第十六話 狂った世界
この話には残酷な描写が含まれます。苦手な方はご遠慮ください
「これより、入学式を行います」
憂鬱な入学式。
いっくんと話した時にはもう薄々気がついていた。
東京の高校には行けないことには。
お母さん達が入学を辞退する連絡をすることくらい察せてただろうに。
でも、私が東京にこだわる理由がバレれば、いっくんに何されるか分からない。
ここは黙って従おう。
たとえどんな噂が流されていたとしても。
「ねぇ、あれ」
「山里菜乃葉……。だっけ?あの人、中学時代荒れてたでしょう?お父さんが言ってた」
「人を殴ったりとか……?」
「そうそう」
「お父さんから聞いたんだけど、姉よりも成績悪いらしいし」
「え?じゃあ姉に全部持っていかれた残りカスってこと?」
「性格まで持ってかれたんじゃない?」
へぇ、そういうことになってるんだ。
一体何のことやら。
私は人に手を挙げたことがないし、成績も劣っているわけじゃない。
並べば少し劣るかもしれないけど、めちゃくちゃ差があるわけでもない。
父親は他の会社の社長や社員……。
それも同じ高校に入る人達の親。
とんでもない。
本当に馬鹿馬鹿しい。
ただちょっと反抗しただけで根も葉もない噂を流される。
まぁ、誰か一人くらい噂だけで人を判断しない人はいるよね。
◇◆◇
私の思惑は一切当たることはなかった。
誰もが噂を信じ、私の言葉を聞かない。
誰かに話を聞いてほしい。
でも、聞いてくれる人はいない。
いっくんはいない。
自分で何とかしないとなのに、口を開けば「残りカス」だの「無能」だの言われる。
そんな中やって来た定期テスト。
分かる問題がほとんど。
だけど、成績が高いと認知されても他の悪口を言われることが分かりきっている。
なら、みんなの言う通りなってやろう。
何もできない無能な姉の残りカスにね。
しばらくしてから私は初めてみんなに反論した。
「みんなさぁ、私が残りカスだとか言ってるけど、それは本心なの?」
「当たり前だ」
「……そう。じゃあ、無能なのは君達だ。人に無能とか言うほど頭がいいんだよね?なら、証明して見せてよ。私よりも自分達が優れてるって」
少ししてからやってきた定期テストの四回目。
クラス全体で私と競うことになった。
結果は私が全教科満点。
「これで分かった?やる気がないからやってないだけ。頭の中がお花畑のあなた達とは違うの」
「カンニングだ!そうだ……!カンニングをしたんだ」
やっぱりこうなるよね。
知ってた。
「カンニングをしたくせに自分は賢いみたいな顔して……!クラスの恥だ!」
「カンニングしている証拠を……」
「クラスの恥はいなくなった方がいいよなぁ?」
不気味に笑ったクラスメイト達。
私はそいつらに強引に教室のベランダに追いやられた。
背中には柵が当たった。
「……っ!」
まずい、ここは四階。
落ちたら死ぬ!
「飛び降りろ飛び降りろ」
嘘でしょう!?
まさか……。
誰も止めないなんてないよね……?
「誰か!」
私はずっとバツが悪そうな顔で見て見ぬ振りをしていた人達に助けを求めた。
その人達は顔を逸らすか教室から出て行った。
「……」
ダメだ。
期待した私が馬鹿だった。
「はぁい、みなさぁん!一年七組の山里菜乃葉が飛び降りますよぉ〜?みんなでコールしましょう!」
狂ってる。
ダメだ。
このクラスは……。
いや、この世界は狂ってる。
「飛び降りろ飛び降りろ」
もう、いいか。
十分頑張った。
私は柵に立った。
どこからか歓声が聞こえた。
もうどうでもいい。
私は柵を蹴って宙に舞った。
誰も止めない。
誰も助けない。
あぁ、これで解放される。
「……っ!菜乃葉ぁぁぁああ!」
下から誰かの声が聞こえた。
誰の声だろう。
どうでもいいか。
どうせ死ぬんだし。
◇◆◇
「残念ながら死ねなかったんだけどね。目が覚めたら病院。大怪我で半年は入院してたかな?親は見舞いに来なかったし、先生が来ても目を逸らして現状報告をするだけ。寄せ書きには遠回しに『死ねばよかったのに』とか『また楽しめる』とか書いてあった。そこからは通信制の学校に転校して、カウンセリングも受けたかな?未だに分からないのが、どうして死ねなかったのかっていうのと、あの時聞こえたのは誰の声かって言うのだけなんだけどね」
私が話し終えると、周りは全員泣いていた。
そんなに泣く話かな?
よくわからない。
「ごめんね、菜乃葉……。私が他県の大学にいかなければ……」
一番泣いていたお姉ちゃんが私に言った。
決してお姉ちゃんが悪いわけじゃないんだけどな。
伊吹まで頷き出した。
そんなに責任を負うことないのに。
「別に誰も悪くないよ。飛び降りる決意をしたのは私だし」
「飛び降りる決意をするほど追い詰められていたんでしょう!?」
確かにそうだけど、別によく考えれば他の高校に転校すれば良かった話なんだよね。
あ、無理か。
お母さん達は通信制高校に行くことすら渋ってたからね。
私が通信制高校に行けたのは、先代様……。
つまりは祖父に当たる人達が説得してくれたからにすぎない。
先代様には感謝しかない。
孫への執着や愛情はないけれど、一族から自殺した人がいるなんて不吉だからね。
「転校やカウンセリングは先代様が手伝ってくれたんだよね」
「そう……。あの人達がついに……。ね」
ついにって?
私は首を傾げた。
それに気がついたお姉ちゃんは急に慌てた。
「あ、いや。別にやましい事があるわけじゃないの。実は言うと、先代様と大奥様は私達のことをだいぶ気にかけてくださっていたのよ」
「え?あの先代様が?」
「えぇ、雪菜達のこともすごく怒っていらしたの。でも、家庭の方針なら口出しできまいと……」
驚いた。
先代様がそんなに私達に気配りをしてくださっていたとは……。
「おい藤井!お前は止めなかったのかよ!」
「え?何言ってんの?藤井くんはこの部屋にいな……」
「います」
「いたー!」
「入るタイミングを見誤った」
そう言えば、トイレに行くと行ったきりだったな。
「その……。……俺も止めてない」
「殺す」
「あー!待って待って!別にいいから!気にしてないから」
伊吹は怒ると怖い。
そして、すぐに殺そうとする。
『いいよ伊吹。殺れ』
「おけ」
「琴葉ー!!お姉ちゃん!伊吹を抑えて!」
何で琴葉が……。
まさか最初から……?
これはまずい!
「落ち着いてー!」
私達はしばらく伊吹と琴葉を止めることに時間を費やした。
「山里菜乃葉……。ふふっ。楽に死ねると、思わないことね」




