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幸せを追う悪女達  作者: 春咲菜花
第二章
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第十四話   謝罪と再開

「……」


藤井くんだったんだ。


「謝りたいんだ。高校の時、俺はお前の境遇を黙ってみるだけだったことを」

「どうして?あなたが止めたとしても、誰も聞く耳を持たなかったと思うけど?」

「それでも!それでも、君を支えなかったのは俺だ」


藤井裕翔。

彼は高校の時に私と同じクラスになったことがある。

そして、中学時代にいっくんと仲が良かった。

よく話しているのを見かけた。

いっくんと話すきっかけになった人だ。


「俺は、山里があんな目にあっている時、ずっと見ているだけだった。怖かったんだ。俺まであんな目にあったらと思うと。結局自分が可愛かっただけだ。だから、ごめん」


彼は責任感が強い。

私はそれをよく知っている。

だから、彼も責める気なんてさらさらない。

自分が可愛いなんて、自分も同じだ。

自分を棚に上げて、お姉ちゃんを少しだけ憎んでたんだから。


「藤井くん、顔を上げて。私、別に怒ってないし、あなたに謝罪を求めたりなんてしない。自分が可愛いのなんてみんな同じだしね。藤井くんは見てただけ。何もしていないんだから、気にしなくていいよ」

「でも……!」

「前世のことを気にしても仕方ないよ。過去は変わらない。どう足掻いてもね。でも、過去を悔やむ時間があるなら、未来を少しでもいいものにした方が良くない?くだらないことに時間を割いても仕方ない。これから変えることができる未来を、みんなで実現していこうよ」


私は藤井くんをまっすぐ見て言った。

過去は変わらない。

でも、この先の未来は自分達で切り開けるんだよ。

だから気にしないで。

私は藤井くんに微笑んだ。

藤井くんは遠慮したように微笑み返した。


「『君が世界を救うなら』って小説知ってる?」

「知ってる。山里がイラスト描いてたやつだろ?」

「え?何でそれを……」


私はイラストレーター活動を偽名でしていた。

いや、それが普通なんだけどね。

どうして楓夏菜が私だって分かったんだろう。


「山里は放課中によく絵を描いてただろ?中学も高校も。絵をいつも上手いなって思ってたから。それに、『キミセカ』は話題性があったからな」

「そっか、ありがとう」

「ちなみに、楓夏菜の楓って……」


あ、藤井くんは楓のこと知ってるから分かっちゃったんだな。

そう、楓夏菜の楓は死んでしまった猫の名前だ。

これなら私はこうしているよって楓に伝わると思って。


「そう。楓の名前」

「やっぱり」


ちなみに、夏菜の夏は雪菜と唯斗の誕生日の間の季節だ。

雪菜は三月、唯斗は十月。

だから夏だ。

夏菜の菜はもちろん私の名前の頭文字。

意味がないようで、しっかりと意味が込められた名前なんだ。


――楓夏菜?いいと思うよ!語呂もいいし、何より可愛い!


琴葉にこの名前にするって伝えた時は、すごく褒められたっけな。

嬉しかったなぁ。


「ねぇ、藤井くん。この世界を物語通りに進めることを、あなたは望んでる?」


私はそう聞いた。

藤井くんと話がしたかった理由は、これだからだ。


「それはないな。『キミセカ』は何人か人が死んでしまうだろう?俺は平和な方がいい。それとも、山里は物語通りになることを望んでいるのか?」

「ううん。私は物語を変えたい。でも、私達転生者の中にいるの。物語通りになることを望む人が」

「それはそれは……。迷惑なやつもいるんだな」

「きっとその人は、誰が死のうと関係ないんだろうね」


そして、今まで出会った人達の中でただ一人話をしていない人がいる。

セシリア・フィーリア。

彼女こそが、物語にこだわっている転生者だ。


「藤井くん。協力して欲しいの。アルトやユリィを救うために」

「もちろんだ。伊吹もそれを望んでいるだろうよ」

「あ、そうだ」


私はいいことを思いついた。


◇◆◇


『裕翔〜!!』

「伊吹〜!!」

『「会いたかったよぉぉぉぉお!」』


魔法球で並列世界にいるいっくんを呼び出した。

そしたら二人は再会を喜んだ。

魔法球に頬擦りして。

引いたよ。

全力で。

ユアンもいるんだから程々にして欲しい。


『ちょっと伊吹、再会を喜ぶのはいいけど、その気持ち悪い動作をやめて』

『何だと琴葉!気持ち悪いとは何だ!』

『これに関しては全力で琴葉に同意だよ』

『柚木まで何を言い出すんだよ!』

『ごめんね、伊吹。しばらく口を聞かないでね』

『由梨奈ぁぁぁぁああ!』


いっくんはお姉ちゃんに抱きついた。

今日も仲が良くて何よりだ。

けど、姉とその夫がイチャついているのを見るのは何だか複雑だ。

私は藤井くんを見た。

藤井くんはそれに気がついて頷いた。


「現状報告をするよ。まず、この世界に転生したのは唯斗、雪菜、楓、藤井くん、他一人以上。唯斗達はユリィの兄弟に。楓はディーアに。藤井くんは見ての通りカイルに。もう一人はセシリアに」

『雪菜と唯斗がいるの……?二人は生きているの!?』


お姉ちゃんは勢いよく立ち上がって、机を叩いた。

そうだよね。

アーサーとアリスは物語の序盤で死んでしまう。

だから心配なのだろう。


「大丈夫。二人ともユリィに大事にされてるよ」

『そっか』


お姉ちゃんは安心したように魔法球から離れた。

私はもう知っている。

お姉ちゃんが本当は私達のことを愛していることを。

私と同じで、脅されていたのだろう。


『ねぇねぇ、楓って誰なの?』

『確かに。知り合い?』

『んー?そんな名前の奴がいたような……』


琴葉と柚木は不思議がっているが、いっくんは楓のことを知っているから、覚えているんだろう。

かなりうろ覚えらしいけど。


『んー。あっ!ああぁぁぁぁああ!あの猫!』

「そう。どうやらあの子も転生してるらしくてさ」

『良かったな、菜乃葉』

「うん」


いっくんは微笑んだ。


――楓からの感謝?

――そうかもね。


あの時と同じような顔。


「それより、イアンの様子がおかしいの」

『イアンの様子が?』

「おそらく転生者のセシリアと最近一緒にいるの。それに……」


――話しかけるな。


あの時の表情。

何かおかしかった。

今まで向けられたことがない。

確かにそれもある。

深く考えるのはよそう。


『おかしいな。あいつは何があっても菜乃葉を守ると言っていたのに……』

『そうね……。おかしいわね。あれだけ『菜乃葉以外の女に興味はない』って言ってたのにね……』

『え?何?あいつ菜乃葉を傷つけたの?殺す?』


柚木とお姉ちゃんと琴葉が口々に言った。

さらっと殺すとか言わないで欲しい。

いっくんは真剣な顔で何か考えている。


『菜乃葉。詳しいことを教えてくれ』

「え?うん。あ、それとね、お願いがあるんだ」


◇◆◇


「ユリィ、おはよう」

「菜乃葉、ごめんね。先に来ないといけなかったんだ」

「大丈夫だよ」


ユリィは先生に私と席を隣にするように頼み込んだらしい。

だから私の席はユリィの隣になった。

もうすぐホームルームが始まるから、先生が教室に来た。


「今日から同じクラスに転入する人が二人いるわ。こちらの二人は平民だが、仲良くるすように」

「ユリナ・セリーナです。よろしくお願いします」

「イブキ・アイラルです。よろしく」


天使のように微笑む金髪とスミレ色の瞳を持つ女性と、茶髪にオレンジ色の目を持つ男性。

それを見た私は隣にいるユリィと呆れた顔をした。

ユリィは何となく察しているのだろう。


「何であの二人がいるの?」

「まぁ、琴葉が来てないだけマシじゃない?」


そう、いっくんとお姉ちゃんがこの世界に渡って来たのだ。

今回も琴葉の仕業だろう。


「あと、一つ報告が。ナズナ・セイルナだが、どうやら入学届に書き間違いがあったようだ。これからは本名であるナノハ・セイルナと呼ぶように」


あ、ユリィったらこの話までしてくれたんだ。

確かに今まで呼ばれても反応できなくて不便だったんだよね。

ありがたい。

しかもカモフラージュまでされてる。

抜けがないな。


「イブキとユリナはナノハの席の隣に行くといい。三人は知り合いらしいしな」


しかも隣の席に来た。

二人は私に手を振った。

よし、あとで説教だ。


◇◆◇


はい、昼休み。

はい、説教。


「イアン、あの……。今日一緒に食事とかどう?」

「もちろん行くさ。セシリアの頼みとあらば」


聞こえてくる話し声に落ち込みながら、私は二人に声をかけようとした。

いっくんはいきなり立ち上がって、イアンの方へ行った。

そしてイアンを殴った。


「イアン!」


セシリアの悲鳴のような声が教室内に響いた。

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