第十四話 謝罪と再開
「……」
藤井くんだったんだ。
「謝りたいんだ。高校の時、俺はお前の境遇を黙ってみるだけだったことを」
「どうして?あなたが止めたとしても、誰も聞く耳を持たなかったと思うけど?」
「それでも!それでも、君を支えなかったのは俺だ」
藤井裕翔。
彼は高校の時に私と同じクラスになったことがある。
そして、中学時代にいっくんと仲が良かった。
よく話しているのを見かけた。
いっくんと話すきっかけになった人だ。
「俺は、山里があんな目にあっている時、ずっと見ているだけだった。怖かったんだ。俺まであんな目にあったらと思うと。結局自分が可愛かっただけだ。だから、ごめん」
彼は責任感が強い。
私はそれをよく知っている。
だから、彼も責める気なんてさらさらない。
自分が可愛いなんて、自分も同じだ。
自分を棚に上げて、お姉ちゃんを少しだけ憎んでたんだから。
「藤井くん、顔を上げて。私、別に怒ってないし、あなたに謝罪を求めたりなんてしない。自分が可愛いのなんてみんな同じだしね。藤井くんは見てただけ。何もしていないんだから、気にしなくていいよ」
「でも……!」
「前世のことを気にしても仕方ないよ。過去は変わらない。どう足掻いてもね。でも、過去を悔やむ時間があるなら、未来を少しでもいいものにした方が良くない?くだらないことに時間を割いても仕方ない。これから変えることができる未来を、みんなで実現していこうよ」
私は藤井くんをまっすぐ見て言った。
過去は変わらない。
でも、この先の未来は自分達で切り開けるんだよ。
だから気にしないで。
私は藤井くんに微笑んだ。
藤井くんは遠慮したように微笑み返した。
「『君が世界を救うなら』って小説知ってる?」
「知ってる。山里がイラスト描いてたやつだろ?」
「え?何でそれを……」
私はイラストレーター活動を偽名でしていた。
いや、それが普通なんだけどね。
どうして楓夏菜が私だって分かったんだろう。
「山里は放課中によく絵を描いてただろ?中学も高校も。絵をいつも上手いなって思ってたから。それに、『キミセカ』は話題性があったからな」
「そっか、ありがとう」
「ちなみに、楓夏菜の楓って……」
あ、藤井くんは楓のこと知ってるから分かっちゃったんだな。
そう、楓夏菜の楓は死んでしまった猫の名前だ。
これなら私はこうしているよって楓に伝わると思って。
「そう。楓の名前」
「やっぱり」
ちなみに、夏菜の夏は雪菜と唯斗の誕生日の間の季節だ。
雪菜は三月、唯斗は十月。
だから夏だ。
夏菜の菜はもちろん私の名前の頭文字。
意味がないようで、しっかりと意味が込められた名前なんだ。
――楓夏菜?いいと思うよ!語呂もいいし、何より可愛い!
琴葉にこの名前にするって伝えた時は、すごく褒められたっけな。
嬉しかったなぁ。
「ねぇ、藤井くん。この世界を物語通りに進めることを、あなたは望んでる?」
私はそう聞いた。
藤井くんと話がしたかった理由は、これだからだ。
「それはないな。『キミセカ』は何人か人が死んでしまうだろう?俺は平和な方がいい。それとも、山里は物語通りになることを望んでいるのか?」
「ううん。私は物語を変えたい。でも、私達転生者の中にいるの。物語通りになることを望む人が」
「それはそれは……。迷惑なやつもいるんだな」
「きっとその人は、誰が死のうと関係ないんだろうね」
そして、今まで出会った人達の中でただ一人話をしていない人がいる。
セシリア・フィーリア。
彼女こそが、物語にこだわっている転生者だ。
「藤井くん。協力して欲しいの。アルトやユリィを救うために」
「もちろんだ。伊吹もそれを望んでいるだろうよ」
「あ、そうだ」
私はいいことを思いついた。
◇◆◇
『裕翔〜!!』
「伊吹〜!!」
『「会いたかったよぉぉぉぉお!」』
魔法球で並列世界にいるいっくんを呼び出した。
そしたら二人は再会を喜んだ。
魔法球に頬擦りして。
引いたよ。
全力で。
ユアンもいるんだから程々にして欲しい。
『ちょっと伊吹、再会を喜ぶのはいいけど、その気持ち悪い動作をやめて』
『何だと琴葉!気持ち悪いとは何だ!』
『これに関しては全力で琴葉に同意だよ』
『柚木まで何を言い出すんだよ!』
『ごめんね、伊吹。しばらく口を聞かないでね』
『由梨奈ぁぁぁぁああ!』
いっくんはお姉ちゃんに抱きついた。
今日も仲が良くて何よりだ。
けど、姉とその夫がイチャついているのを見るのは何だか複雑だ。
私は藤井くんを見た。
藤井くんはそれに気がついて頷いた。
「現状報告をするよ。まず、この世界に転生したのは唯斗、雪菜、楓、藤井くん、他一人以上。唯斗達はユリィの兄弟に。楓はディーアに。藤井くんは見ての通りカイルに。もう一人はセシリアに」
『雪菜と唯斗がいるの……?二人は生きているの!?』
お姉ちゃんは勢いよく立ち上がって、机を叩いた。
そうだよね。
アーサーとアリスは物語の序盤で死んでしまう。
だから心配なのだろう。
「大丈夫。二人ともユリィに大事にされてるよ」
『そっか』
お姉ちゃんは安心したように魔法球から離れた。
私はもう知っている。
お姉ちゃんが本当は私達のことを愛していることを。
私と同じで、脅されていたのだろう。
『ねぇねぇ、楓って誰なの?』
『確かに。知り合い?』
『んー?そんな名前の奴がいたような……』
琴葉と柚木は不思議がっているが、いっくんは楓のことを知っているから、覚えているんだろう。
かなりうろ覚えらしいけど。
『んー。あっ!ああぁぁぁぁああ!あの猫!』
「そう。どうやらあの子も転生してるらしくてさ」
『良かったな、菜乃葉』
「うん」
いっくんは微笑んだ。
――楓からの感謝?
――そうかもね。
あの時と同じような顔。
「それより、イアンの様子がおかしいの」
『イアンの様子が?』
「おそらく転生者のセシリアと最近一緒にいるの。それに……」
――話しかけるな。
あの時の表情。
何かおかしかった。
今まで向けられたことがない。
確かにそれもある。
深く考えるのはよそう。
『おかしいな。あいつは何があっても菜乃葉を守ると言っていたのに……』
『そうね……。おかしいわね。あれだけ『菜乃葉以外の女に興味はない』って言ってたのにね……』
『え?何?あいつ菜乃葉を傷つけたの?殺す?』
柚木とお姉ちゃんと琴葉が口々に言った。
さらっと殺すとか言わないで欲しい。
いっくんは真剣な顔で何か考えている。
『菜乃葉。詳しいことを教えてくれ』
「え?うん。あ、それとね、お願いがあるんだ」
◇◆◇
「ユリィ、おはよう」
「菜乃葉、ごめんね。先に来ないといけなかったんだ」
「大丈夫だよ」
ユリィは先生に私と席を隣にするように頼み込んだらしい。
だから私の席はユリィの隣になった。
もうすぐホームルームが始まるから、先生が教室に来た。
「今日から同じクラスに転入する人が二人いるわ。こちらの二人は平民だが、仲良くるすように」
「ユリナ・セリーナです。よろしくお願いします」
「イブキ・アイラルです。よろしく」
天使のように微笑む金髪とスミレ色の瞳を持つ女性と、茶髪にオレンジ色の目を持つ男性。
それを見た私は隣にいるユリィと呆れた顔をした。
ユリィは何となく察しているのだろう。
「何であの二人がいるの?」
「まぁ、琴葉が来てないだけマシじゃない?」
そう、いっくんとお姉ちゃんがこの世界に渡って来たのだ。
今回も琴葉の仕業だろう。
「あと、一つ報告が。ナズナ・セイルナだが、どうやら入学届に書き間違いがあったようだ。これからは本名であるナノハ・セイルナと呼ぶように」
あ、ユリィったらこの話までしてくれたんだ。
確かに今まで呼ばれても反応できなくて不便だったんだよね。
ありがたい。
しかもカモフラージュまでされてる。
抜けがないな。
「イブキとユリナはナノハの席の隣に行くといい。三人は知り合いらしいしな」
しかも隣の席に来た。
二人は私に手を振った。
よし、あとで説教だ。
◇◆◇
はい、昼休み。
はい、説教。
「イアン、あの……。今日一緒に食事とかどう?」
「もちろん行くさ。セシリアの頼みとあらば」
聞こえてくる話し声に落ち込みながら、私は二人に声をかけようとした。
いっくんはいきなり立ち上がって、イアンの方へ行った。
そしてイアンを殴った。
「イアン!」
セシリアの悲鳴のような声が教室内に響いた。




