第十一話 言い訳
「お母さん達は、自殺を装って僕達を殺したんだ」
確かに二人はお母さん達に追い詰められていた。
だから自殺したんだと思っていた。
ううん、これは言い訳だ。
本当は……。
本当は分かっていたんだ。
お母さんが二人を殺したことを。
そして、私も殺そうとしていたことを。
受け入れたくなかったから、私は知らないフリをした。
「そっか。現実逃避なんて馬鹿なことしたなぁ……」
「ごめん、お姉ちゃん。嫌なことを教えちゃって……」
私は窓の方に行った。
「お姉ちゃん……?」
私は窓を開けて、身を乗り出した。
二人は戸惑っている。
私は大きく呼吸をした。
「あんのクソジジィとクソババァの馬鹿!!あんだけ二人の葬式で泣いてたくせに自分が殺したんじゃん!!自分達ばっかり被害者ズラすんな!!」
「お姉ちゃん……」
私は振り向いた。
雪菜と唯斗は大きく目を見開いていた。
私は二人を抱きしめた。
「ごめん、駄目なお姉ちゃんでごめんね。あんな奴らの言いなりにならずに、お姉ちゃんと二人を連れて家を出る勇気があれば、誰も、何も、失わなかったのに……。我慢ばかりさせてごめんね……!」
「「う……。うわぁぁぁぁああぁあん!!」」
二人は大きな声で泣いた。
私達は初めて自分たちの気持ちを理解できたんだ。
「何の騒ぎ?」
ユリィがドアを開けて入ってきた。
私達を見てギョッとしたユリィは、私に近づいてきた。
「うちの弟と妹に何をしたの?」
真剣な表情。
二人を大事にしてくれているのかな?
良かった。
この際だ、ユリィにも話しておこう。
「この二人は私の前世の弟と妹なの」
「前世?」
「そう。私がいた世界にはこの世界のことを記した本があった。だからこの世界のことを少しだけ知っていたの。私はあっちの世界で殺されて、意図的に魂だけこっちに連れてこられた」
「なぜ?」
「十人の命乞いがバレないようにするために」
ユリィは息を呑んだ。
世界を代表する五つの禁呪の中の一つとされているもの。
十人の命乞い 死者蘇生 四十四人の犠牲者 魂の入れ替え 心臓の呪縛
一番危険視されているのは四十四人の犠牲者だ。
四十四人の犠牲者は、その名の通り四十四人を犠牲にして行う儀式だ。
十人の命乞は十人の命を代償にそれに合った願いしか叶えられない。
それに対して四十四人の犠牲者は世界レベルの願い事ができる。
世界を滅ぼすこともできれば、別の世界に行くことも可能だ。
この常識は、貴族ならば耳にタコができるほど教えられる。
――いい?ユリィちゃんこれは常識よ。覚えておいてね。
――はい、抜き打ちテストするわよ〜。
――ユリィちゃん、穴埋め五十問中の二点ってなぁに?
思い出すのをやめよう。
あのときのイーリス様は怖かった。
目が笑っていなかった。
「禁呪のために呼び出されたってこと?黒幕は誰?」
「黒幕はユアン・デイス・アスクレインでした。まぁ、解決したからいいんですけどね」
「それって初代国王なんじゃないの?」
雪菜と唯斗がキラキラした目で話に割り込んできた。
忘れてた。
ここから先はこの子達にはまだ早い話だ。
「ユリィ様の部屋に行ってもいいですか?この子達にはまだ早いので」
「分かったわ」
私はユリィの部屋に行った。
ユリィはご丁寧に人払までしてくれたらしい。
その方がありがたい。
「それで?」
「初代国王の伝説は知っていますか?」
「姉に裏切られて、十人の命乞いをして、魔物落ちをした。その後は多すぎるわ」
「正しい話を今からお話しします」
それは、どの逸話とも違う。
私がこの目で見た過去。
ユリアンとユアンの本当。
捻じ曲がった話じゃない。
「初代国王は、殺されたの」
「矛盾してない?あなたさっき黒幕だって言ったじゃない」
「禁呪の中に死者蘇生があることをご存知ですか?」
「知っているわ。常識よ。……まさか……」
ユリィも察しがいい。
「そのまさかです。初代国王の姉は心臓の呪縛をかけられていました。それから解放されてから、初代国王を生き返らせた。術が不完全だったから、二人とも千年の眠りについてしまった」
「実話とは聞いていたけれど、本当の話とはかけ離れた部分があるわね。所詮は第三者が語った物語だってことね」
ん?
ユリィ簡単に信じすぎじゃない?
普通は「嘘だ!」みたいな感じになると思うんだけど……。
「疑わないの?」
「あなたは嘘つきじゃないでしょう?」
信用されることがすごく嬉しい。
全て話してしまってもいいかな。
「ユリィ様、私のナズナ・セイルナは本名ではありません」
「どう言うこと?」
「前世の名前は山里菜乃葉。そして……」
私は変装魔法を解いた。
ユリィは白色の髪を見て目を見開いた。
「ユリィ・セーリアです。この世界とは別の世界……。並列世界から来ました」
「私……」
「この世界のユアンはこれから魔王になります」
「……」
ユリィの顔が強張った。
――私は、ずっと人生を繰り返しているの。何度も何度も繰り返している。
そう言えば、ユリィは人生を繰り返しているって言っていたよね。
もしかして、このユリィも人生を繰り返しているのかな?
「何回目?」
「は?」
「だから、人生は何回目かって聞いているの」
「意味がわからない」
ユリィは怪訝そうな顔をしている。
まだ繰り返しは始まっていないのかな。
変なこと聞いちゃったな。
「ごめん、なんでもない」
「そう」
「ユリィ、気をつけてほしいの。この世界に転生者は複数人いる。アーサーやアリスも含まれている。でも、あの二人は物語を知らない」
「長いわ。簡潔にまとめて頂戴」
「結論から言うと、物語内であなたは死ぬの」
「……」
ユリィは黙り込んだ。
察していたのだろうか。
驚いた様子を見せないユリィは何を考えているのだろう。
「この世界の転生者は物語通りになることを望んでいる可能性が高い。だから、今から言う人達とはできるだけ関わらないでほしい」
「……あなたに守られる筋合いはないわ。そもそも、物語というのは運命的なものでしょう?捻じ曲げてはいけないのよ。運命は捻じ曲げちゃ駄目なんだ」
「自分が死ぬのに?」
「別に。どうせいつかは死ぬ命。死期が早まろうとそれもまた運命だよ」
ユリィは切なそうな顔をしている。
あたかも運命を受け入れたような事を言っているが、表情はそうではない。
――あれ?どうして?何で止まらないの?思い出して悲しくなるのには慣れたのに……。
あのときのユリィも同じ顔をしていた。
きっと、このユリィもそうなんだ。
「運命運命って、それは言い訳じゃないの?」
「……」
ユリィは俯いた。
どんな顔をしているか分からない。
「運命は受け入れるべきものだと思っているのかもしれないけど、分かっているなら、回避できるなら、それは変えてもいいことだと思う」
「……っ!」
ユリィは俯いていた顔を上げた。
悔しそうな顔をしている。
強く噛まれた唇は少し赤くなっている。
顔は赤く、目には涙をためている。
ついにこぼれた涙と共に、ユリィは口を開いた。
「簡単に……!簡単に変えられるなんて言わないでよ!!確かにあなたは変えられたかもね!でも……。でも私は!この人生をまた繰り返している!結局開放なんかされなかった!!意味なんてなかった!!私はこの世界の異物なの!だから何度も何度も死ぬ!殺される!喜ばれる!私は……」
ユリィは再び俯いた。
「いらないんだ……。誰からも必要とされない……。だれも……。ここにいていいよって言ってくれなかった……」
そっか、あなたにはやっぱり繰り返しの記憶があるんだね。
私はユリィの手を取った。
ユリィは涙がこぼれている目を見開いて、私を見た。
「誰も言わないなら私が言う。ここにいていいよ。ううん、ここにいるべきだよ」
「慈悲のつもり?」
「違うよ。私はユリィにここにいてほしいの。ユリィが必要なの」
「……」
「諦めないで。ほんの少しの希望も見失わないで。悪い方向に考えないで」
ユリィは涙を流しながら笑った。




