仕えてくれた。
そして、あの夜。
部屋のドアが叩かれて、まぶたをこすりながらドアを開けた。
そこにいる伊里也は外着だった。
「逃げよう。俺と一緒に。この地獄から。俺はお前を信じてる。お前も俺を信じてくれ。俺達なら逃げれる。この地獄から逃げ出そう」
伊里也は手を差し出して言った。
私はその手を取ろうとした。
でも、私の手は伊里也の手の近くで止まった。
行っていいの……?
駄目だ。
「あのね、伊里也。私……」
「いたぞ!娘をたぶらかす愚か者だ!追い出せ!」
お父さんが大声で言った。
伊里也は逃げようとしない。
だから捕まった。
お父さんと警備員に捕まった。
「菜乃葉!俺は……。俺は絶対にお前を迎えに来る!助けに来る!だから……。それまで生きてろ!死ぬなよ!」
その後、伊里也は世話係を辞めた。
伊里也の「死ぬな」その一言が、私の中でずっと引っかかっている。
だから私はあの時ためらった。
高校生の時に「飛び降りろ」と言われた時に。
ためらったけど、私は伊里也の言葉を無視して飛び降りた。
山本伊里也。
私の中で足りなかった存在。
雪菜と唯斗、伊吹と琴葉、お姉ちゃんのようにいて欲しい存在だった。
忘れちゃいけない存在だった。
イアンにイリヤと名前をつけた理由が謎だった。
私の中で浮かんだ名前はこれだった。
そうか。
私の中から、伊里也は完全に消えたわけじゃなかったんだ。
◇◆◇
彼は、伊里也。
私がずっと忘れていた伊里也。
お姉ちゃんが言っていた彼というのは伊里也のことだったんだ。
会えた。
また会えた。
「伊里也!」
「……菜乃葉」
「久しぶり!」
伊里也は私に微笑んだ。
そして、イーベルに向き合った。
「浮気を疑われたからと言って、八つ当たりのために婚約者に手を挙げるとは……。愚かな王太子だ」
「何だと……?侵入者が何を言うか!」
「僕はこの学園の生徒ですよ」
「どこにそんな保証が……」
「ありますよ、殿下」
オーリスが口を開いた。
「オーリス・クレイト……」
オーリスは伊里也を見て頷いた。
そして、指を指した。
「俺が保証しましょう。コイツは学園の生徒です。何なら神に誓いましょう」
「……」
「俺も保証しましょう」
藤井くんが人混みの中から出てきた。
オーリスと藤井くんは伊里也がこの学園にいると言い張っているけど、私は伊里也を見たことがない。
なら、普段は私達と同じで魔法で姿を変えているのか。
「そんな話はいいんですよ。伊里也が学園の生徒かどうかなんて今は関係ありません。セシリア様。あなたが禁忌である精神魔法を日頃使用していることは分かっております」
セシリアは眉間にシワを寄せて、不機嫌さを表に出した。
しかし、すぐに天使のような微笑みをした。
「なんのことですか?」
「とぼけないでください。あなたはその精神魔法を使って、私の婚約者であるイリヤを誘惑した」
「ですから、何のことですか?」
セシリアはとぼけて罪を認めない。
この腹黒女が。
私はお姉ちゃんからとある道具を受け取った。
「これに手をかざしてください」
「何……?これ」
「魔力探知機。これであなたが魔法を使っているか分かります」
セシリアは目を逸らして、背中に手を回した。
「手を出してください」
「……」
セシリアは黙った。
そして、手を出そうとはしない。
仕方ない。
「対象者、右手を出せ」
そう言うと、セシリアは右手を出した。
今、私は魔法を使った。
強制魔法だ。
「な、何これ……。動かない……」
私は探知機をセシリアの手に触れさせた。
探知機は魔力を探知して光った。
「……っ!」
「決まりですね。あなたは魅了魔法を使っている」
私はセシリアの強制魔法を解いた。
セシリアは膝から崩れ落ちた。
「どうやって王太子やイリヤを籠絡したのかと思ったら、ただの魔法だったなんて。自分に自信がないのかしら」
「うるさい!」
悔しそうにドレスを握りしめるセシリアは、簡単に挑発に乗った。
ほら、本性を表して。
「山里……。山里菜乃葉ぁぁああ!」
「菜乃葉!!」
セシリアは私に何かをかけた。
瞬時にやばいと判断した私は、対処する前に眠気に襲われた。
「っ……」
「どう?私が作った精神を破壊する薬は。こんなことになるとは思ってなかったけど、私はあなたを殺せればいい」
セシリアは不気味に笑って、私の頬を両手で包んだ。
嫌な顔。
「一度死ぬ決意をした身。死ぬタイミングがズレただけよ。イリヤは私の物、王太子も私の物、この世界は私のための物。誰が死のうが関係ない。でも良かった。あなたがこの世界に来てくれて。やっと、私はこの手であなたを殺せる」
「あぁ……。安心……。して……。私……。死なないから……」
「そのすまし顔。前世からずっと嫌いだった」
もうダメかも……。
私は目を閉じた。
何が起ころうと私は死なないよ。
精神も壊させない。
みんなの声が聞こえる。
ごめん。
でも、一つだけ言いたいな。
「私……、死なないよ……」
みなさんこんにちは春咲菜花です!セシリアが本性を現しました!まさかの菜乃葉が狙われちゃってる感じです!あと助けてください!あとがきで書くことが分かりません!そんな事はさておき、次回からはもっと盛り上がっていくますよぉぉぉおおお!ということで次回もお楽しみに!良ければ、レビュー、リアクション、ブクマ、感想をください!それでは次回お会いしましょう!




