第十三話 トラウマ
最近いないと思ったら、セシリアと親睦を深めていたのか。
「ナズナ……」
ユリィが心配したような声で言った。
イアンがどうしようと私には関係ない。
でも、なんだかモヤモヤするなぁ。
イアンはセシリアをエスコートしていた。
平民なのに、エスコートできるなんて知られたら大変じゃない?
まぁ、そこは指摘するか。
「イリヤ」
「……」
「どこでエスコートなんて覚えたの?見様見真似なら、セシリア様もご不快に思われるかもしれないし……」
私はイアンに手を伸ばした。
――パン!
イアンは私の手を乱暴に振り払った。
「イリ……」
「話しかけるな」
「……っ!」
「菜乃葉!大丈夫!?」
ユリィは私に駆け寄って、手を見た。
私の手は少し赤くなっている。
「イリヤ!乱暴しちゃだめだよ!」
「……そうだな」
どうしちゃったの?
イアン、どうしてそんな目をしているの?
イアンは私に冷たい視線を送っていた。
◇◆◇
「ってことなんだけど、何か知らない?」
私は放課後、オーリスとユリィと話していた。
「知らねぇな」
やっぱり知らないのか。
あんな顔、向けられたことなかったんだっけどな。
イアンは私が悪女と言われていたときも優しく接してくれた。
――何の用だ?悪女と呼ばれる善人。
あの時も私を信じてくれた。
なのに……。
「おい、陰気臭い空気を出すな。話があるんだろう?コイツらに」
オーリスが指を指した方向には、カイルとディーアがいた。
二人はイレギュラーの可能性がある。
「お二人の前世は?」
私がそう聞くと、二人は目を見開いた。
これは黒だな。
「僕は猫でした」
ディーアが口を開いた。
猫から転生するパターンもあるのか。
「野良?」
「ギリギリ野良でしたね」
「ギリギリって?」
「僕は学生に大切にされていましたから。縄張り争いに負けてしまって、死んでしまいましたけどね」
それはそれは。
――頑張ったねぇ……。
学生時代、私も猫を大切にしていたな。
「名前はあるの?」
「楓だったかな?猫の記憶力はかなり劣ってるから曖昧ですけど、瞳の色が紅葉と同じだかららしいです。まぁ、紅葉というものを、僕は俺か知らないんですけどね」
――わっ!びっくりした。白猫?
――お前の目は紅葉みたいだね。よし、名前は楓だ。
――かーえで!
――今日も最高に可愛いね!
――楓、ひっつき虫だらけじゃない。
偶然?
楓というのは、中学生の時に私に懐いていた猫の名前だ。
「学生の名前は……。分かる?」
「菜乃葉……。だったかな?」
「楓!」
私は楓に抱きついた。
楓は困惑している。
「私だよ、楓。山里菜乃葉だよ」
「僕を可愛がってくれた人?」
「そうだよ。幸せそうで良かった」
さて、感動的な再開は終わらせよう。
次はカイルだ。
賢者と呼ばれる彼の前世は一体……。
「山里、俺を覚えてるか?」
「……誰?姿変わってるから分からないよ」
「……」
何度言われたって分かるはずがない。
人の口調を覚えて判別できるほど人と話していない。
この人、知り合いだったんだ。
嫌だな。
何を言われるんだろう。
――気持ち悪い。
――姉の残りカス。
何度も言われたその言葉。
絶対に会ったことのない姉を褒め称える人達。
私を残りカスと蔑まれる毎日。
大学ではなんともなかったけど……。
高校は……。
「……っ!」
「菜乃葉!」
気持ち悪い。
お腹がグルグルする。
気持ち悪い、気持ち悪い。
「ユリィ、退け」
「あなたは……。誰?」
誰かの声が聞こえる。
遠くから聞こえてくる声。
苦しい、苦しい。
誰かが私の背中に手を添えた。
「菜乃葉、落ち着いて」
誰の声?
知らない人の声のはずなのに、落ち着く。
暖かい。
誰なんだろう。
私は落ち着いて、眠りそうになってしまった。
「お前は来ると思ってた」
「そりゃあ来るさ」
「安心した。それがお前の……」
私は限界が来て眠ってしまった。
陽だまりのような声。
懐かしい。
◇◆◇
「お嬢様ー!どこですかー?」
私を探す声が、面白くて仕方ない。
「どうしよう。今日のおやつはマシュマロの予定でしたのに、いらっしゃらないのであれば私が食べるしか……」
「だめー!!」
私は思わず隠れていた場所から出てしまった。
フッと笑った彼は、いつも優しい。
こうやって困らせても全然怒らない。
私が勉強が嫌で逃げ出しても、探してくれる。
「お嬢様、こちらにおいででしたか」
「こっちに来ないで」
「駄目ですよ。何をしでかすか分からないのに。……お嬢様、辛ければ私に言ってください。見ているだけで、何もできない無能にしないでください」
いつも優しい。
でも……。
いつからだろう。
彼の名前が思い出せなくなったのは。
唯斗と雪菜の葬儀を抜け出した車の中で、私は彼に何と言った?
ーあなた……。誰だったかしら?
分からない。
どうして忘れてしまったのか。
絶対に忘れちゃ駄目なはずなのに。
「それは全部ぜーんぶあなたのせい。あなた自身のせい」
小さい子の声?
私は振り向いた。
そこには小さい頃の私がいた。
前にもこんなことがあったような。
「あなたは誰?」
「私はあなた。必要がないあなたと同じ」
「私は必要ある。必要ない人なんていない」
「ないんだよ!必要とされたことなんてなかったでしょう?必要とされてると思い込んで、また裏切られる。もううんざりだよ」
「……あっ」
足場が崩れた。
落ちる……!
私の足場しか崩れていないようで、幼い私は私を見下ろしていた。
「まっ!」
私はどんどん下に落ちて行く。
幼い私はもう見えない。
伝えたいことがあるのに。
これじゃ届かない。
「また!また伝えに来るから!それまで待っててね!」
私はできる限り大きな声で言った。
それが私に届いたのかは分からない。
届いていたらいいな。
◇◆◇
私は目を開けた。
白い天井。
「ナズナさん、起きましたか?」
先生がカーテンを開けて入って来た。
「あれ……?私、みんなと話してて……」
「気を失ったのよ」
先生はベッドの端に座った。
オーリスが誰かが運んでくれたのかな?
はぁ、ユリィにも迷惑かけちゃったなぁ。
「うん、大丈夫そうね。大事をとって今日は寮に戻りなさい。しっかり休むことね」
「はい」
私は寮に戻った。
雪菜と唯斗は小説が出る前に死んでしまった。
楓もそうだ。
そもそも猫だから文字を読めないはず。
つまり、この三人は白。
となると、セシリアとカイルが怪しい。
「……」
――山里、俺を覚えてるか?
彼が誰なのかは分からない。
けど、高校か中学の同級生だということが分かる。
怖い。
私は高校では中学よりもひどい扱いを受けた。
「菜乃葉……。大丈夫……?」
ユアンが私を気にかけて手を握ってくれた。
心配させたいわけじゃない。
怖い。
「外の空気を吸ってくる。ごめんね、ユアン」
私はユアンを部屋に残して寮の屋上に出た。
屋上と言っても、二階までしかないから、見晴らしは良くないけどね。
風が気持ちいい。
誰かが屋上に転移してきた。
「何の用ですか?」
「……」
振り向くと、そこにはカイルがいた。
話したくない。
本当は今すぐ逃げ出したい。
「俺さ、謝りたくて……」
「何を?そもそも君は誰?」
「……俺は。藤井裕翔」
みなさんごきげんよう春咲菜花です!今回は菜乃葉のトラウマが明かされましたね!そして、まだ明かされていない高校時代の扱い。次回からはそれを書こうと思っています。ちなみに今回出てきた、猫の楓は一章の番外編で出てきたキャラです!それにしても、この作品登場人物増えましたね(笑)これからも増えていくと思うので、どんなキャラが出てくるのか予想してみてください!




