第九話 私の罪
唯斗が死んだ……?
雪菜が死んだ……?
嘘だと言って欲しかった。
棺桶に入っている唯斗と雪菜をただ呆然と見ることしかできない。
涙も出ない。
もう枯れた。
私がいけなかったのかな……。
二人をお母さんから守るために、二人を無視して追い詰めたからいけなかったの?
これは天罰?
二人ならきっと気づいてくれるって思い込んでいた私への天罰なのかな。
「見て、弟と妹が死んだのにあんなに冷たい表情」
「感情とかないのかしら」
「ご両親は泣いていらっしゃるのに、慰めることもしないなんて」
「由梨奈ちゃんを見習った方がいいんじゃないかしら」
そんなことを言う大人も、何も気にならない。
私だって泣きたい。
でも、泣き方なんて忘れてしまった。
もう、ずっと前から。
私の中にあったはずの感情の出し方を忘れてしまった。
元から感情なんてなければ、もっと楽だった。
「どうしたって泣けないよ……。私にはもう、何も残ってない……」
小さく呟いた声は、誰にも届かない。
ねぇ……。
ねぇ、神様。
私は何のために生まれてきたの?
何のために生きてるの?
守りたいものも、したいことも、もう分からない。
こんな人生、もう終わらせたい。
「菜乃葉!どうして妹と弟が死んだと言うのに平気そうなの……!」
お母さん達が泣きながら私の元へやってきた。
分かってる。
この涙は心からの悲しみなんかじゃない。
幼い息子と娘を亡くした可哀想な自分達を演じているだけだよね?
知ってるよ。
だって、そうなるように仕向けたのはあなた達じゃない。
「悲しいですよ。唯一無二の弟と妹でしたからね」
「じゃあ何で泣いていないのよ……!」
「悲しい時には必ず泣かなければならないのですか?人前で泣くなと私達に教えてくださったのは、お母様とお父様ではありませんか」
「何て冷たい娘なんだ!」
「こんなに冷たい子に育って……!」
どうして泣くの?
どうして被害者面ができるの?
こんな風にしたのはあなた達でしょう?
何を今更嘆いているの?
そんなに周りの興味を引きたい?
あぁ、そうか。
こうやって周囲から視線を集めれば、少しは温情をもらえると思っているんだ。
本当にどうしようもない。
もうお経は聞き終えた。
あとは火葬だけ。
もういいか。
どうせ私は何をしても悪く言われる。
雪菜達に合わせる顔もない。
「予定がありますゆえ、先に帰らせていただきます」
「菜乃葉!」
「それではみな様、あとはお任せいたします」
私は出口へと歩いた。
両親や周りは何か騒いでいるけれど、そんなのは私の耳には届かなかった。
私は車に乗った。
「家に向かって」
「よろしいのですか?」
「ええ。もう、いいんです」
運転手にそう言うと、車は動き出した。
隣に乗っている人に見覚えがない。
誰だろう、この人。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「あなた……。誰だったかしら」
私は見知らぬ男に訪ねた。
しかし、彼は切なそうな顔をするだけだった。
誰だろう。
「僕の名前は――」
◇◆◇
「おーい。菜乃葉ー?」
「伊里也……?」
「何でここでも偽名で呼んでるんだよ」
何だイアンか。
伊里也って誰なんだろう。
前世でそんな人いたかな。
それにしても、嫌な夢。
雪菜と唯斗が死んだときの夢か。
胸糞悪い。
「はぁ……」
「何だよ、朝から陰気臭いため息なんてついて」
「夢がねぇ……。唯斗と雪菜の夢を見たんだよねぇ……」
「それは嫌だな。それより、早く着替えろよ。遅刻する」
「じゃあ出てけ。あ、ユアンは?」
「んー?もう預けた」
「さすが仕事のできる騎士様」
私がそう言うと、照れたようにイアンは部屋から出ていった。
私はクローゼットを開けて、中から制服を取り出した。
それは過去に私が来ていたものと、全く同じだ。
一難去ってまた一難……。
といったところかな。
こうも厄介なことに巻き込まれるのは神様のいたずらか何かかな?
最早嫌がらせと言ってもいいのでは?
◇◆◇
「……」
「……」
「……なんですの?」
「今日も美しいなと思いまして」
私はユリィを見つめていた。
それに対してユリィはジトっとした目で私を見た。
最近はいつもこんな感じだ。
少しずつだけど、ユリィとも打ち解けてきた。
順調順調。
「平民に絡まれてお可哀想」
「ユリィ様の身分を分かっているのかしら」
「もちろん分かっておりますよ」
私はクラスメイトの人達に言った。
クラスメイトは少しだけ目を逸らした。
これだから口だけの人は。
「都合のいい時だけはユリィ様が可哀想とか言うんですね。いつもは見向きもしないくせに」
「……」
バツが悪そうな顔をしているクラスメイトに追い打ちをかけようとしたとき、私の肩を誰かが力強く掴んだ。
誰かと思い、振り向くと、イアンがいた。
「程々にしろ。ユリィ様にもご迷惑だろう」
「えー、事実なんですけどー」
「……二人は恋人なの?」
ユリィが頬杖をついてそう聞いた。
恋人……?
婚約者と言った方がいいのかな?
「わっ」
私が悩んでいると、イアンが私を抱き寄せた。
「婚約者、です」
イアンの顔を見ると、自慢げな顔をしている。
「ふーん。仲がいいことで。目障りだから近くでイチャつかないで」
お?
私はイアンをぶん殴ってイアンから離れた。
そして、ユリィの手を握った。
「イチャつかなければそばにいてもよろしいのですか!?」
「何でそうなるのよ!!……あなた、いつも本当に楽しそうよね」
「できるだけ楽しく生きようかなと思いまして」
「いい心構えね」
やっぱり、この間の中庭の時からユリィが優しい気がする。
心を許されたのかな?
なんだか嬉しいな。
「ナズナ」
あ……。
名前、初めて呼ばれたな。
私は笑顔をユリィに向けた。
「はい!」
「……」
ユリィは一瞬戸惑ったような顔をしたが、すぐにまた微笑んだ。
悪役令嬢な雰囲気なんてまとっていない。
ただの令嬢に見える。
「そろそろ弟と妹の誕生日なの」
「お、弟様と妹様ですか……?」
「何か……?」
ユリィは不思議そうな顔をした。
だって……。
生きているの?
アーサーが……。
アリスが……。
どうして?
まさか……。
『ユリィは転生者?』
私は日本語を喋った。
しかし、ユリィには通じていないようだ。
「どこの言語?」
「なんでもないです……」
ユリィはイレギュラーではないようだ。
安心なのかな?
まぁ、アーサー達が生きている理由はまた調べるかな。
「それで何ですか?」
「何をプレゼントしたらいいのか分からなくて」
プレゼントか。
何がいいのかと聞かれても、私に答えられるわけがない。
こっちのアーサー達と私の世界のアーサー達は性格が違うからなぁ。
うーん
「おーい!ナズナ!」
教室の入口でオーリスが私達を呼んでいた。
どうしよう、ユリィとのお話の最中なのにタイミング悪いな。
私はユリィを見た。
「考えて、明日にでも教えてほしいわ」
「ありがとうございます!」
そう言えばイアンがどっか行ったな。
ぶん殴ったことを謝ろうと思ったんだけど……。
まぁいいや。
私はオーリスの方へ行った。
オーリスは深刻そうな顔をしている。
分かったのかな。
イレギュラーが誰なのか。
オーリスに頼んで正解だった。
「分かったの?」
「候補だけどな。どうやらこの世界にも何人か異世界人の魂を持つものがいるらしい」
複数人いる?
みなさんごきげんよう!春咲菜花です!転生者が並列世界でもいることが判明しました!激アツ展開ですね!次回を書くのが楽しみですよ!みなさんもお楽しみに!よろしければレビュー、リアクション、グット、感想、ブクマをしてただけると嬉しいです!それではまた次回!




